高齢になると、食材の購入や調理に支障をきたす人が増え、その結果、体に必要な栄養が不足した「低栄養」状態になります。中でもたんぱく質不足は、筋肉がやせ細る、けがや病気が治りにくくなるなど、身体機能に多くの悪影響が出ます。そこでお勧めしたいのが、お金も手間もかからない「栄養バランスのいい手抜き料理(バランス栄養ご飯)」です。【解説】塩野﨑淳子(在宅栄養専門管理栄養士、介護支援専門員)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

塩野﨑淳子(しおのざき・じゅんこ)

管理栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)。2001年女子栄養大学栄養学部を卒業。長期療養型病院勤務を経て、2001年から訪問看護ステーションのケアマネジャーとして在宅療養者の支援を行う。現在は宮城県仙台市の機能強化型認定栄養ケア・ステーション訪問栄養サポートセンター仙台(医療法人豊生会むらた日帰り外科手術クリニック内)で、在宅訪問管理栄養士として活動している。著書『70歳からは超シンプル調理で「栄養がとれる」食事に変える』(すばる舎)が好評発売中。

高齢の人ほどたんぱく質をとって

近年、住み慣れた自宅で過ごしながら、医療ケアや介護サービスを受けるシニアが増えています。そんな人のお宅に伺って食事のアドバイスをするのが、在宅訪問管理栄養士である私の仕事です。

高齢になると、「経済的に苦しい」「足腰が弱って買い物がつらい」「手が不自由で包丁を握れない」などの理由で、食材の購入や調理に支障をきたす人が増えます。その結果、昼食があんパンだけになったり、3食全てがカップラーメンになったり……ということも珍しくありません。

問題は、このような炭水化物中心の食事が続くと、体に必要な栄養が不足した「低栄養」になること。中でも不足しやすいのが、たんぱく質です。

たんぱく質は、筋肉や臓器、皮膚など、体のあらゆる部分を作るのに必要な栄養素。不足すれば筋肉がやせ細る、けがや病気が治りにくくなるなど、身体機能に多くの悪影響が出ます。

ですから、高齢の人ほど、たんぱく質を意識的にとらなければなりません。

そこで私は、療養中や介護中でも栄養バランスのよい食事がとれる方法はないか模索するようになりました。

その結果たどり着いたのが、お金も手間もかからない「栄養バランスのいい手抜き料理(以下、*バランス栄養ご飯)」です。

惣菜や缶詰を上手に活用したい

私がバランス栄養ご飯を指導する際は、その人に合ったメニューを提案します。このとき考えるのが、黄金方程式である「たんぱく源+野菜+主食」の組み合わせです。これらを1食でそろえれば、効率よく栄養がとれます(詳細なやり方は下項参照)。

たんぱく源

肉や魚、卵、豆腐などのたんぱく質を含む食材です。ビタミンやミネラルもとれるので、栄養バランスも整いやすくなります。卵にはビタミンA、Dやミネラル、豚肉にはビタミンB群が豊富です。

野菜

大根やキャベツなどの色が薄めの単色野菜と、ホウレンソウやニンジンなどの色の濃い緑黄色野菜に分かれます。

後者の方がビタミン類が豊富なので、少量しかとれない場合はこちらを選ぶと効率的。両方を手軽にとるならば、数種類の野菜が入ったカット野菜や乾物を活用するとよいでしょう。

主食

ご飯や麺類など、体や脳を動かすエネルギー源となる食品です。近年は糖質制限が注目されていますが、高齢の人が行うと必要なエネルギー量を確保できず、低血糖状態が続くことで認知機能に影響を与える可能性があります。炭水化物は、必ずとるようにしてください

ただし、糖尿病の場合は、糖質コントロールが必要となります。病院の栄養相談などで、適切な摂取量を確認しましょう。

「たんぱく源+野菜+主食」を続けるには、市販の食材をうまく活用するのもポイントです。買い物や調理の負担軽減につながるお勧め食材を下で紹介しているので、参考にしてください。

なお、極端に食が細くなり、食欲そのものがない場合は、認知症や便秘などの病気が隠れている可能性があります。当てはまるときは、医師に相談するとよいでしょう。

買い物も調理もらくちん! 塩野﨑先生お勧めの食品

画像1: 【栄養バランスのいい手抜き料理】黄金方程式を守ればお金もかけず十分な栄養がとれる

【缶詰】
塩野﨑先生の自宅で常備しているのは、ツナ缶、減塩スパム缶、ササミ缶。どんな料理にも使える上、長期保存もできるので防災にも役立つ。ただし、握力が落ちてきた人には開けにくいのが難点。

画像2: 【栄養バランスのいい手抜き料理】黄金方程式を守ればお金もかけず十分な栄養がとれる

【乾物】
イチオシは切り干し大根。水で戻した切り干し大根をツナマヨネーズやカニカマとあえるだけで、簡単にサラダが出来上がる。海藻やニンジンなども入っている「ミックス乾物」もお勧め。

画像3: 【栄養バランスのいい手抜き料理】黄金方程式を守ればお金もかけず十分な栄養がとれる

【常備菜】
ショウガの甘酢漬けや松前漬けなどを買っておけば、気軽に1品増やせる。塩分が気になる場合は、食べる量に気をつける他、減塩調味料を活用して自分で作ってみるのもよい。

画像4: 【栄養バランスのいい手抜き料理】黄金方程式を守ればお金もかけず十分な栄養がとれる

【スーパーやコンビニの惣菜】
最近は、栄養バランスが考えられた弁当やおかずが豊富に出回っている。「たんぱく源+野菜+主食」がそろっている弁当や最近食べていない食材が含まれるおかずを選べば、飽きずに食事が楽しめる。

1皿で「たんぱく源+野菜+主食」がとれる! バランス栄養ご飯の組み立て方

1. 黄金方程式の「たんぱく源+野菜+主食=1食」を意識する

1種類ずつでもいいので、必ずこの3つがそろうように1食を組み立てる。特に、たんぱく源は必ずとるようにする。

たんぱく源のお勧め
ちくわ、魚缶、焼き鳥缶、豆腐など

野菜のお勧め
カット野菜、冷凍インゲン、冷凍ブロッコリーなど

主食のお勧め
パックご飯、食パン、冷凍うどんなど

2. どんな形でもいいから、必ず3食とる

食事量が少ないと、確保できる栄養も必然的に減ってしまう。簡単でもいいので、朝・昼・晩の食事は欠かさず食べるようにする。

3. 惣菜や加工品も工夫次第で健康的に

コンビニ弁当やインスタントラーメン、冷凍食品などの加工品は、黄金方程式を意識すれば栄養摂取に役立つ。カップラーメン(主食)にちくわ(たんぱく源)と冷凍ホウレンソウ(野菜)を入れるだけでもOK。

4. 栄養バランスは「3日単位」で考える

「今日は忙しくて、昼食がおにぎりだけになってしまった……」。そんな日の夜には、具材がたっぷりの鍋やみそ汁を食べればOK。「1日でこれだけ食べねばならない」と型にはめず、「3日単位でだいたいの栄養がとれればよい」と考えるべし。

5. 日頃の食生活に「ちょい足し」「ちょい引き」するだけでOK

ラーメンが好きなら具材を意識する、揚げ物が好きなら他のもので油をとらないなど、日頃食べているものから少し「足し引き」をするだけでよい。「何を食べなければならないか」ではなく、「何を食べたいか」を大切に献立を組み立てよう。

黄金方程式をらくらくクリア!バランス栄養ご飯の例

ご飯の例

ネギ+納豆の卵かけご飯

画像1: ご飯の例

ご飯の上に、納豆、ネギ、卵をのせる。冷凍ホウレンソウ入りのみそ汁とあわせれば、緑黄色野菜も補える。

チャーハン

画像2: ご飯の例

鶏ひき肉入りの冷凍チャーハンとミックスベジタブルをのせ、電子レンジで加熱する。

パンの例

ツナマヨトースト

画像1: パンの例

食パンにタマネギスライスをのせてツナマヨネーズをぬり、オーブントースターで焼き上げる。付け合わせにブロッコリーやプチトマトなどの野菜を添える。

ホットドッグ

画像2: パンの例

切り込みを入れたロールパンに、カットキャベツと火を通したソーセージを挟む。プチトマトなどの野菜を添える。

麺類の例

ネバネバぶっかけそば

画像1: 麺類の例

ゆでたそばの上に納豆、温泉卵、冷凍カットのオクラをのせ、めんつゆをかける。とろろを加えてもおいしい。

シンプル中華そば

画像2: 麺類の例

インスタントラーメンの表示通りに麺をゆで、スープを作る。青菜、チャーシュー、ネギ、ゆで卵とともに器に盛る。

[別記事:【低栄養改善のきっかけに】食生活は無理に変えないで!1杯の「即席茶わん蒸し」が料理嫌いの男性を変えた→

画像: この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年8月号に掲載されています。

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