解説者のプロフィール

馬渕知子(まぶち・ともこ)
マブチメディカルクリニック院長。2003年、東京医科大学医学部医学科卒業後、皮膚科学講座に所属し同病院に勤務。08年、マブチメディカルクリニックを開設し同院長に就任。内科・皮膚科学、アンチエイジング医療、分子整合栄養学を専門とするが、あらゆる科と提携し総合医療を推進。日本皮膚科学会、日本抗加齢医学会などに所属。また、医食同源を基礎に栄養学・調理学を学び学校法人食糧学院副学院長も兼務。「食」を担う学生の育成にも注力している。
肌に負担をかけずに老廃物だけを除去
私が炭酸の効果に興味を持ったのは、20代で医師になったばかりのころでした。
炭酸には血流をよくする作用があり、実際、海外では糖尿病患者さんの治療に使われる場合もあります。このような情報を耳にして、おもしろいと感じたのがきっかけです。
私の専門は皮膚科なので「炭酸は美容にも役立つのではないか」と着目。セルフケアに取り入れたところ、効果を実感しました。10年以上前からは、患者さんにも、炭酸を使った美容法を勧めています。
炭酸を美容に活用するメリットは、主に2つあります。
1つは、優れた洗浄力です。健やかで美しい肌を保つにはまず、汚れを落とすことが肝心です。
日焼け止めやファンデーションなどの化粧品の油脂が肌に残ると、肌トラブルの原因になるばかりか、毛穴に詰まって酸化。これが肌細胞にダメージを与え、毛穴の開きやくすみの原因となることがあります。
炭酸の働きとして、たんぱく質や脂質を溶かして落とす作用があります。毛穴の詰まりが取れれば、化粧水の保湿成分や美容成分の吸収もアップ。さらに炭酸水は普通の水よりも肌への浸透率が高いので、保湿のサポートとしても役立ちます。
炭酸は、古い角質の除去にも有効です。「ピーリング」という施術をご存じでしょうか。薬剤で角質をはがす方法ですが、刺激が強く、皮膚の薄い日本人には向かない場合もあります。
一方、炭酸の場合、気泡が角質などに付着し、浮かせることで汚れを落とします。いらない老廃物だけを適度に除去するので、肌に負担をかけません。
重曹とクエン酸で作るパックでシミなし美肌!
炭酸の持つもう1つのメリットは、血流改善効果です。
炭酸ガス、つまり二酸化炭素は、皮膚から毛細血管に入ると血管を拡張させます。血管が広がれば、血流が改善。酸素や栄養が、全身に行き渡ります。
肌の新陳代謝には、酸素や栄養が細胞に届き、十分に生かされることが不可欠です。肌トラブルや肌の老化は、ターンオーバー(肌細胞の生まれ変わり)が促進されることで改善に導かれるものも多くあります。
このような美容効果を引き出す使い方として、私が勧めているのが「炭酸パック」、「炭酸洗髪」、そして「炭酸入浴」です(やり方は下項を参照)。
市販の炭酸水や、炭酸美容液などを使ってもいいのですが、コストが高いと長く続けられません。そこで私は、重曹とクエン酸を使い、炭酸を手作りし、活用しています。
炭酸パックを習慣にすれば、開いた毛穴がキュッと締まり、ざらついた肌もツルツルになると期待できます。老廃物が取り除かれ、肌色がワントーンアップ。洗顔後、すぐに保湿しなくても、カサつきにくいのです。シワの一因は乾燥ですから、肌の保湿力が上がれば、小ジワ程度なら改善する可能性があります。
シミにも、効果が期待できます。できたシミを消すのは難しいですが、ターンオーバーのサイクルが整うことで、シミのできにくい肌になるはずです。

ざらついた肌もツルツル!
ここまで、主に顔の話をしてきましたが、酸素と栄養が大事なのは、頭も体も同じです。
炭酸の力で毛穴の皮脂詰まりが落ちて、頭皮の血流がよくなると、酸素と栄養が毛根に届きやすくなります。薄毛や抜け毛の予防に役立つでしょう。
また、入浴剤として湯船に入れれば血行を促進。体が温まりポカポカ感が長続きします。
私自身、炭酸パックを10年近く続けて、肌が以前より乾燥しなくなりました。アウトドア派なので、夏は海、冬は雪山で肌に紫外線を浴びていますが、シミのない肌を保っています。
炭酸洗髪は、40代に入ってからヘアケアとして始めました。おかげさまで今のところ、白髪は1本もありません。
お勧めした患者さんからも、「肌状態がよくなった」と好評です。ぜひ皆さんも、試されてはいかがでしょうか。
馬渕先生オススメ
炭酸美容のやり方
炭酸美容を行う際の注意点
●炭酸水が目に入らないよう注意する。
●炭酸パックと炭酸洗髪は、週に1~2回行う。炭酸入浴は毎日でもよい。
●いずれの方法も、刺激が強いと感じたら量や時間を調整し、肌に合わない場合は中止する。
《準備》
炭酸パウダーを作る(作りやすい分量)

・重曹…150g
・クエン酸…100g
※重曹3対クエン酸2の割合で用意する。
※重曹とクエン酸は食用の物を使用する。スーパーやドラッグストア、ホームセンターなどで購入できる。

◎重曹とクエン酸を混ぜ、密閉できる容器やチャックつき袋に入れて、湿気を防いで保管する。
※吸湿すると炭酸ガスが発生し粉が固まる。その場合はふたをそっと開けてガスを抜き、砕いて使う。シュワシュワ感が多少抜けるので、入浴剤にするとよい。
肌ツルツル!炭酸パック

❶小さく切ったガーゼまたは化粧コットンを手に広げ、面の半分に炭酸パウダーを適量振る。パウダーを挟むようにして半分にたたむ。

❷①に少量の水を垂らし、シュワシュワと泡が出たら、気になる箇所に貼りつける。1~2分おいてはがし、肌を水で洗い流してから、ふだんどおり保湿する。
※まずは少量を腕の内側など目立たない場所に貼りパッチテストを行う。赤みやピリピリ感を生じることがあるが、洗い流してしばらくすると消える。肌に合わない場合は中止する。
頭皮スッキリ!炭酸洗髪

❶洗面器に大さじ1杯の炭酸パウダーを溶かし、炭酸水を作る。その中に頭を浸すか、炭酸水を頭にかけて、頭皮をもむように洗う。
❷水でよくすすいでから、ふだんどおりシャンプーをする。
全身さっぱり!炭酸入浴
◎大さじ4~5杯の炭酸パウダーを、入浴する直前に湯船に入れ、ふだんどおり入浴する。
※吸湿して固まった粉はシュワシュワ感が多少抜けるので、入浴剤にするとよい。

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
www.makino-g.jp