解説者のプロフィール

満倉靖恵(みつくら・やすえ)
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授。1999年より徳島大学工学部助手、2002年より岡山大学専任講師などを経て、11年より慶應義塾大学理工学部准教授。18年より教授、現在に至る。博士(工学)博士(医学)。医工連携に力を入れ、特に脳波をはじめとした生体信号解析、脳波によるリアルタイム感情認識、脳神経科学、認知症発生メカニズムの解明、遺伝子解析、ゲノム編集、睡眠解析、音声認識・画像処理などをキーワードとし、幅広い分野で研究を行う。
脳波を調べてさまざまな感性の強さを推定できる
人の感覚や感情というのは、主観的なもので、対比できません。けれどもそれらの度合いを数値で表すことができたら、おもしろいと思いませんか。
今回お話しするのは、「炭酸水」の飲用が感性に与える影響についてです。2019年に、学会で発表しました。
炭酸水を飲むと「スッキリ」「さわやか」といった感覚が得られますが、それらはあくまで個人的な印象にすぎません。
炭酸水を飲んだとき、脳をはじめとした体の中で何が起こっているのか。検証したところ、驚きの事実が判明しました。
私は脳波や脈波などの生体信号から特徴を取り出し、人間の感性を「数値で見える化」する研究を行っています。脳波は、脳の活動による電気信号を脳波計で記録したものです。
ある感性が強くなると、血液中の物質に変化が生じることがわかっています。例えば、ストレスを受けるとコルチゾールというホルモンの分泌が増える、といったぐあいです。
こうした血液中の物質の変化を脳波と関連づけたデータを、長年の研究で蓄積しました。最終的には脳波を調べるだけで、さまざまな感性の強さを推定することが可能となったのです。
炭酸水の実験には、20~50代の会社員52名に協力してもらいました。まず、全体を26名ずつに分け、それぞれを【強炭酸水と水】を飲み比べる群と、【弱炭酸水と水】を飲み比べる群とします。そのうえで、公正を期し「先に炭酸水を飲む群」と「先に水を飲む群」、それぞれ13名ずつに分けました。飲む量はいずれも100mlです。
被験者には私が開発に携わった「感性アナライザ」という機器の脳波測定バンドを装着してもらいます。測定した脳波を、これまで蓄積してきたデータと照らし、感情の動きを分析しました。
歯磨きや入浴よりも脳を目覚めさせる!
指標としたのは、「集中度」「覚醒度」「爽快度」「前向き度」の4つです。
実験の結果、特に【強炭酸水と水】を飲み比べた26名の群の「集中度」と「覚醒度」に有意差が見られました。

まず「集中度」(グラフ左)について。何もしない安静時を1とすると、水を飲んだあとの集中度は1.01倍と、ほぼ変わりません。
ところが、強炭酸水を飲んだあとは、これが1.18倍に上昇しました。これはつまり、約1時間かかる作業を、50分で完成させるほど集中度が高まったことを意味します。大きなメリットではないでしょうか。
「覚醒度」(グラフ右)についても、予想以上の結果でした。
覚醒度とは、同じ作業を続けても退屈さや眠気を感じない、つまり「やる気」を表す指標です。この実験では飲用中の脳波も測定しました。
安静時を1とすると、普通の水を飲んでいるときの覚醒度は2.22倍でした。水を飲むだけでも覚醒することを示します。
対して、強炭酸水を飲んでいるときは、なんと2.90倍と、高値を示しました。ちなみに、日常生活における例を挙げると歯磨きの覚醒度は2倍弱、入浴が2倍強。また、これは非日常ですが、最大の声量で3秒間絶叫したときは2.5倍です。
すなわち、眠いときや退屈したときには、歯磨きや入浴よりも、強炭酸水を飲むほうが脳が覚醒するというわけです。
なぜ、こうした変化が起こるのでしょうか。
炭酸水を飲むと、血液中に二 酸化炭素が取り込まれます。血液中の二酸化炭素量が増えると、酸素濃度を上げるため血管が広がり、血液量が増えます。脳に流れる血液の量が変わり、心拍にも変動が起こって、自律神経の活動も変化。自律神経は、内臓の働きや体温調節、ホルモンの分泌など生命維持に必要な機能を統御しています。
血液中の物質の変化は、感情や感性と密接な関係があり、これが脳波に表れています。炭酸水を飲んだときの、頭がクリアになり物事に集中できる感じやシャキッと目覚める感じが、この実験で科学的に裏づけられたというわけです。
自身はこれまで、集中力が切れたときや眠くなったときにコーヒーを飲んでいました。けれども実験を経て、その効果を知って以来、強炭酸水を活用しています。確かに、頭が冴えて仕事の効率が上がるように感じています。
レモン果汁などをしぼって加えるのも、お勧めです。香りによる覚醒作用も期待できるでしょう。ぜひ皆さんもリフレッシュタイムに、炭酸水を活用してみてください。
[別記事:市販の炭酸水を一挙紹介!スーパーやコンビニでまずは手に取って試してみよう→]

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
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