解説者のプロフィール

白畑敦(しらはた・あつし)
しらはた胃腸肛門クリニック横浜院長。2002年、昭和大学医学部を卒業後、同大学藤が丘病院消化器外科に臨床研修医として入局。04年より助教。山王台病院、関東労災病院に勤務し、12年に横浜旭中央総合病院に着任、昭和大学藤が丘病院にて講師を兼任。17年にしらはた胃腸肛門クリニック横浜を開業、地域医療に従事。親身で丁寧な診療・治療に定評がある。医学博士。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本大腸肛門病学会専門医。
さまざまな角度から便秘解消に役立つ
私は消化器外科、なかでも大腸・肛門外科を専門としています。クリニックには、痔や排便障害に悩むかたが多く訪れますが、そうした患者さんは、たいてい便秘症です。
慢性的な便秘は痔の発症につながるうえ、症状を悪化させる要因にもなります。逆にいえば便秘の解消は、痔の改善に直結します。もちろん、お尻のトラブルのみならず、便秘はさまざまな病気を招くので、放置は禁物です。
そこで私は、便秘に悩むかたに「炭酸水」を飲むことを提案しています。炭酸水とは、味のついた炭酸飲料ではなく、二酸化炭素(炭酸ガス)が溶け込んだ無糖の水のことです。
なぜ、炭酸水が便秘の改善に役立つのでしょうか。いくつかの理由が考えられます。
まず挙げられるのが、炭酸が胃に入ったときの物理的な刺激です。炭酸水を飲むと、ガスで胃が膨らみます。これが刺激となり胃酸の分泌が促されると、消化が促進。便秘解消につながります。ちなみに、炭酸ガスの刺激を作用機序とする便秘薬(座薬)もあります。
次に、二酸化炭素による血流改善作用です。炭酸水の二酸化炭素が消化管で吸収され血管内に入ると、血液中の二酸化炭素濃度が上昇します。すると、体が「このままでは酸欠になってしまう」と判断。血管を拡張させ、酸素を取り込もうとするので、血流がよくなります。
腸の血流がよくなれば、その動きも活性化します。結果的にスムーズな排便が促されるというわけです。
さらに、炭酸水を飲むと、私たちの体をコントロールしている自律神経のうち副交感神経が活発になるといわれています。
副交感神経は腸の機能をつかさどるので、そうした観点からも、炭酸水は胃腸の機能アップに貢献します。このようにさまざまな角度から、炭酸水を飲むことは便秘解消に役立つというわけです。
おなかの冷えは便秘を悪化させるおそれがある
冷やした炭酸水はのどごしがよく爽快感がありますが、便秘解消を目的とするなら、常温で飲むことをお勧めします。
というのも、おなかの冷えは腸の機能を低下させるため、冷たい飲み物は、かえって便秘を悪化させるおそれがあるのです。起床時にコップ1杯(200ml)の炭酸水を常温で飲めば、腸が刺激されて動きだすでしょう。
お勧めなのが、炭酸水に、小さじ1~2杯の酢をプラスする飲み方。酢には、マグネシウムをはじめとしたミネラルや、クエン酸などの有機酸が含まれています。
マグネシウムは便をやわらかくする作用があり、便秘薬として使われることもあります。それらミネラルの取り込みを、クエン酸が促進。加えて、酢酸の刺激それ自体も、炭酸水の刺激と相乗して胃腸を刺激します。酢を入れた炭酸水は、便秘解消にもってこいです。
「炭酸水の酸が、歯を溶かすおそれがある」といわれますが、炭酸水だけのときはもちろん、酢を加えた場合でも、口の中に長時間とどめなければ、心配はいりません。気になる人は、飲んだあとに水で口をゆすいでおくといいでしょう。
便秘の解消以外にも、炭酸水に期待できる効果はいろいろあります。先に述べたとおり、飲むとガスで胃が膨らむので、食欲を抑えるのに有効です。うまく活用すれば、肥満の予防・改善に役立ちます。
また、血流がよくなるので、手足の血行が促され、冷えが改善する可能性があります。代謝が向上するので、肌荒れやくすみが改善するなど、美容にもいい効果が見込めるでしょう。
私自身も、数年前から炭酸水を活用しています。夕食時、以前は「とりあえずビール」でしたが、その前に必ず、コップ1杯の炭酸水を飲むようにしたところ、ビールの量を減らすことができました。
さらに、炭酸水をチェイサーがわりに飲むと、二日酔いしません。食べ過ぎも防ぐことができるので、肥満予防になると実感しています。
ただ、胃潰瘍や逆流性食道炎など、胃や食道に症状がある人は、炭酸水は控えたほうが無難でしょう。胃酸の分泌が促されることで、かえって症状が悪くなるおそれがあります。
特に胃に問題がなく便秘ぎみのかたは、ぜひ炭酸水の飲用を習慣にしてみてください。きっといい変化があるでしょう。

炭酸水に期待できる効果
●消化促進 ●便秘解消
●血流改善 ●冷え解消
●代謝アップ ●美肌
●肥満予防 など
[別記事:市販の炭酸水を一挙紹介!スーパーやコンビニでまずは手に取って試してみよう→]

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
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