解説者のプロフィール

品川弥人(しながわ・ひさひと)
しながわ内科・循環器クリニック院長。2000年、北里大学医学部卒業。06年、北里大学大学院医療系研究科修了。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器内科専門医。02年より北里大学病院、沼津市立病院、竹田綜合病院を経て、06年から15年まで北里大学医学部循環器内科学教室助教を務める。15年からしながわ内科・循環器クリニックに勤務。論文執筆や教科書執筆なども精力的に行っている。
高血糖には有酸素運動とレジスタンス運動が有効
私は内科・循環器のクリニックの院長を務めています。同時に、ブログやYouTubeでさまざまな疾病について解説しています。
今回は、こうしたウェブ上でも取り扱っている、糖尿病の運動療法と「片足立ち」について、詳しくお話ししましょう。
糖尿病を含む高血糖の運動療法は、次の2つが推奨されています。
❶有酸素運動:ウォーキングやジョギング、水泳といった全身運動
❷レジスタンス運動:腹筋やダンベル、スクワット、腕立て伏せなどの筋力をつける運動
これらの運動療法は、以下のような効果が期待できます。
●血糖や脂肪が燃焼して、血糖値が下がる
●長期の効果としてインスリン抵抗性が改善する
●筋力を維持し、体力低下や骨粗鬆症を予防する
●血圧や脂質異常が改善する
●認知症を予防する
●ストレスやうつ状態が改善する
有酸素運動は、エネルギーを多く使い脂肪を燃焼させて、血糖値を改善します。
レジスタンス運動は、筋肉に抵抗をかけて筋力を増強することで、インスリン(血糖値を下げるホルモン)が効きやすい体質にしていきます。
ですので、糖尿病の治療では、薬物療法や食事療法とともに、積極的に運動療法に取り組むことがたいせつです。
有酸素運動は1回20~60分間、週に合計150分以上行うことが勧められています。これに加えて、週2~3回のレジスタンス運動を組み合わせることで、血糖値や中性脂肪が低下するというデータがあります。
こうした運動療法が高血糖の改善につながるのです。
体力づくりや骨粗鬆症の予防に片足立ちがお勧め
とはいえ、運動不足の人や筋力が低下している人が、いきなりジョギングやスクワットといった運動を行うのは難しいのではないでしょうか。
こうした運動は継続することが重要ですが、長続きもしづらいでしょう。また、まとまった時間が取れない、腰やひざが痛む、といった理由でできない人も少なくないと思います。
そんな人にお勧めできるのが、バランス運動です。これは片足立ちやステップ練習、体幹のバランス運動といったものを指します。
バランス運動のなかでも、私が特にお勧めするのは「片足立ち」(やり方は下項参照)です。
片足立ちは、少ない負荷で筋肉を増強でき、体力づくりに役立ちます。つまり、特に有酸素運動やレジスタンス運動ができない人には、片足立ちが高血糖の運動療法の入門編として適しているといえるでしょう。
また、糖尿病と骨粗鬆症は密接な関係があります。
糖尿病になると、高血糖やそれによる酸化ストレス、インスリンの作用不足によって、骨の新陳代謝が低下。さらにインスリンの作用不足は、腸でのカルシウム吸収の低下を招きます。こうしたことから、糖尿病の人は骨粗鬆症になりやすいことがわかっています。
片足立ちは、両足で立つのと比べて2.75倍の負荷が骨にかかるので、骨密度アップも期待できます。体力づくりのほかに、骨粗鬆症予防としても有効なのです。ですので、有酸素運動やレジスタンス運動ができない糖尿病の人は、積極的に片足立ちを行いましょう。
もちろんこうしたことは、糖尿病や高血糖に限った話ではありません。筋力が低下しやすく、骨粗鬆症になりやすい高齢者にも片足立ちはお勧めです。フレイル(心身が虚弱した状態)の改善や予防に役立つでしょう。
ひざや腰に痛みがある人やバランスがほとんど取れない人は、主治医に相談したうえで、できる範囲で行いましょう。無理はしないでください。
片足立ちを続けて筋力がアップすると、転びやすい、つまずきやすいといった状態が改善できて、新しい運動への意欲もわいてくるはずです。
まずは、いつでもどこでもできる片足立ちから始めてみてはいかがでしょうか。
品川先生お勧めの
片足立ちのやり方
※①、②を1セットとして、1日3セット行う。食前など、日常的な習慣とひもづけて行うとよい。
※早朝に血圧が高い人は、なるべく早朝は避けたほうがよい。
※慣れてきたら、1分を目標にして行う。30秒が難しい場合は、まずは10秒からでもかまわない。
※さらに慣れてきたら、壁や机から手を少し離して行う。
※無理をせずにできる範囲で行う。
❶壁や机に片手を着く。右足を5cm程度浮かせて30秒キープする。
❷左足を5cm程度浮かせて30秒キープする。


この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
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