高齢になると、筋力とともにバランス感覚も低下します。私がふらつきのある患者さんに指導している「ふらつきリハビリ体操」から、「片足立ち」と「50秒足踏み」をご紹介しましょう。体がフワフワするような「浮動性めまい」、体が不安定になる「不安定めまい」にも効果的です。【解説】新井基洋(横浜市立みなと赤十字病院めまい・平衡神経科部長)

解説者のプロフィール

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新井基洋(あらい・もとひろ)

横浜市立みなと赤十字病院めまい・平衡神経科部長。1964年、埼玉県生まれ。89年、北里大学医学部卒業後、国立相模原病院、北里大学耳鼻咽頭科を経て現職。95年に「健常人OKAN(視運動性後眼振=めまい)」の研究で医学博士取得。96年、米国ニューヨークマウントサイナイ病院において、めまいの研究を行う。日本めまい平衡医学会専門会員、代議員。著書に『めまいは自分で治せる』(マキノ出版)、『全国から患者が集まる耳鼻科医のめまい・ふらつきの治し方』(KADOKAWA)など多数。

深部感覚と筋力の低下がふらつきを招く

ふらつきは、体の平衡機能がうまく働かないことによって起こります。

人間の体の平衡機能は、目からの視覚情報と、内耳の三半規管と耳石が感知する体の傾きなどの情報、「深部感覚」と呼ばれる足裏から伝わる感覚の情報が、小脳に伝えられることによって働いています。

小脳は、目と内耳、足裏から届く3系統の情報を総合的に判断し、体のバランスを保つための運動指令を全身の筋肉に送ります。

体の深部感覚は、脳卒中や脊髄疾患、多発性硬化症などが原因で異常が生じることもありますが、加齢の影響で衰えやすいという特徴もあります。

65歳になると、体の神経伝達の速度は10%落ちるといわれていますが、下半身の深部感覚は、なんと60%も落ちてしまいます。深部感覚が衰えると、体が揺れているのに揺れを感じなかったり、現実よりも揺れていると感じたりします。

高齢者にふらつきが多い理由の1つに、加齢などの影響で深部感覚が鈍くなっていることが挙げられます。

同時に、筋力の低下も見逃せません。

体が傾いたり足もとが不安定になったりすると、体はそのつど倒れないように重心を微調整してバランスを取ろうとします。

このとき、さまざまな筋肉が使われます。「抗重力筋」と呼ばれる背中の深部にある脊柱起立筋、お尻の大殿筋や中殿筋、太ももの大腿四頭筋やハムストリングス、ふくらはぎの下腿三頭筋などがその代表です。

全身の筋肉のなかでも、特に下半身の抗重力筋は加齢の影響で落ちやすいのです。

片足立ちや足踏みで左右の苦手を把握しよう

私はふらつきのある患者さんに「ふらつきリハビリ体操」を指導しています。なかでも代表的な「片足立ち」と「50秒足踏み」(やり方は下項参照)をご紹介しましょう。ふらつきがある人は、ぜひ実践してください。

片足立ちは、足裏から伝わる深部感覚の感度を高め、下半身の抗重力筋を鍛える訓練です。

同時に、今の自分の状態を知るテストでもあります。まず最初に片足立ちを行ってください。左右の足を比べると、どちらかが上げにくかったり、体がぐらつきやすかったりするはずです。

不得意な側の足は、バランス感覚や筋力が弱く、転倒しやすい足です。左右どちらか把握し、該当する側は回数や時間を増やして実践してください。

片足立ちに慣れてきたら、50歩足踏みも併行してください。このリハビリは足の動きが加わるうえ、両手を前へ上げて行うので、ふらつきを助長する体勢になります。左右どちらが苦手な足か、露骨に感じるはずです。

ほかの人に手を持ってもらって行うと、支えている人も手の感触ですぐにわかります。

最初は、目を開けて壁や机、イスの背もたれなどにつかまって行います(下項Ⓐ)。足踏みを練習するとともに、片足立ちと同様、不得意な側の足を意識して行いましょう。

慣れたら、手を離して行います(下項Ⓑ)。これも安定してできるようになったら、目をつぶりほかの人に両手を添えてもらって実践しましょう(下項Ⓒ)。

目をつむるリハビリを行うと、ふらつきのある人は、しだいに体の向きが正面から変わっていきます。その変化した体の向きぐあいで、どこまで外出できるかの目安も立てられます。目をつむって行うからこそできる判定です。

体の向きの変化が左右45度以内で収まるなら、外出しても比較的問題ありません。左右45~90度内のときは、近場の外出はOK。左右90度を越えるなら、外出は控えてください。

ふらつきリハビリ体操は、一部のめまいにも有効です。めまいには、グルグルと回るように感じる「回転性めまい」、体がフワフワするような「浮動性めまい」、体が不安定になる「不安定めまい」があります。

このなかで、浮動性めまいと不安定めまいに効果的です。回転性めまいは、主に内耳の異常や病気が関与しているので適していませんが、回転性めまい発症後のふらつきには効果があります。

例えば、メニエール病によるめまいは、回転性めまいが治まったあと、浮動性めまいが残ることがあります。この場合は、ふらつきリハビリ体操で改善できます。

メニエール病の治療が一段落して、聞こえぐあいの変化がなくなったあともふらつきを伴う場合は、ふらつきリハビリ体操を試すとよいでしょう。

高齢になると、筋力とともにバランス感覚も低下します。そのため、ふらつきやすく、ちょっとつまづいただけで転倒しやすくなります。転倒して骨折すると、寝たきりやフレイル(心身が虚弱した状態)、認知症のきっかけとなるおそれもあります。

ふらつきや転倒を防ぐ意味でも、ふらつきリハビリ体操でバランス感覚の強化と筋力アップを目指してください。

ふらつきリハビリ体操のやり方

片足立ち

1日2回を目安に、毎日行う。安定してできるようになったら、「50歩足踏み」を併せて行う。

片手を壁について、右足を上げて5秒キープする。目は開けたまま行う。
左右の足を入れ替えて、①と同様に行う。
※行いづらい側の足で行うときは、回数や時間を増やす。
※慣れてきたら10秒、15秒、20秒と、少しずつ片足立ちの時間を延ばしていく。高齢者の場合は、30秒を最終目標にする。

画像1: 片足立ち

50歩足踏み

1日2回を目安に、「片足立ち」と併行して毎日行う。最初はⒶから行い、安定してできるようになったら、Ⓑ、Ⓒと段階を踏んで行う。


壁や机、イスの背もたれなどに両手でつかまって、その場で50回、大きくゆっくり足踏みをする。目は開けたまま行う。安定して行えるようになったら、かわりにⒷを行う。
※イスの前方の脚が浮かないようにする。ネコ背にならないように、自分の身長に合った安定性が高いイスを選ぶ。

画像2: 片足立ち


両手をまっすぐ前へ伸ばし、肩の高さまで上げる。何もつかまらずに、その場で50回、大きくゆっくり足踏みをする。目は開けたまま行う。足がその場からあまりずれず、安定してできるようになったら、かわりにⒸを行う。

画像3: 片足立ち


ほかの人に手を添えてもらったうえで、目をつむってⒷを行う。一人で行わない

画像4: 片足立ち
画像: この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。

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