体の動きを健やかに維持するためには、筋力とバランス能力を健全に維持することが重要です。そこで勧められるのが「片足立ち」です。片足立ちはひざ痛にも有効です。ひざ関節周辺の筋肉を鍛えると、正しく曲げ伸ばしできるようになり、軟骨に負担がかからず、変形性ひざ関節症の進行原因である炎症を止められるのです。【解説】石橋英明(伊奈病院副院長・整形外科科長)

解説者のプロフィール

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石橋英明(いしばし・ひであき)

1986年、東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院、三井記念病院、東京都老人医療センター、東芝中央病院などに勤務。96年に医学博士を取得後、米国ワシントン大学に留学。その後、東京都老人医療センター整形外科医長を経て、2004年より伊奈病院整形外科科長。05年、NPO法人高齢者運動器疾患研究所を設立。骨や関節、筋肉、神経などにかかわる病気をわかりやすく伝える講演会や動画配信を行っている。

姿勢を制御する能力と下半身の筋肉を強化する

加齢とともに、若いときと比べて歩くのが遅くなった、と感じる人は多いのではないでしょうか。また、長い時間歩けなくなった、転びやすくなった、という人もいるでしょう。

こうした変化の多くは、筋力とバランスの低下が原因です。体幹や下肢の筋肉が衰えると、足の運びがスムーズにできなくなり、歩行が遅くなります。またバランス、つまり姿勢や体の動きをコントロールする機能が低下すると、体の傾きを修整することが困難になって、転びやすくなります。

したがって、体の動きを健やかに維持するためには、筋力とバランス能力を健全に維持することが重要です。

そこで勧められるのが、「片足立ち」(やり方は下項参照)です。片足立ちがもたらす効果は、大きく分けて2つあります。

バランスを鍛える

そもそもバランスとは、姿勢を制御する能力です。筋肉は、脳から送られてくる指令に応じて、姿勢を思うように動かしたり、静止させたりします。

片足立ちを続けている間、足首やひざ、股関節や体幹などの周囲の筋肉が上手に働いてまっすぐ起立した状態を保ちます。

つまり、体が少し傾くとさまざまな筋肉が瞬時に働いて姿勢を元に引き戻しているのです。こうしたバランス調整をくり返すことにより、スムーズかつ瞬発的に反応する筋肉の働きが鍛えられて、姿勢を制御する能力が高まります。

下肢の筋肉を鍛える

バランス力が高い人は、下半身の筋肉をあまり使わなくても片足立ちができます。一方、バランス力が低い人が行うと、下半身のさまざまな筋肉をずっと使い続けることになります。

実際に1分、片足立ちをしてみましょう。バランス力が低い人は、かなり疲れると思います。こうした人にとって、片足立ちはほどよい下半身の筋トレになるわけです。

こうした理由から、片足立ちはバランス力の改善や下半身の筋肉の強化、ひいては歩行の安定性向上や転倒予防につながります。

ひざ周りの筋肉が軟骨のすり減りに関与している

加えて、片足立ちはひざ痛にも有効です。

中高年のひざ痛の大きな原因は「変形性ひざ関節症」です。この病気は、ひざの軟骨がすり減って関節の中で炎症が起こり、ひざが痛くなったり、腫れたり、水がたまったりします。

重要なのは軟骨に負担をかけないこと。そのためには、ひざ関節周辺の筋肉をしっかり強化することがたいせつです。

ひざ関節は、太ももの骨とすねの骨が4本の靱帯でつながってできています。しかし靱帯でつながっているだけでは、関節はグラグラします。

これをしっかりと支えているのが筋肉です。ひざ関節周辺の筋肉を鍛えると、ひざ関節は安定して、正しく曲げ伸ばしできるようになります。

その結果、軟骨に負担がかからず、すり減るのを抑えられて、変形性ひざ関節症の進行原因である炎症を止められるのです。運動することで筋肉を強化すると、巡り巡って痛みが和らいでいくわけです。

逆に、ひざ関節周辺の筋肉が衰えると、ひざ関節は不安定になります。軟骨に過度な負荷がかかり、さらに軟骨がすり減って、変形性ひざ関節症が進行してしまいます。

そもそも、変形性ひざ関節症のスタートは軟骨のすり減りです。筋肉の衰えは、変形性ひざ関節症の発症も招くのです。

前述のとおり、片足立ちは下半身の筋肉を鍛えます。もちろんひざ周辺の筋肉も含まれるので、こうした理由から、変形性ひざ関節症の予防や悪化防止、痛みの緩和に一役買います。

ただしО脚がひどくなるほどひざが悪化している人は、片足立ちを控えてください。ひざにかかる負荷が大きく、さらに痛みが増える可能性があります。

片足立ちで立てる時間の長さは、ロコモティブシンドロームが進行している状態の「運動機能不安定症」の診断にも使われています。理屈としても対策としても、病気の判定としても有用な片足立ちを、ぜひ習慣にしてはいかがでしょうか。

石橋先生お勧めの
片足立ちのやり方

※机やイス、壁など、転びそうなときにすぐつかまれる物の近くで行う。
※転倒の心配がある人は、机やイスに手や指を着いて行う。
※1日3回行う。食直後以外なら、いつ行ってもかまわない。
※ひどいО脚を伴うひざ痛がある人は控える。

右足を5~10cm床から浮かせて、左足で1分立つ。
左右の足を入れ替えて、①と同様に行う。

画像: 石橋先生お勧めの 片足立ちのやり方
画像: この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。

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