解説者のプロフィール

平泉裕(ひらいずみ・ゆたか)
昭和大学医学部整形外科学講座/スポーツ運動科学研究所客員教授、成城リハケア病院病院長/整形外科・スポーツクリニック勤務。専門は脊椎脊髄外科、スポーツ医学。中学、高校時代はラグビー部、大学時代は水泳部に所属し、現在もトライアスロンに挑み続けるなどスポーツに造詣が深く、日本スポーツ協会公認スポーツドクターなども務める。
筋肉とともに反射回路を鍛えることが重要
当院では、患者さんだけでなく私たちスタッフも日ごろから「かかしのポーズ」を行っています。
これはリハビリ訓練からスポーツのトレーニングまで、広く用いられている体操です。総合的な運動機能や運動能力を高めるので、身体機能が低下した高齢者からアスリートまで、どんな人にも有効なのです。私はよくランニングの前に実践しています。
私たちが歩く、走る、階段を上り下りするといった運動をするときには、「足裏などにある感覚器からの情報が、脊髄を通って脳へ届き、さらに脳が筋肉へ指令を出す」という一連の流れがあります。これを反射回路(反射系)といいます。
そして、筋肉とともに反射回路も鍛えるストレッチを「動的ストレッチ」(ダイナミックストレッチ)といいます。運動機能を高めるには、こうしたストレッチが重要です。
かかしのポーズは、体幹や下半身の筋肉を鍛えるとともに、反射回路やバランス感覚を強化する動的ストレッチです。歩行能力の向上や転倒予防、股関節痛の改善など、幅広い効果が期待できます。
その主な理由は、バランスをしっかり取って片足立ちすることにあります。日常のあらゆる動作には、必ず片足立ちになる瞬間が含まれます。片足で立っても姿勢がくずれないことは、スムーズな歩行や転倒予防に欠かせない要素です。
加えて、片足立ちは骨盤と大腿骨(太ももの骨)をつなぐ中殿筋を鍛えます。骨盤のバランスが保たれて、股関節痛の改善に役立つでしょう。
また股関節痛は、炎症により股関節周囲の筋肉が緊張して、かたくこわばっています。筋肉が緊張していると、関節の内圧が上がってさらに痛みが増す、という悪循環に陥ります。
かかしのポーズには、股関節を回すメニューがあります。無理のない範囲で続けると、周辺の筋肉の緊張が、しだいに緩みます。それとともに、股関節の痛みも和らいでいくのです。
最初は小さくしか回せなくても、だんだんと大きく回せるようになるでしょう。
何歳になっても元気で歩ける体づくりに役立つ
それでは、かかしのポーズについて説明しましょう。複数のステップがあり、ステップ1から順に実践します(やり方は下項参照)。
大きくふらつく、両足が着いてしまうなど、安定して行えないステップがあったら、次のステップには進みません。そのステップができるようになるまで取り組みましょう。
ステップ1は基本の片足立ちです。まずは安定してこれができるようになりましょう。うまくできない人は、壁などに手を着きながら行ってもかまいません。慣れてきたら、手を離して取り組みます。
ひざや股関節に痛みがある人は、ステップ2は無理のない範囲で行います。慣れてきたら、より深くひざを曲げたり、より大きく股関節を回したりしましょう。
ステップ3は、かなり高難度です。転倒に十分気をつけてください。特に高齢者や筋力があまりない人、骨が丈夫でない人は、無理をしないでください。
以前と比べて歩くスピードが落ちた、歩くとすぐ疲れる、歩くと体のどこかが痛くなるという人は、ぜひ、かかしのポーズを毎日の習慣にしていただきたいと思います。何歳になっても元気で歩ける体づくりに、大いに役立つはずです。
平泉先生お勧めの
かかしのポーズのやり方
毎日1回は実践する。最初はステップ1から行う。両手を広げてバランスを取りながら行うとよい。
ステップ 1
❶右足を5cmほど上げて、10秒キープする。
❷左右の足を入れ替えて、①と同様に行う。
※できない人は、壁などに手を着いて練習する。慣れたら手を離して取り組む。
※手を離しても、ふらつかず安定してできるようになったら、ステップ2を行うようにする。

ステップ 2-A
ステップ 2-Bと併せて行う。どちらを先に行ってもよい。
❶右足を5~10cm上げる。右足が床に着かないように、左ひざを軽く曲げてゆっくりと腰を落とし元に戻す。これを10回行う。
❷左右の足を入れ替えて、①と同様に行う。
※ひざが痛む人は、無理のない範囲で行う。
※安定してできる場合は、回数を増やしたり、ひざを深く曲げて行ったりするとよい。

ステップ 2-B
ステップ 2-Aと併せて行う。どちらを先に行ってもよい。
❶右足を高く上げて、右の股関節を1周外側に回す。
※股関節が痛む人は、足を小さく回す。無理のない範囲で行う。

❷右足を高く浮かせたまま、まっすぐな姿勢を取って3秒静止する。軸足にしっかり重心を乗せる。

❸右足をまっすぐ前に下ろして、軽く一歩踏み出す。

❹左右の足を入れ替えて、①~③と同様に行う。
❺右足を高く上げて、右の股関節を1周内側に回す。その後、②~③を同様に行う。
❻左右の足を入れ替えて、⑤と同様に行う。
❼①~⑥を10回くり返す。
※室内などあまり広くない場所で行う場合は、一歩踏み出した足を元の位置に戻して続けるとよい。
ステップ 3
ステップ2のAB両方が、ふらつかず安定してできるようになってから行う。
※高難度なので、無理をせず十分に気をつけて行う。
❶右足を高く上げ、まっすぐな姿勢を取って3秒静止する。軸足にしっかり重心を乗せる。

❷両手の先を、左足の指先にゆっくりタッチする。

❸①の姿勢に戻り、同様に静止する。

❹右足をまっすぐ前に下ろして、軽く一歩踏み出す。

❺左右の足を入れ替えて、①~④と同様に行う。
❻①~⑤を10回くり返す。

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
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