解説者のプロフィール

伊賀瀬道也(いがせ・みちや)
愛媛大学医学部附属病院抗加齢予防医療センター長。愛媛大学大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授。1991年、愛媛大学医学部、99年、同大学院卒業。同大学にて、抗加齢(アンチエイジング)医学研究を行う抗加齢センターの立ち上げに尽力。脳卒中、認知症、フレイル・サルコペニアなどの予防について、臨床研究を行う。最新刊に『1分ゆるジャンプ・ダイエット』(冬樹舎)がある。
片足立ちが苦手な人は認知症のリスクが高い
当センターは、体の老化具合を検査する抗加齢ドックの運営に携わっています。同時に、受診者のデータをもとに、抗加齢(アンチエイジング)の研究を進めてきました。
そうしたなかで「片足立ち」は、老化や種々の病気と関連していることがわかってきました。今回は、特に脳や認知症について、研究でわかったことを紹介しましょう。
私たちの抗加齢ドックでは、2006年の運営開始時から「片足立ち検査」を取り入れています。これは片足でどれくらい立っていられるか、バランス力を測る検査です。受診者の平均年齢は約65歳で、片足立ちができる時間の平均は約50秒です。
この検査結果と、脳の血管の関連性を調べたところ、片足立ちができる時間が短い人ほど、隠れ脳出血(微小脳出血)や隠れ脳梗塞(無症候性ラクナ梗塞)を発症しているケースが多いことがわかりました。
●片足立ち時間と隠れ脳梗塞、隠れ脳出血の関連性

Tabara Y, et al. Stroke. 2015; 46: 16-22. をもとに作図
また、脳の萎縮との関連性を調べると、片足立ちを40秒以上できない人は、海馬(記憶を司る脳領域)が萎縮している可能性があることが判明(下図❶参照)。海馬の萎縮は、アルツハイマー型認知症の人に多く見られる現象です。
さらに、片足立ち検査を行った人に認知機能テストを受けてもらい、その関連性を調べました。すると、片足立ちが20秒続けられなかった人は、20秒以上続けられた人と比べて、認知機能テストの点数が低い人が多く、軽度認知障害(MCI)になっている割合が高いことがわかりました(❷参照)。
●片足立ち時間と脳萎縮、認知機能の関連性

Kido T, et al. Dement Geriatr Cogn Disord. 2010; 29: 379-387. をもとに作図
脳の萎縮や認知機能が低下すると、空間認知(空間情報の把握)がうまくできなくなると考えられます。片足で立つときは、壁や床など周りとの距離感をつかみながら行います。つまり、空間認知ができないので片足立ちができない、ともいえるでしょう。
このように、片足立ちがあまりできない人は、脳血管の障害や認知症のリスクが高いことが示唆されました。片足立ちは一見、体の強さやバランス力を診る検査のようですが、その裏側では認知機能まで関連していることがわかったのです。
お勧めは「ながら」運動!脳がさらに活性化する
こうしたリスクを抑え、脳の健康を維持するには、どうしたらよいでしょうか。私は片足立ちの習慣化をお勧めしています。片足立ちはセルフケアにもなるのです。
私たちの研究では大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)の筋肉量が多いほど、動脈硬化のリスクが低いことがわかりました。骨密度が低いほど、血管が老化しやすいこともわかっています。
片足立ちは大腿四頭筋や骨を効率よく鍛えます。その結果、血管の若返りや血流アップも期待できます。これは脳の血管においても例外ではないでしょう。また前述のとおり、片足立ちは周りとの距離感をつかんで行います。空間認知のリハビリとしても期待できるのです。
実際に、片足立ちの訓練を取り入れた施設から、認知機能検査の結果がよくなったという報告もあります。
片足立ちの具体的なやり方は、下項をご参照ください。ポイントは2つあります。
まずは、転倒に十分気をつけること。万が一のときにつかまれるように、壁や机などの近くで行いましょう。
片足につき1分できない人は、「かかしのポーズ」で行うのがお勧めです。両手を広げるとバランスが取りやすくなります。イスの背もたれにつかまって行ってもかまいません。まずはできる範囲で行いましょう。
もう1つのポイントは、何かをしながら片足立ちを行うこと。この「ながら」運動はデュアルタスク(二重課題)と呼ばれ、さらなる脳の活性化が期待できます。実際に、国立長寿医療研究センターでは「コグニサイズ」として取り入れられて、効果が実証されています。
例えば、テレビを見ながらや、歌を歌いながら片足立ちをする、といったことでもかまいません。習慣化するという意味でも、「ながら」運動で片足立ちを行うのはお勧めです。
ただし、朝夜問わず起床直後に行うのは、事故が起こりやすいので避けてください。また、激しい痛みやめまいがあるときは行わず、医療機関を受診してください。
伊賀瀬先生お勧めの
片足立ち・かかしのポーズのやり方
※転倒しそうになったときにとっさにつかまれるように、壁や机などの近くで行う。
※夜中ふと目覚めたときや朝の起床直後は避ける。
※激しい痛みやめまいがあったり、あまりにフラフラしたりするときは行わず、医療機関を受診する。
※テレビを見ながらや、歌を歌いながらなど、何かをしながら行うと効果アップが期待できる。
基本の片足立ち
1日3セット行う。1分できない場合は、イスの背もたれなどにつかまって行うか、「かかしのポーズ」を行う。
❶両足をそろえて立った状態から、右足を上げて1分キープする。ひざは90度に曲げて、太ももが床と平行になる高さまで足を上げる。難しい場合は、できる高さまででよい。
❷左右の足を入れ替えて、①と同様に行う。

かかしのポーズ
両手を横に広げてバランスを取りながら、「基本の片足立ち」を行う。


この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
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