解説者のプロフィール

かとうようこ
治療室クリスタ院長、クリニカルボディセラピー協会会長。鍼灸師、中医学博士、中医薬膳研究家、カイロプラクター。2003年、東京日本橋に治療室クリスタを開院。08年にブラジルでの鍼灸普及活動が認められ、同国政府からコメンダドール(伯爵)の称号を授与された。著書に『年齢たるみが1分で解消! 顔面整頓』(サンマーク出版)がある。
スタイルアップに大いに役立つ!
中高年になると、どうしても若いころと比べて体形がくずれてきます。デスクワークをしている人や運動不足の人は、なおさらです。
また、ネコ背や巻き肩といった姿勢の悪さや、トボトボと老けた感じの歩き方が気になる人も少なくないでしょう。
そうした人に、私はバランス感覚と体幹部の筋肉を鍛える「かかしのポーズ」をお勧めしています。
かかしのポーズは、胴体周りについている体幹部の筋肉全体や、お尻、太もも、ふくらはぎ、足裏といった下半身の筋肉を使います。加えて腕や肩甲骨周りの筋肉が働きます。そのため、ヒップアップや太ももの引き締まりが期待できます。
同時に、背すじが伸びて巻き肩が矯正され、姿勢がよくなります。ネコ背がリセットされて、肩周りを含む血流がよくなるので、肩こりにも有効です。さらに、姿勢がよくなるとバストの位置は上がり、ウエストが引き締まります。
このように、かかしのポーズは全身のスタイルアップに大いに役立つのです。
かかしのポーズのやり方は、下項をご参照ください。ポイントは、手のひらを上に向けること。胸が広がるので、姿勢の改善に重要な要素です。そして、できればはだしで行うこと。足裏にある固有感覚(手足の動きや曲げ伸ばしなどを感じ取る感覚)が、より鍛えられます。
また、使っている筋肉に意識を向けると、部位の引き締めの効果が高まります。おなかやお尻、太ももなど、かかしのポーズ中に力が入る筋肉を意識しながら行ってください。
特に太ももを細くしたい場合は、太ももが床と水平になるまで高く上げると、シェイプアップ効果が高まります。
最初は20秒くらいから始め、慣れたら少しずつ時間を延ばしていきます。最終的に1分キープを目指しましょう。
かかしのポーズは1日に2回を目安に行ってください。お勧めのタイミングは、デスクワークの合間などが挙げられます。長時間座りっぱなしでいると、鼠径部の血管が圧迫されて、腹部や下半身の血流が悪くなります。かかしのポーズで血流を促しましょう。
朝に行うのもお勧めですが、特に高血圧の人は、起床して1時間経ってから行ってください。
かかしのポーズのスタイルアップ効果は、2~3週間で実感する人が多いようです。また、3ヵ月くらいで背すじが伸びて、肩が自然に開いた姿勢が身につき、巻き肩やネコ背が改善していくでしょう。いずれにしても、毎日コツコツ行うことがたいせつです。
かとう先生お勧めの
「かかしのポーズ」のやり方
※準備運動を含めて1日2回を目安に行う。できれば、はだしで行う。
※壁や机などの近くで行う。バランスが取れない人は、軸足側の手を壁に着きながら行う。
※関節が痛む人は、壁に手を着いたり、行う時間を短めにしたりして、無理のない範囲で実践する。
※デスクワークの合間などに行うのが特にお勧め。
準備運動
❶手のひらを上へ向けて、一直線になるように両腕を肩の高さまで上げる。足を肩幅に開く。
❷交互に片足を浮かせて、やじろべえのように左右へ揺れる。2往復程度行う。

かかしのポーズ
❶両腕を上の「準備運動」と同様にし、太ももが床と水平になるまで上げて20秒キープする。慣れてきたら、少しずつ足を上げる時間を延ばし、最終的に1分を目標にする。
❷左右の足を入れ替えて、①と同様に行う。

さらに慣れたら……
応用編
●顔は正面に向けたまま、両目の眼球だけあちこちに動かしながら行う。

見た目も機能的にも美しい体になれる
かかしのポーズは発達障害児の運動療法としても、広く利用されています。
私の治療院では、一般的な鍼灸治療だけでなく、発達障害のお子さんのサポートも行っています。このサポートに、かかしのポーズを取り入れています。
人間の感覚は、視覚や聴覚、触覚、固有感覚、前庭感覚(体の傾きや回転、姿勢を感じ取る感覚)が土台となっていて、積み木を積み上げるように発達していきます。
土台の感覚が未熟だと、脳において、多くの感覚をうまく整理できません。土台の上にある「バランス」を取ったり、「姿勢」を保ったりすることが難しくなるのです。

人間の感覚は積み木のように発達する
発達障害、特にADHD(注意欠如・多動症)やLD(学習障害)のあるお子さんは、土台の感覚が十分に育っていない傾向があります。そのため、階段の上り下りが苦手だったり、平らな場所でよく転んだりします。
かかしのポーズは固有感覚や前庭感覚なども養います。1ヵ月ほどでこれらの感覚の改善効果が見られます。感覚の土台を鍛えて、発達障害児が極端に苦手とする感覚を補うのです。
ですので、発達障害児に限らず、積み木の上部に相当するコミュニケーションや情緒に不安がある人にも、かかしのポーズは役立つと考えられます。
同様に、バランス力が衰えがちな高齢者にもお勧めです。足指でしっかり地面を捉え、地面を蹴って歩けるようにもなるので、歩行能力が改善するだけでなく、歩き方も若々しく変わっていきます。
重力に逆らって立つことは、人間にとって基本の動作です。かかしのポーズは、その基本動作を行うために必要な感覚や筋力を、バランスよく鍛える格好のエクササイズです。
体を上手に使えるようになり、見た目も機能的にも美しい体になれるので、老若男女を問わず、ぜひ、かかしのポーズを実践してください。

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
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