ネコ背で胸を閉じた姿勢になりがちなのは、現代人に共通する問題点です。腰痛を改善するには、まず姿勢を正すことがたいせつです。かかしのポーズで背すじをピンと伸ばせば、首から背中、腰まで効果的にほぐれます。加えて、背骨のすきまが広がり、動きがよくなるのです。【解説】神田良介(北千束整形外科院長)

解説者のプロフィール

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神田良介(かんだ・りょうすけ)

北千束整形外科院長。帝京大学医学部卒業後、救急救命室に勤務したのち、一心病院整形外科医長、帝京大学リハビリ科助教を経て、1998年に北千束整形外科を開院。2000年より東邦大学医学部客員講師。患者さん一人ひとりに対する丁寧な問診と手技(ソフトマニピュレーション)で、現代医療では原因不明といわれる腰痛の改善に成果を上げている。著書に『腰痛がたちまち消える3秒ストレッチ』(アチーブメント出版)がある。

コリからくる頭痛や手のしびれにも効果あり

皆さん、腰痛にお悩みではないでしょうか。首や肩、胸周りの関節痛やコリ、姿勢の悪さが気になっていませんか。

私は診察や治療とともに、患者さんにセルフケアをお伝えすることがよくあります。特に筋肉の過緊張が原因で、前述のような症状があるかたには、「かかしのポーズ」をお勧めしています。

かかしのポーズは、両腕を横に伸ばして、肩と水平の高さまで上げるセルフケアです。詳しいやり方は、下項をご参照ください。

このセルフケアは、腰痛全般に効果があります。具体的な病名としては、慢性腰痛筋・筋膜性腰痛症椎間板症変形性腰椎症などが該当します。

ただし、急性腰椎症(ギックリ腰)の場合は、痛みが激しい急性期を過ぎてから行うようにしてください。ギックリ腰の再発予防に役立ちます。

さらに腰痛だけでなく、肩こりからくる頭痛や手のしびれ四十肩五十肩といった、筋肉由来の関節の痛みにも効果があります。

かかしのポーズは、高齢者に多く見られる亀背(背骨が曲がり背中が丸くなった状態)の予防や改善にも有効です。こうした理由から、かかしのポーズは、特に背中が丸まっている人にお勧めです。

背中が丸まった人は胃が圧迫されるため、食が細い傾向があります。かかしのポーズを行うと、胸が開き姿勢がよくなります。習慣化することで胃のスペースが広がり、食事がのどを通りやすくなるので、しっかり食べられるようになるのです。食欲が回復して、体力アップや健康増進につながるでしょう。

また、胸が開き姿勢がよくなるのに加えて、かかしのポーズでは深呼吸を行います。自律神経(意志とは無関係に働き、内臓や血管をコントロールする神経)のバランスが整うので、呼吸器や内臓の働き、及び全身の血液循環がよくなります。その結果、かかしのポーズの実践前後で比較すると、血圧が低くなるかもしれません。

撮影時にかかしのポーズ実践前後でモデルさんの血圧を測ったところ……

画像: 最大血圧、最小血圧ともに低下!

最大血圧、最小血圧ともに低下!

姿勢を正し胸を開いて筋肉をほぐそう

なぜ、かかしのポーズでこのような効果が得られるのか、ご説明しましょう。

人間の背骨を横から見ると、首から腰にかけて緩やかなS字型のカーブを描いています。これを「脊椎の生理的彎曲」といいます。

背骨のS字カーブは、重力を分散させて、首や腰などにかかる負担を軽減したり、脳への衝撃を吸収したりする役割を果たしています。

長時間パソコン作業をしたり、うつむいてスマホを見過ぎたりすると、首が前に出て背中が丸まった姿勢がクセになります。すると、背骨のS字カーブがくずれ、背骨や骨盤周りの筋肉と「筋腱膜」(筋肉の骨にくっつく部分)の過緊張が続きます。それが首や肩、腰の痛みやコリを招くのです。

ですので、腰痛を改善するには、まず姿勢を正すことがたいせつです。

首から腰までの体幹部全体の筋肉や、筋腱膜の過緊張を緩める方法に、両腕を真上にまっすぐ伸ばして頭上で手を組み、体を引っ張り上げるストレッチが挙げられます。

しかし、四十肩や五十肩の人、腕を真上に上げられない高齢者のかたは、このストレッチができません。また、自分では正しい姿勢でストレッチを行っているつもりでも、両腕が前に傾いていて、背すじがしっかり伸びていないケースも少なくありません。

こうした人でも、かかしのポーズを行えば、無理なく背すじを効果的に伸ばせます。腕を真上に伸ばすのが難しくても、たいていの人は肩くらいの高さまで上がります。

かかしのポーズで背すじをピンと伸ばせば、首から背中、腰まで効果的にほぐれます。加えて、背骨のすきまが広がり、動きがよくなるのです。足を交差させて立つことで、骨盤のゆがみを整える効果も期待できるでしょう。

画像: 背すじが伸びてスッキリ!

背すじが伸びてスッキリ!

さらに、腕を左右水平にまっすぐ広げる動作で、胸を大きく開くことも、かかしのポーズの大きなポイントです。

現代人は、デスクワークや料理といった家事のように、体の前で両手を使って前かがみになる時間が長くなっています。

こうした姿勢は、胸周りの筋肉が縮こまり、心臓や肺などを包み込む骨格である胸郭が、狭く縮こまった状態で固まりやすくなります。すると、呼吸が浅くなるうえ、胸郭が腹部を圧迫して、胃腸の働きも悪くなります。

かかしのポーズは胸を開いて、胸周りの筋肉を気持ちよく伸ばせます。そして、かたく縮こまった胸郭をほぐす効果があるのです。

かかしのポーズは、鎖骨や肋骨を傷めている人や、心筋梗塞の直後など心臓病の治療中の人以外は、子供から高齢者まで、どんな人にもお勧めです。

ネコ背で胸を閉じた姿勢になりがちなのは、現代人に共通する問題点です。悪い姿勢をリセットするためにも、かかしのポーズを毎日の健康習慣に取り入れることをお勧めします。

同じ姿勢が続いたときや、気分をリフレッシュしたいときなどに、ぜひ気軽に実践してください。

神田先生お勧めの
かかしのポーズのやり方

鎖骨や肋骨を傷めている人や、心臓病の治療中の人は控える
※朝、昼、晩の1日3セットを目安に行う。不調を感じたときのほか、疲れを感じたとき、仕事や家事の合間など、リフレッシュ目的で行うのもお勧め。
※素早く行うと筋肉を痛めることがあるので、ゆっくり行う。

右足を前にして両足を交差させる。5秒、鼻から深く息を吸いながら、下図の姿勢をキープする。

画像1: 神田先生お勧めの かかしのポーズのやり方

口からゆっくり息を吐きながら、足を戻して両腕を下す。

画像2: 神田先生お勧めの かかしのポーズのやり方

左足を前にして両足を交差させ、①と同様に行う。その後、②を同様に行う。

画像3: 神田先生お勧めの かかしのポーズのやり方

①~③を3回くり返す。

画像: この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。

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