【解説】上月正博(山形県立保健医療大学理事長兼学長・東北大学名誉教授)
解説者のプロフィール

上月正博(こうづき・まさひろ)
1981年、東北大学医学部卒業。山形県立保健医療大学理事長兼学長、東北大学大学院医学系研究科名誉教授。日本心臓リハビリテーション医学会理事、日本腎臓リハビリテーション学会理事。著書に、『血管をよみがえらせる 長生き体操』、『腎臓病は運動でよくなる!』(ともにマキノ出版)など多数。
不整脈をもたらす原因疾患の治療を優先する
長年の間、狭心症や心筋梗塞といった心臓疾患にかかったら運動は禁忌で、安静が第一とされてきました。運動することによって、心臓に負担がかかると考えられてきたからです。
ところが、2000年前後を境に、考え方が大きく変わりました。運動をしたほうが、生存率が高まるとわかってきたのです。これにより、心臓リハビリテーションの有効性が認められるようになり、多くの心臓病で運動療法が取り入れられるようになりました。
では、不整脈のかたにとって運動することはよいことなのでしょうか。
先に結論から申し上げれば、運動療法の有効性ははっきりしていません。心臓病で病状が安定している人の場合であれば運動することのリスクは高くないのですが、不整脈の場合、そうではありません。突然死を招きかねないので、一概に運動を勧めることはできないのです。
例えば、ブルガダ症候群は、不整脈の起こる心臓疾患で、いわゆる「ポックリ病」といわれている病気です。突然死のリスクが高く、運動は絶対にNGです。心筋症から起こる不整脈も、運動は勧められません。
狭心症や心筋梗塞でも、不整脈が起こることがあります。病態安定時には運動が推奨されますが、不整脈が出ている場合は勧められません。狭心症などで不整脈が出るようになった段階では、病状がかなり悪化しているからです。
また、困ったことに、自分に不整脈があることを自覚していないかたも多くいます。そのなかには一定数、重篤な不整脈の場合もあるのです。
重要なのは、自分の病気を正しく見極めることです。診断がついたら、不整脈をもたらす原因疾患の治療を優先して行ってください。
寝ている時間が長くなるほど血管の老化が進行
ただ、不整脈だからといって、安静第一で全く運動しないでいることは、やはり、体によくありません。不整脈の人がじっと安静に寝ていれば、症状がよくなるわけではないのです。
しかも、寝ている時間が長くなればなるほど、寿命が短くなるのは間違いありません。ずっと寝ていれば、血管の老化がどんどん進行し、脳梗塞や心筋梗塞などが起こりやすくなるからです。
こうしたリスクを避けるためには、体に負担とならない程度の運動を行うのがよいでしょう。端的にいうと、少しは動いたほうがいいということになりますが、問題はそれがどの程度ということになります。
実際になにか運動をしてみて不整脈が増えるなら、ただちに中止してください。一方、そうでない場合は、その運動は問題ないと考えてよいでしょう。むろん、これも自己判断で決めるのではなく、主治医の判断と指導の下で行ってください。
不整脈があり、かつ、医師から運動の許可が出たかたに勧められる運動は、有酸素運動であるウォーキングです。ジョギングなどの激しい運動は控えましょう。
近年、特に心房細動に対しては運動療法がよい影響をもたらすといった研究が報告され始めています。
心房細動は、不整脈のなかでも最も患者数の多い疾患です。心房細動の人が運動すると発作の回数が減る、そうでなくても体力がつけば心筋梗塞などのリスクが減って、寿命が延びる可能性が高い。そうした研究データが蓄積されつつあるのです。
また、高血圧や脂質異常症、肥満などの生活習慣病に対して、運動療法は有効です。高血圧や肥満は不整脈の原因ともなるものですから、不整脈を予防するという意味では運動療法は間違いなく効果が望めます。
不整脈でお悩みのかたは、自分自身の病状をしっかり把握し、担当医と相談のうえで運動療法を開始してみてはいかがでしょうか。

医師に許可を得て運動しよう

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
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