解説者のプロフィール

濵義之(はま・よしゆき)
幕張不整脈クリニック院長。日本不整脈心電学会不整脈専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本内科学会認定内科医。2003年、山梨医科大学医学部医学科卒業。多摩南部地域病院循環器科、千葉県循環器病センター循環器科、君津中央病院循環器内科部長などを経て、18年に幕張不整脈クリニックを開院。同年より院長。年間500件以上のカテーテルアブレーション治療を行い、多くの患者を助けるだけでなく、再発を見逃さない徹底したケアにも努めている。
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鍼刺激だけでなくツボへの指圧も有効
近年、「心房細動」の症状を抑制するために、ツボ刺激が有効であるという報告が相次いでいます。
心房細動とは、心房内の電気信号の乱れによって起こる不整脈の1つで、心房が激しく細かく震え、血液をうまく全身に送り出せなくなる病気です。
最も問題なのは、心房細動になると、血栓(血の塊)ができやすくなり、脳梗塞のリスクが飛躍的に高まってしまう点です。
この心房細動に対して、ツボ刺激が有効であるという中国の臨床研究を紹介しましょう。
80人の発作性心房細動(心房細動の初期ステージ)の患者さんの協力を得て、40人を「ツボ刺激グループ」、40人を「アミオダロン注射グループ」に分けて、それぞれの効果を比較しました。アミオダロンは、最も強力な抗不整脈剤です。
すると、ツボ刺激群が、普通の脈に戻った割合が85%であったのに対し、アミオダロン群は67.5%と、抗不整脈剤よりも高い比率で、脈が正常に戻ったのです。
脈が正常に戻るのにかかる時間も、ツボ刺激群は39.6分に対し、アミオダロン群は50.1分。ツボ刺激群のほうが短くなりました。
また、イタリアのミラノ大学の研究では、持続性心房細動の患者さんに電気ショックを行ったのち、再発防止のためのツボ刺激を行いました。これをアミオダロン内服と比較しました。するとツボ刺激は、アミオダロン内服と同等の効果があったとされています。
さらに、持続性心房細動の患者さんに、根治手術であるカテーテルアブレーションを行ったのち、その再発予防にツボ刺激が有効という報告もされています。手術後、アミオダロン内服に加えてツボ刺激を行った40人の群と、同じ薬の内服のみの45人群を比べたところ、併用群のほうが早期再発が少なかったのです。
これまでの研究はみな、ツボへの鍼刺激でしたが、ツボの指圧も有効という報告もなされています。
私は以前から、ツボへの鍼治療に関心がありました。ただし勤務医の場合、いくら興味があるからといって、患者さんに勝手にツボ治療を行うことはできません。そこで、自分のクリニック開院をきっかけに、医師向けのツボ治療のセミナーを受講し準備したうえで、ツボ治療を始めました。
私のクリニックには心房細動の手術で入院中の患者さんがいます。そのなかで希望されるかたに、ツボへの鍼治療を実践しています。
また退院後、患者さんが自分でツボ刺激を行うことができるように、入院中にツボ押しのやり方を指導しています。
血管が拡張することで心臓の負担が軽減される
研究論文によって、心房細動に効果のあるツボは異なりますが、最も多く取り上げられているのが、手首の「内関(ないかん)」というツボで、次いで多いのが、同じく手首の「神門(しんもん)」。第3が、胸の中央にある「膻中(だんちゅう)」です。
クリニックには女性の患者さんもいらっしゃるので、入院中の鍼治療は、内関と神門の2つのツボにしぼっています。
ツボ押しはいつでも自分で手軽にできるという利点があります。そこで、内関、神門、膻中という3つのツボの場所と押し方を紹介しましょう。
内関は、手首の内側に2本ある縦の筋肉の間で、手首の1番太いシワからひじに向けて指3本分下がったところにあります。神門は、手首の横ジワ上で、小指側にあるくぼみにあります。膻中は、胸の中央部あたりを人差し指で押さえてみて、いちばん痛いと感じるところです。
ツボ刺激のやり方は、下項をご参照ください。行うタイミングは、症状が出たときのほか、朝晩の1日2回をお勧めしています。
ツボ押しは、私たちの意志とは無関係に内臓や血管をコントロールしている自律神経に作用します。自律神経には興奮したときに優位になる交感神経と、リラックスしたときに優位になる副交感神経があります。ツボ押しによって、このうち副交感神経が優位となります。
すると、血管が拡張することで、血圧が下がり、脈拍数も少なくなります。それが、心房細動を引き起こしている心臓の負担を減らす効果が期待できるのです。
心房細動をお持ちのかたで、ツボ押しに興味をお持ちのかたは、ぜひお試しください。
ツボ押しのやり方
ツボの位置
【内関】
手首の内側に2本ある縦の筋肉の間で、手首の1番太いシワからひじに向けて指3本分下がったところ。

【神門】
手首の横ジワ上で、小指側にあるくぼみ。

【膻中】
胸の中央部。指で押さえてみて、痛いと感じるところ。

押し方
●内関と神門は親指で5秒押し込んで離す。10回くり返したら、左右を入れ替えて同様に行う。
●膻中は左右の人差し指と中指を重ねて押さえ、ゆっくり息を吐きながら上半身を前にかがめる。息を吐き切ったら吸いながら上半身を戻す。1回5秒かけて行い、10回くり返す。
※朝晩の2回、症状が出たときに行う。

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
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