解説者のプロフィール

濵義之(はま・よしゆき)
幕張不整脈クリニック院長。日本不整脈心電学会不整脈専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本内科学会認定内科医。2003年、山梨医科大学医学部医学科卒業。多摩南部地域病院循環器科、千葉県循環器病センター循環器科、君津中央病院循環器内科部長などを経て、18年に幕張不整脈クリニックを開院。同年より院長。年間500件以上のカテーテルアブレーション治療を行い、多くの患者を助けるだけでなく、再発を見逃さない徹底したケアにも努めている。
[別記事:脈が飛ぶのは心配ない?速いのは危険?不整脈の種類と原因を専門医が解説→]
心房細動の原因は加齢と高血圧の2つ
「心房細動」は、治療が必要とされる不整脈のなかで、最も多い疾患です。また、合併症として、脳梗塞が引き起こされる可能性が高くなることがわかっており、そのためにも治療が急がれる疾患でもあります。
日本国内の心房細動の患者数は、人口の1~2%とされているので、およそ100~200万人の人が心房細動と推定されます。そして、その患者数は増えつつあります。
心房細動の原因の1つが、加齢です。70歳以上だと、5~10%のかたが心房細動を起こしているといわれています。
もう1つの大きな原因が高血圧です。実際、心房細動の患者さんの半数以上が高血圧を併発しています。
心房細動の原因が、この2つであることを考えると、高齢化社会が進む日本で心房細動のかたが増えるのは、当然の現象かもしれません。
この病気になると、通常1分間に60~100回拍動している心臓において、心臓の一角を構成する心房が1分間に300~600回も震えます。結果として、脈がバラバラになり、不自然に脈が速くなります。
脈が速くなるほかに診断のきっかけとなる症状としては、息切れ、動悸がひどい、脈が飛ぶ、目の前が真っ暗になる、失神などがあります。
最近は、血圧計やスマートウォッチで不整脈のアラートが出て来院する人が増えてきました。というのも、心房細動の約70%は無症状のため、こうしたきっかけがないとなかなか気づくことができないからです。

自分で心電図や脈拍を測れるスマートウォッチ
心房細動で特に怖いのが、冒頭でも挙げた脳梗塞を引き起こすことです。
1分に600回も心房が震える結果、心房内では血液がよどんで「血栓(血の塊)」ができやすくなります。その血栓が血流に乗って脳に移動し、脳内で詰まることによって、脳梗塞が起こります。脳梗塞のリスクは、心房細動のない場合と比べて、約5倍もアップしてしまうのです。
また、心不全のリスクは約3倍、認知症のリスクは約2倍になるとされています。そのためにも、心房細動はできるだけ早期のうちに発見し、治療を始めることが重要です。
治療としては、脳梗塞を予防するため、抗凝固薬のワーファリンなどの薬を飲むとともに、早めに根治療法を行うことが勧められます。
なお、ワーファリンはあくまで血液をサラサラにするだけの薬であり、心房細動を治すことはできません。副作用があることや、食事制限が必要になることも覚えておきましょう。
私が医者になったころには、心房細動は「治らない病気」といわれていました。しかし、現在では、医療技術の進歩により、早期に治療すれば治る病気になったといっていいでしょう。がんなどにもいえることですが、心房細動の治療は、早く見つけて早く手を打てば、9割前後は完治できるのです。
一方、長年病気に気づかなかったり、気づいていても5年も10年も放置してしまったりすると、それから治療しようにも、なかなか難しいのが現実です。
早期のカテーテル治療が根治への最善策
心房細動は、発症後の発作の持続期間によって、3つに分類されます。
❶発作性心房細動
❷持続性心房細動
❸長期持続性心房細動
「発作性」は、心房細動が起こっても、7日以内に停止する状態です。その後年月が経つにつれて、心房細動の持続時間が増えて、7日以上持続する「持続性」へと変わり、やがて1年以上持続する「長期持続性」へと慢性化していきます。
発作性のうちなら根治は望めますが、慢性化していくにつれて、どんどん厳しくなります。
しかも、抗不整脈薬(心房細動を起こりづらくする薬)は、とりあえずの不整脈を抑えることはできますが、残念ながら、ワーファリンと同じく根治療法とはなりません。長い目で見た場合、進行を止めることは難しいのです。
つまり発作性の心房細動は、抗不整脈薬を飲んでいても、いずれ持続性、長期持続性へと移ります。
循環器の専門医以外の医師には、「心房細動が治せる病気になりつつある」という認識がまだまだ浸透していません。そうなると、「薬を飲んで様子を見ましょうか」と、とりあえず無難な診断をすることが少なくありません。
患者さんとしても、カテーテル治療を行うより、「投薬で様子を見ましょう」といわれたほうが受け入れやすいでしょう。それで治ればいいのですが、先に述べたとおり、心房細動を治せる薬はありません。
こういう状況に陥りがちだからこそ、早めの治療が肝心なのです。
そして、心房細動を根本的に治す治療法が、「カテーテルアブレーション」です。これは、血管に挿入したカテーテルを心臓まで持っていき、心臓の原因部位を高周波で焼いたり凍らせたりして、活動を停止させるという治療法です。
近年は、「バルーンアブレーション」といい、より短時間で、心房細動の治療を行う機器も使われるようになって、治療法は進歩し続けています。
現在、心房細動があることがわかっており、薬で様子を見ているというかたは、ぜひ一度、カテーテルアブレーションができる専門医の診察を受けることをお勧めしたいと思います。

心房細動は放置厳禁!
進行するほど治りにくい
❶発作性心房細動
▼
❷持続性心房細動
▼
❸長期持続性心房細動
疲れ、飲酒や喫煙など日々の生活にも要注意
心房細動には、加齢と血圧という2大原因のほかに、関連する要因が複数あります。なかでも見逃してはいけないのが、「睡眠時無呼吸症候群」です。
睡眠時無呼吸症候群が原因となって、心房細動が起こっている人は少なくありません。心房細動の患者さんの6割が睡眠時無呼吸症候群だというデータがあるほどです。
睡眠時無呼吸症候群は、肥満の人に多いイメージがありますが、やせている人は心配ないかというと、決してそんなことはありません。睡眠時に大きないびきをかいたり、日中にだるくてしかたないといったりした兆候があるかたは、心房細動に注意が必要です。
ほかに、喫煙や飲酒、肉体的・精神的ストレスなども、心房細動の発症要因、もしくは発作を起こしやすくする要因になります。
今の時点で、心房細動を患っているかたは、発作の可能性をできるだけ少なくするために、ストレスや疲れをためない、過度な飲酒を控えるといったことを心がけましょう。
不整脈は、ご本人の自覚がないケースも多くあります。現在、心臓の不調を実感していないかたでも、高齢であったり、高血圧があったり、先に述べた要因に心当たりがあったりするかたは、一度検査を受けることをお勧めします。検査については、別記事で紹介していますので、併せてご確認ください。

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
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