解説者のプロフィール

濵義之(はま・よしゆき)
幕張不整脈クリニック院長。日本不整脈心電学会不整脈専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本内科学会認定内科医。2003年、山梨医科大学医学部医学科卒業。多摩南部地域病院循環器科、千葉県循環器病センター循環器科、君津中央病院循環器内科部長などを経て、18年に幕張不整脈クリニックを開院。同年より院長。年間500件以上のカテーテルアブレーション治療を行い、多くの患者を助けるだけでなく、再発を見逃さない徹底したケアにも努めている。
不整脈は大別して3つのタイプがある
心臓は通常、規則正しいリズムを刻んで、1分間に60~100回くらい拍動しています。この動き方が乱れた状態を「不整脈」といいます。
不整脈は、大きく3つのタイプに分類することができます。①脈が飛ぶ、②脈が速くなる、③脈が遅くなるの3つです。このほかに、意識が遠のく(実際に失神してしまう)、動悸や息切れといった症状で来院されるかたもいます。

最近では、血圧計やスマートウォッチのアラートなどがきっかけになるパターンも少なくありません。
最近の血圧計は、計測時に不整脈の判定ができる製品が多くあるのです。また、スマートウォッチとは、小型のタッチスクリーンを搭載した腕時計型の電子機器を指します。性能はさまざまですが、こちらも不整脈を感知できる物があります。
今までであれば、これらは見逃されていた不整脈です。計測がすべて正しいとは限りませんが、近年不整脈が増加している背景には、こういった検査方法の充実や、高齢化社会が進んでいるという点が挙げられます。
意識が遠のくことがあれば循環器の専門医へ
では、これら3タイプの不整脈は、それぞれ、どんな病気の可能性が考えられるのでしょうか。また、それらの不整脈は治療の必要があるものか、心配いらないのかなどについて、順にお話ししていきましょう。
①脈が飛ぶ
心臓は、電気信号が流れることで動く仕組みになっています。
心臓の上のほうにある部屋が「心房」で、下の部屋が「心室」。右心房には洞結節と呼ばれる電気信号を出す司令塔があり、この電気信号によって、心臓の拍動が起こります(下図参照)。

脈が飛ぶタイプのうち、最も多いのが、「期外収縮」です。期外収縮は、心臓内の全く別の場所から電気信号が流れる現象で、電気信号が起こる場所が上部の心房なら、「上室性期外収縮」、下の心室で起こるなら、「心室性期外収縮」と呼ばれます。
脈が飛ぶ以外に、動悸や胸の不快感などの症状を伴うことがあり、精神的及び肉体的ストレスや睡眠不足、疲労など、さまざまな原因から起こります。
しかしこの2つの期外収縮は、健康体の人でもよく起こるもので、ほとんどの場合、治療の必要はありません。まずは、自分の生活を見直して、原因の解消に努めましょう。
ただ、ごくごく少数ですが、なかに危険な不整脈が潜んでいるケースがないとはいい切れません。脈が飛ぶようになって気になるかたは、それ自体もストレスになってしまうので、一度病院で検査を受けてみるとよいでしょう。
検査をして、期外収縮との診断が下り、問題がないことがわかれば、よけいな心配をせずに生活することができます。
②脈が速くなる(頻脈)
頻脈は、さまざまな原因から脈が速くなる症状です。脈が速くなっている原因を突き止める必要がありますが、ほかに基礎疾患がなければ、治療が必須というわけではありません。
緊張しやすい人が、プレッシャーのかかる状況で、脈が速くなる場合がありますが、こちらも問題ありません。
ただし脈が速くなるタイプの中で、多数を占めているのが、「心房細動」です。不整脈を専門に診ている私のクリニックでは、入院患者さんの約9割が心房細動なので、治療が必要な場合の多くはこの病気だといえます。
症状としては、脈が速くなる以外に、動悸や胸の不快感、胸の痛み、気が遠くなる、失神といった症状が起こります。心房細動については、別記事で詳しくお話ししていますので、そちらも参考にしてください。
心房細動以外の脈が速くなる不整脈として、「上室頻拍」と「心室頻拍」が挙げられます。
上室頻拍は、突然脈が速くなって、突然症状が治まる病気。重症化すると、失神することもあります。心室頻拍は、心室で異常な電気刺激が発生し、心拍数が過剰に増える病気。突然死のリスクがあります。
心房細動を含めて、脈が速くなる不整脈に対しては、「カテーテルアブレーション」という治療法が有効です。これは、カテーテルを挿入し、心臓内の不整脈の原因部分を焼き切る手術です。
③脈が遅くなる(徐脈)
ほんの少し脈が遅くなっているだけなのに、心配し過ぎているかたもいらっしゃいますが、検査で問題がなければ、治療の必要はありません。
スポーツ心臓のケースもあります。若いころ、スポーツをかなり行っていたかたは、そもそも脈が遅くなる傾向があります。徐脈と判定されますが、こちらも問題ありません。
また、実は期外収縮なのに、それが徐脈と受け取られてしまうパターンがあります。原因は、期外収縮による脈のズレです。心臓はちゃんと動いているのに、それがカウントされない。例えば心臓は80打っているのに、脈拍数は40と出てしまうことがあります。そのため徐脈と判定されます。
この場合は、たいていは治療の必要がありません。血圧計で、脈が遅いと判定された人は、この期外収縮で正しくカウントされていないケースが多いようです。
脈が遅くなる病気としては、「洞不全症候群」と、「房室ブロック」の2つがあります。
洞不全症候群は、心臓の電気信号の発生部位から信号が伝わらず、心房の収縮が遅れたり、起こらなくなったりする病気。房室ブロックは、心房から心室への信号の伝達がうまくいかず、心室の収縮が遅れたり、起こらなかったりする病気です。
この2つの疾患に対しては、症状が悪化してきたら、ペースメーカーを埋め込む手術が必要になることがあります。
ペースメーカーは、心臓の拍動を常に監視して、足りないときは、電気を流して拍動を促します。なおペースメーカーの埋め込み手術は安全性が確立されており、低リスクの手術です。
起きているときに、意識が遠のきそうになる人や、失神してしまう人の場合、ただちに循環器の専門医を受診し、失神の原因を調べてもらってください。洞不全症候群や房室ブロック、心室頻拍、心室細動など、原因はいくつもあります。
特に失神の場合、ごくまれにですが、突然死の前触れとなっているケースがあります。心室で起こる不整脈、心室頻拍や心室細動などがそれに当たります。
突然死を避けるためにも、意識が遠のいたり、失神するような事態が起こったら、必ず循環器の専門医の診察を受けましょう。
このように、不整脈には、さまざまな症状・疾患があり、早いうち治療が必要なもの、治療の必要のないもの、いろいろです。不整脈をお持ちのかたは、そのタイプや症状に応じた対応をしていきましょう。

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
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