糖尿病のかたは、腸内フローラのバランスの乱れにより、血糖値のコントロールが難しくなるともいえます。その改善のためにできることは、なによりも食事療法です。野菜と酢を合わせて作るピクルスは、腸内フローラのバランスを整えるために役立つ、よい食品といえます。【解説】大河内昌弘(おおこうち内科クリニック院長)

解説者のプロフィール

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大河内昌弘(おおこうち・まさひろ)

おおこうち内科クリニック院長。1990年、名古屋市立大学医学部卒業、名古屋市立大学第一内科入局。91年、愛知県公立尾陽病院内科担当医。2003年アメリカルイジアナ州立大学生理学教室客員研究員。07年、厚生連尾西病院内分泌代謝科部長、10年、名古屋市立大学消化器代謝内科学臨床准教授。12年、おおこうち内科クリニック開業。日本糖尿病学会認定糖尿病専門医。日本内科学会認定総合内科専門医。

腸内環境が悪いと血糖値コントロールも難しい

酢をベースにした調味液に、野菜を漬けて作るピクルスは、糖尿病専門医である私の目から見ても、腸を整えるレシピとして、お勧めできる物です。 

糖尿病のかたにとって、腸を整えることはとても重要です。糖尿病の原因や悪化に、腸内環境が関係していることが、近年明らかになっているからです。

私たちの腸内には100兆以上もの腸内細菌が棲んでいます。その様子が花畑のように見えることから、腸内細菌の集まりは「腸内フローラ」と呼ばれています。

腸内細菌は善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3つに分けられ、それらが2:1:7のバランスで棲息していることが最も理想的だとされています。

2014年に発表された順天堂大学の研究によると、2型糖尿病患者は、この腸内フローラのバランスが乱れており、血液中に本来存在するはずのない腸内細菌があふれ出ていることが明らかになりました。

しかも、それにより血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが低下する、ということもわかったのです。

なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。

脂質の多い食事やストレスなどにより、腸内フローラのバランスが乱れると、腸の内容物(排泄物や細菌など)が体内に入らないよう守っている腸壁のバリアが壊れて、腸内細菌が血液中にあふれます。

血中にあふれた腸内細菌、なかでも悪玉菌が、膵臓や肝臓、脂肪組織などに入ると、体の防衛反応として、炎症が起こります。

この状態が慢性的になると、筋肉や内臓が少しずつ傷つけられ、体に思わぬ異常が引き起こされます。その異常の1つが、「インスリン抵抗性」です。

これは、インスリンの分泌が低下したり、効きが悪くなったりする状態のこと。当然、これが糖尿病発症のきっかけになったり、病状の悪化を招いたりするおそれがあります。インスリン抵抗性により、糖尿病治療薬の効きめが悪くなる可能性もあります。

また、糖尿病のかたの場合、合併症の1つである神経障害が腸内フローラのバランスの乱れを引き起こすこともあります。

糖尿病の神経障害というと、手足のしびれなどの末梢神経障害が知られていますが、その前兆として、自律神経(内臓や代謝、体温といった体の機能を意志とは関係なく調整する機能)に障害が出て、腸の動きが悪くなり、便秘や下痢を引き起こす場合があります。

すると、腸本来の動きが滞り、悪玉菌が増えることから、腸内フローラのバランスが乱れます。それにより、先ほど説明した炎症や、インスリン抵抗性が生じ、糖尿病がさらに悪化してしまうおそれがあるのです。

これらのことから、糖尿病のかたは、腸内フローラのバランスの乱れにより、血糖値のコントロールが難しくなるともいえるのです。

ピクルスは腸内の善玉菌を増やしてくれる!

腸内フローラを整えるためにできることは、なによりも食事療法です。

悪玉菌が増え、善玉菌が減ることが腸内フローラのバランスをくずすので、善玉菌を増やす食べ物を積極的にとることをお勧めします。

具体的には、野菜、キノコ類、海藻類、納豆やオクラなどのネバネバ食品や、酢、みそ、しょうゆなどの発酵食品が挙げられます。これらに含まれる水溶性食物繊維オリゴ糖は、善玉菌のエサになり、腸内で善玉菌を増やすことに役立ちます。

このうち、野菜と酢を合わせて作るピクルスは、腸内フローラのバランスを整えるために役立つ、よい食品といえます。

健康を維持するために、1日に必要な野菜の摂取量は、成人の場合350gとされています。それを生で食べようとするとかなりの量になりますし、味にも飽きてしまいます。

ピクルスなら、野菜が少しくったりして食べやすくなります。そのまま食べてもおいしく、料理にアレンジもできますから、続けやすい、という点もよいと思います。

ピクルスは、できれば食事の最初にとるとよいでしょう。糖尿病のかたが血糖値の急上昇を防ぐためには、食べる順番もたいせつ。最初に野菜、次に肉または魚、最後にご飯、といった順番で食べるのが最適です。

食物繊維の多い物を最初に食べれば、消化しにくいので血糖値が急に上がることはなく、そのあと食べる物の消化・吸収も緩やかにしてくれるからです。

なお、ピクルスを作る際、砂糖などで甘みを加えるかたも多いと思います。今は血糖値が上がりにくい甘味料があります。血糖値の上昇を防ぐために、そのような砂糖の代替品も上手に活用するとよいでしょう。

すでに糖尿病を発症しているかたは悪化を防ぐために、また糖尿病が心配なかたは発症予防に、腸内環境を整えることをぜひ心がけてください。

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画像: この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。

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