解説者のプロフィール

神谷仁(かみや・じん)
神谷小児科医院医長・一般社団法人腸活環境育成協会顧問。長野県生まれ。信州大学医学部卒業。同大学院博士課程修了、医学博士。分子整合栄養学専門医、腸活環境育成協会顧問。神谷小児科医院医長。自らの体調不良が食習慣の見直しで改善したことから栄養の重要性を実感。分子栄養学を学び、2012年から診療に取り入れている。メールマガジン『健康サポート110番』を配信中。
和風の味つけで作る腸活ピクルスが大好評!
私は現在、医師として診察を行いながら、妻の神谷陽子が代表理事を務める「腸活環境育成協会」の顧問としても活動しています。
健康のためには、バランスのいい食事で、しっかり栄養をとるべき、ということはだれもが知っていることです。
しかし栄養をとるということは、単に食べ物が体に入ればいいというわけではありません。腸がよい状態であって初めて、栄養を適切に吸収でき、健康的な体づくりが可能になるのです。
そこで協会では、腸内環境を整えるためのレシピを考案し、皆さんにお勧めしています。なかでもたいへん好評を得ているレシピが、「腸活ピクルス」(作り方は下項参照)です。
ピクルスというと、キュウリの酢漬けを思い浮かべるかたが多いかもしれません。実際にはキュウリだけでなく、酢やスパイス、砂糖などを合わせた液に、野菜などを漬けた物をピクルスといいます。洋風の漬け物といってもいいでしょう。
私たちの腸活ピクルスは、これを和風にアレンジしています。ピクルス液の材料は、酢、水、しょうゆ、キビ砂糖。そこに好みの野菜と、煮干しを漬け、味がしみ込めば完成です。
腸内環境が整えばガス腹や肌荒れも解消する
腸活ピクルスには、幅広い健康効果があります。
❶腸内環境の改善
腸活ピクルスは、その名のとおり、腸の調子を整えてくれまます。それには、このピクルスの主な材料である、野菜と酢が大きく作用しています。
まず、野菜の働きを見てみましょう。
野菜には、ビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれています。特に食物繊維は、現代の日本人に足りない食品成分の一つで、とても重要な役割を果たします。
大腸には約100~1000兆個もの腸内細菌が存在するといわれています。それらの腸内細菌は、善玉菌と悪玉菌、そしてそのどちらでもない日和見菌に分かれています。
睡眠不足や動物性脂肪の多い食事が続いたり、過度のストレスがかかったりすると、腸内で悪玉菌が増えて、腸内環境が悪化します。
すると、大腸は本来の役割である排便やガスの排出などができなくなり、便秘や下痢、ガス腹などが引き起こされます。それが慢性的な状態になると、腸内で腐敗物質などの有害物が産生され、肌荒れや肥満をはじめ、さまざまな体調不良が引き起こされるのです。
食物繊維は、大腸で善玉菌のエサとなり、善玉菌を増やします。 また、食物繊維が善玉菌によって発酵・分解される過程で、酢酸や酪酸といった「短鎖脂肪酸」が産生されます。
短鎖脂肪酸は腸の活動のエネルギー源となり、腸内を適度な酸性に保ったり、乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌を増やしたりします。これにより、腸内細菌のバランスが整い、腸内環境が改善します。
次に酢の作用についてお話ししましょう。
腸内環境を整えるためには、食べ物が腸に至る前に通過する「胃」の働きも重要です。胃液の主成分である胃酸はその字のとおり強酸性で、口から入ってきた食物を溶かし、消化を助けます。
実は、多くの野菜はアルカリ性の食品です。そのため野菜だけを食べると、胃酸の酸度が落ちてしまい、しっかり消化ができなくなります。胃で十分に消化されずに、未消化物が腸に届くと、それが腐敗し、悪玉菌が増える原因にもなります。
一方、腸活ピクルスで使う酢は、酸性の食品です。腸活ピクルスをとれば、アルカリ性の野菜と、酸性の酢がまとめて胃に入るため、胃の中を強酸性に保ち、消化を促してくれるのです。胃で食べ物がしっかり消化できれば、腸内で悪玉菌の増加を防ぎ、腸内環境も整います。
腸活ピクルスを食べることで、これらの野菜と酢の腸内環境を整える作用を享受できます。
それにより、食べ物の栄養分をきちんと吸収することができ、老廃物はスムーズに排出できます。便秘や下痢といった不調も改善するでしょう。
体内で有害物質が産生されることもなくなるので、ガス腹や肌荒れの解消なども期待できます。
煮干しを加えてやせやすい体に
❷肥満解消・ダイエット効果
野菜に含まれる食物繊維は、腸内でコレステロールを吸着し、便のかさを増して排出を促します。
そして、脂肪合成を促進する作用のあるインスリン分泌の急上昇を抑制、インスリン分泌が適正に保たれます。これにより、摂取した糖質が適切に代謝されて、肥満の予防・改善に役立つのです。
また酢に含まれる酢酸は、脂肪の合成を抑制するので、内臓脂肪の減少を促します。さらに、酢のアミノ酸には脂肪の分解を促進する作用もあります。
加えて、腸活ピクルスならではの材料である煮干しにはビタミンB群が豊富です。ビタミンB群には糖質や脂質の代謝を促す作用があるため、これをとっておくことで、やせやすい体になるのです。
煮干しを加えることの効果はほかにもあります。
❸骨の強化・骨粗鬆症予防
煮干しには、カルシウムやカリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛といったミネラルや、ビタミンB群、Dなどが豊富に含まれます。これらは、臓器や骨などを作ったり、体の組織を円滑に働かせたりする働きがあり、健康の維持に欠かせない栄養素です。
酢には、体内でのカルシウムや鉄の吸収を助ける作用があることから、煮干しと酢をいっしょにとることで、より効果的にその栄養を体に取り入れることができます。
これにより、骨の強化や、骨粗鬆症を予防する効果が期待できるでしょう。
❹生活習慣病の予防・改善効果
野菜の食物繊維には、食べた物の腸内での移動をゆっくりにして、食後血糖値とインスリン分泌の急上昇を抑制する作用があります。
また、酢には、血管を拡張して血圧を下げる効果が確認されています。煮干しには、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった不飽和脂肪酸も豊富も含まれていますが、これには血液をきれいにしたり、血中の中性脂肪やコレステロールを調節する作用があります。
これらの相乗効果で、腸活ピクルスは、糖尿病や高血圧、肥満の予防や改善に役立つと考えられます。
栄養分が溶け出したピクルス液も活用しよう

神谷仁先生、陽子先生の腸活ピクルス
腸活ピクルスには、さまざまな健康効果があることが、おわかりいただけたでしょうか。私自身もこの腸活ピクルスを毎日とっていますが、便通がスムーズで太りにくい、といった効果を実感しています。
ぜひ皆さんにも、この腸活ピクルスを常備菜として召し上がり、ご自身の健康に活かしてほしいと思います。
その際は、ぜひピクルスの具材だけではなく、ピクルス液もとりましょう。漬けた煮干しから溶け出すミネラルやビタミンを、余すことなくとるためです。料理などに活用するとよいでしょう。
また、煮干しを丸ごととれば、魚の良質なたんぱく質も摂取できます。調味液に漬け込んだ煮干しは、やわらかく食べやすくなりますので、そのまま口にするとよいでしょう。
腸活ピクルスの作り方
レシピ考案・監修◎神谷 仁(医師)/神谷陽子(腸活環境育成協会代表理事)

材料 (作りやすい量)
・好みの素材…適量
(キュウリ、ニンジン、大根など野菜類や、卵、乾物など)
・煮干し…5本
(苦手なかたは、かわりにだしパックやコンブを使ってもよい)
ピクルス液の材料
・酢…100ml
・水…100ml
・キビ砂糖…30g
・しょうゆ…大さじ3

❶好みの素材を保存瓶の大きさに合わせて切る。
❷ピクルス液の材料を鍋に入れ、火にかける。砂糖が溶けたら火を止める。

❸粗熱が取れたら、②を清潔な保存容器に移し、①と煮干しを加える。冷蔵庫で保管し、味がなじめば完成。

※食材によっては半日ほどで食べごろになる。
※保管期間は冷蔵庫で1週間が目安。
※ピクルス液の再利用はしない。
※辛みがほしいときは、作り方の②で、ピクルス液に唐辛子2本、黒コショウ適量、ローリエ2枚を加える。
お勧めの食材

野菜類、キノコ類
キュウリ、パプリカ、カブ、大根、キャベツ、ニンジン、ミニトマト、レンコン、アスパラ、オクラ、ナガイモ、キノコ類などお好みの物。
ゆで卵
鶏卵、うずらの卵など(たんぱく質摂取にお勧め)。
その他
切り干し大根や切りコンブなどの乾物やチーズ、ナッツなど。
POINT
・レンコンやカリフラワー、ゴボウなどかたい野菜は下ゆでしてから漬ける。
・シメジやエリンギなどキノコ類は雑菌を抑えるため下ゆでしてから漬ける。
・ナガイモ、オクラなどは、ほかの野菜といっしょに漬けない(ネバネバした成分がほかの素材に移ると味や食感が落ちるため)。
・卵は野菜とはいっしょに漬けない(腐りやすくなるため)。
ピクルス液を残さず使う! アレンジレシピ
ピクルス液のトマトスープ

材料(2人分)
ピクルス液…200ml
水…250ml
トマト…中2個
タマネギ… 1/4個
エリンギ… 1本
パセリ…少々(刻んでおく)
オリーブオイル…適量
❶小鍋にピクルス液と水を入れる。
❷タマネギは薄く切る。エリンギは、3mm厚さの斜め切りにする。
❸トマトはヘタを取り除き、6等分に切り込みを入れる。
❹①に②、③を入れて、弱火で煮込み、トマトに火が通ったらパセリを散らし、オリーブオイルをかける。
ピクルス液のドレッシング

材料(作りやすい量)
ピクルス液…50ml
オリーブオイル…大さじ2
塩、コショウ…各適宜
●すべての材料を混ぜ合わせる。

この記事は『壮快』2022年8月号に掲載されています。
www.makino-g.jp