解説者のプロフィール

宇津木龍一(うつぎ・りゅういち)
クリニック宇津木流院長。1980年、北里大学医学部卒業後、同大学形成外科・美容外科学教室所属。1990~1995年にかけて、米国テキサス大学とペンシルバニア大学に留学、美容医学とその基礎を学ぶ。1999年に日本で最初のアンチエイジング専門施設、北里研究所病院美容医学センターを創設。2007年には、若返り治療を専門とする形成外科・美容皮膚科「クリニック宇津木流」を開院する。顔の老化変形に対する究極の手術治療から、切らない美容皮膚科的治療まで、幅広い治療法を駆使。患者さんの希望に応える治療が反響を呼んでいる。『宇津木式スキンケア事典 化粧品をやめると、肌はよみがえる』『シャンプーをやめると、髪が増える』(ともにKADOKAWA)など、著書多数。
髪を洗い過ぎると頭皮がベタつく
「髪と頭皮を清潔に保つために毎日のシャンプーは欠かせない」。そう考えている人は、多いのではないでしょうか。
実は、この考えは大きな間違いです。むしろ、シャンプーで洗髪をする習慣こそが、髪や頭皮環境の悪化につながります。その理由を説明しましょう。
①体に化学物質を吸収させる
シャンプーには、界面活性剤をはじめとする数十種類もの化学物質が含まれています。
一方、頭皮には約10万個もの毛穴があり、一つの毛穴からは2~3本の毛髪が生えています。この毛髪が体毛より太いことからもわかるように、頭皮の毛穴は他の部位の毛穴と比べると非常に大きいです。
毛穴の中でも比較的浅いところには、髪の再生器官である「バルジ領域」が位置しています。
ですから、頭皮をシャンプーで洗うことは、多くの化学物質を体中に吸収させているようなものです。髪や頭皮環境を悪化させるのはもちろん、全身にも害を及ぼす可能性があります。
②皮膚のバリア機能を損なう
皮膚の表面は、層のように重なった角質細胞に覆われています。角質細胞の間は、セラミドなどの細胞間脂質で満たされており、外部からの異物の侵入を防いでいます。
同時に、細胞間脂質は、内部の水分の蒸発を防ぐ「バリア機能」も果たしています。
シャンプーに含まれる界面活性剤は、頭皮の皮脂だけでなく細胞間脂質も溶かします。その結果、角質細胞の間に大きな隙間ができ、バリア機能が損なわれてしまうのです。
前述した化学物質が、角質細胞の隙間から吸収される可能性も高まります。
③皮脂の分泌が過剰になる
界面活性剤の特徴として、洗浄力が非常に強いことが挙げられます。実はこれも、頭皮環境を悪化させる原因になります。
頭皮の皮脂を落とし過ぎると、体は皮脂不足を補うためにかえって分泌を促します。それにより、皮脂腺が発達し過ぎてしまい、本来髪を育てるために必要な栄養が皮脂腺のほうに行ってしまうのです。
髪が細く短くなったり、頭皮に赤みやかゆみなどの炎症が起こったりするのも、これが関係していると考えられます。
シャンプーを減らし最終的には水洗髪を
シャンプー洗髪が髪や頭皮にとってよくないことは、おわかりいただけたかと思います。
そこで私がお勧めしているのが、水のみで頭を洗う「水洗髪」です。この洗髪方法は、薄毛、白髪、抜け毛、髪のうねり、パサつき、頭皮のベタつき、かゆみ、臭いなどの改善に効果が見込めます。
私自身も、アレルギーによる肌のかぶれがきっかけで、20年ほど前にシャンプー洗髪をやめました。最初はお湯のみで洗髪し、その後さらに水洗髪に切り替えたところ、なんと髪が増えたのです。
ネコっ毛で細かった髪は太くなり、だんだんコシも出てきました。現在では、夕方の髪のベタつきや臭いも消えています。

「シャンプー断ち」で宇津木先生の髪も生えた!
そうは言っても、いきなりお湯や水での洗髪に切り替えるのが不安な人もいるでしょう。
そんな人は、シャンプーの量や回数を徐々に減らす「減シャン」から始めてみてください(やり方は下項)。
シャンプーの減らし方は、自分のペースで構いません。減シャンの生活に慣れたら、お湯だけでの洗髪に切り替えてみて、最終的には水洗髪にするとよいでしょう。
ただし、減シャンやお湯を使った洗髪では、シャンプーそのものによるダメージは減らせますが、皮脂の分泌量はあまり変わりません。少量のシャンプーはもちろん、お湯も細胞間脂質を溶かすからです。
髪と頭皮の健康維持には「ちょっと冷たいかな」と感じるくらいの、30℃以下の水で洗髪するのが一番です。
なお、減シャンを始めると、まれに脂漏性皮膚炎(皮脂の分泌が盛んな部位に湿疹ができる症状)を起こしたり、かゆみが強くなったりすることがあります。そんなときは一度シャンプー洗髪に戻して、様子を見ながら再開してください。
減シャンの始め方
●最終的には「水洗髪」に切り替える。
●2~3日ずつ、下のような順番でシャンプーを減らして様子を見る。頭皮や髪への影響や不快感が少ないと感じたら、もう1段階先の方法を試してみる。無理だと感じたら、いったん元に戻す。
STEP1 シャンプーの量を減らす
▶1回の洗髪で使うシャンプーの量を減らす
(例)ポンプをプッシュする回数を減らす/手のひらに出すシャンプーの量を目視で調節する。

▶シャンプーをぬるま湯や水で薄めて使う
お湯か水を張った風呂桶に少量のシャンプーを薄めた「減シャン液」で頭を洗う。

STEP2 シャンプーの回数を減らす
▶シャンプー洗髪を2日に1回に減らす
「今日はシャンプーを使ったので、明日はお湯か水だけで洗髪しよう」などのルールを決め、徐々にシャンプーを使わない生活に切り替える。

▶人と会わない日などはシャンプーを使わない
翌日人に会う予定がない、髪の毛があまり汚れなかったなど、シャンプーを使わなくても問題なさそうな日に、お湯洗髪や水洗髪を行う。

STEP3 お湯のみの洗髪に挑戦する
▶熱めのお湯で頭を洗う
水洗髪では汚れが落ちた気がしない、寒くて耐えられないなどの不安がある場合は、お湯のみで洗髪を行ってみる。ただし、熱いお湯でも細胞間脂質は溶けてしまうので、徐々に温度を下げるなどして水洗髪への切り替えを目指すのが重要。

水洗髪のやり方
❶ブラッシングをする
洗髪前に、ブラシで髪をとかして汚れを取り除く。やや目の細かいブラシで、地肌をこすらないようにしながら、髪をゆっくり優しくとかすとよい。

❷30℃以下の水で洗髪する
水温30℃以下のシャワーを頭に当てながら、指の腹で頭皮を軽くマッサージするようにして洗う。爪を立てる、力の入れ過ぎには十分注意する。

❸タオルで水分を拭き取る
乾いたタオルを使い、髪の水分を拭き取る。タオルで髪を包んで軽く押さえるか、髪を挟むなどして、できるだけ乾かしておく。

➍ドライヤーで髪を乾かす
③で髪が乾ききらない場合は、ドライヤーを使ってもよい。ただし、次のことに注意する。
・髪から15cmほど離す。
・1ヵ所に集中して風を当てない。
・温風と冷風を交互に当てる。
・根元を乾かす場合は、髪を持ち上げて下から風を当てる。
・地肌が完全に乾き、毛先が少し湿っている状態で止める。
短髪なら1分以内、長髪なら5分以内が目安。

無理のない範囲でシャンプーを止められるのがベスト!1つずつクリアしていく気持ちで、気長に「減シャン・脱シャン」を。

■イラスト/石山綾子
減シャンQ&A
Q. 減シャン、水洗髪を行うタイミングは?
A. 夜がベストです。
洗髪の一番の目的は、酸化した皮脂を洗い流すこと。そのため、1日中外出したり働いたりと、活動が終わったタイミングである夜に行うのがお勧めです。
Q. 大量の汗をかいたときなど、「こんな日はシャンプーを使うべき」という日はありますか?
A. 基本的には「ぬるま水」か水での洗髪でOKです。
酸化した皮脂などの汚れは、基本的には水で洗い流すことができるため、シャンプーを使う必要はありません。
Q. 塩や重曹などをシャンプー代わりに使ってもいいですか?
A. 場合によっては使ってもよいでしょう。
頭皮がただれていたり、大きな傷があったりする場合は、生理食塩水を使うのも1つの手です。
それ以外でシャンプーが恋しくなったら、純せっけんで洗髪する方法があります。せっけんカスと強い洗浄効果で髪がきしむのが気になる人は、クエン酸水を髪にかけてシャワーで洗い流してください。
<クエン酸水の作り方>
30℃以下の水を洗面器1杯分入れて、小さじ1/3以下のクエン酸を溶かす。

Q. フケが増えたような気がしますが、問題ないでしょうか?
A. 小さく細かいフケなら問題ありません。
小さく細かいフケが増えるのは、細胞の新陳代謝が盛んになった証なので気にしなくてよいでしょう。気になる場合は、ブラッシングや手ぐしの際、頭皮に触れないようにしてください。
頭皮が炎症を起こしている場合は、平たくて大きなフケができます。シャンプーをやめてもこのようなフケが治りにくい場合は、一度皮膚科に相談してください。減シャンで徐々に改善するので心配ありません。
Q. どうしても臭いや見た目が気になるときは、どうすればよいでしょう?
A. 精神的に支障が出る場合は、ウィッグや香水の活用を。
臭いやベタつきの元となる酸化した皮脂や汗は、水洗髪で十分に落とせます。しかし、長年シャンプーを使っている場合、皮脂腺が発達し過ぎているため、臭いやベタつきが続くことがあります。
どうしても気になるときは、一時的にぬるま湯を使ったり、長髪の場合は髪をくくったりするなどがよいでしょう。見た目が気になるときは、ウィッグをつけるという方法もあります。臭いについては、毛先にお気に入りのオーデコロン(香水)をつければ、安心感も得られます。


この記事は『安心』2022年7月号に掲載されています。
www.makino-g.jp