解説者のプロフィール

柴田重信(しばた・しげのぶ)
早稲田大学先進理工学研究科 電気・情報生命専攻薬理学研究室教授。薬学博士。1981年、九州大学大学院薬学研究科博士課程修了。早稲田大学人間科学部教授などを経て2003年より現職。日本時間栄養学会会長も務める。『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門』(講談社)、『食べる時間を変えれば健康になる』(ディスカヴァー21・監修書)など、著書・監修書多数。
腎臓が悪いと高血圧を招く理由
私たちの体は、朝の光によって目覚め、夜が深まれば眠くなるという、自然に沿ったリズムを持っています。
このリズムを刻んでいるのが体内時計です。体内時計は脳や全身の臓器にあり、生体の働きをコントロールしています。
私たちが臓器にある体内時計を調べたところ、腎臓は時計機構がよく働いて、明確な日内リズムを刻んでいることがわかりました。老廃物のろ過や尿の生成、血圧の調整などは、体内時計にしっかり制御されているのです。
また以前から、腎臓の機能が低下した慢性腎臓病(CKD)患者には、中途覚醒などの睡眠障害が多く、体内時計の乱れが指摘されていました。
そこで私たちは、慢性腎臓病に対する体内時計の影響や睡眠障害との関係を、マウスを使って検証しました。
マウスは、腎臓の機能を低下させて炎症を起こし、人工的に慢性腎臓病にした「CKDモデルマウス」を使いました。
このマウスと健常マウスの日内リズムを比較したところ、CKDマウスは活動期の夜間もあまり動かず、眠りが細切れで睡眠障害の傾向が見られました。
排尿には日内リズムがありますが、CKDマウスは尿量が増え、昼夜のリズムに関係なく排尿がありました。高血圧・低心拍数の症状もみられました。
血圧は通常、昼間に上がって夜間(睡眠時)は下がります。ところが腎臓が悪いと、睡眠時に血圧が下がらない「ノンディッパー型高血圧」になりやすくなります。CKDマウスも、ノンディッパー型を示しました。これは心血管リスクが高い、予後の悪い高血圧です。
CKDマウスの体内時計を測定すると、中枢(脳)時計に大きな減弱はなかったものの、末梢の腎臓時計は日内リズムのメリハリが失われていました。
このことから、慢性腎臓病になると体内時計(特に末梢時計)が乱れ、それが睡眠障害やノンディッパー型高血圧を引き起こすことが示唆されました。
朝の光を浴びて腎機能を整える
ここまでは、「慢性腎臓病が体内時計の乱れを引き起こす」という話でしたが、では「体内時計の乱れ」自体は、腎臓にどう影響するのでしょうか。
それを調べるために、時計遺伝子を変異させたCKDマウスと、通常のCKDマウスを比較しました。
その結果、時計遺伝子を変異させたCKDマウスは、通常のCKDマウスよりさらに高血圧や低心拍数傾向を示し、早い時期から腎機能の悪化(尿中クレアチニン値の低下や尿素窒素の上昇)がみられました。かつ、腎臓の炎症や繊維化(繊維組織が増えて硬くなること)も進んでいました。
以上のことから、慢性腎臓病になると体内時計が乱れやすいだけでなく、体内時計の乱れが、さらに慢性腎臓病の発症や悪化を早めることがわかりました。
体内時計の乱れによって、臓器の機能の昼夜差が失われると、慢性腎臓病に限らず、睡眠障害やうつ病、肥満、糖尿病など、さまざまな病気の原因になります。これは「生活リズム病」と言ってもいいでしょう。
日内リズムが狂って病気になるわけですから、日内リズムを整えれば、生活習慣病の予防につながる可能性があります。
特に腎臓はリズム性のある臓器なので、リズムを意識した生活を心がけるといいでしょう。
昼行性動物の人間では、腎臓は昼間働いて、夜は休んでいます。その働かない時間帯は、腎臓も働きたがりません。
ですから、朝早く起きて朝食をしっかりとり、日中は体を動かして、早めに夕食を済ませます。遅い時間に肉やご飯を食べると、アミノ酸やグルコースが夜中に腎臓で再吸収され、腎臓に多大な負担がかかります。
体内時計は、地球上のほぼ全ての動物が持っています。地球は自転して昼と夜を作っていますから、地球に住む限り、昼夜のリズムに逆らって生きることはできません。
しかし、唯一それに逆らって生きることができるのが、人間です。とはいえ、あまりに体内時計を無視した生活をしていると、やがてしっぺ返しを食らうことになります。
コロナ禍で在宅勤務が続くと、体内時計が乱れやすくなります。せめて早起きして朝の光を浴び、1日をリセットしてください。
体内時計がしっかり時を刻んでいれば、腎臓を守ることにつながるだけでなく、ウイルスに対する防御機構もしっかり働いてくれます。

早寝早起きの生活習慣が腎臓を守る
■イラスト/D=ジュンク

この記事は『安心』2022年7月号に掲載されています。
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