血管は、体内で真っ先に老化が進む箇所です。血流が悪くなれば、むくみや冷え、血圧上昇などのリスクが高まり、動脈硬化も助長します。脳血管疾患や心疾患などの危険性も上がるのです。これらの不調や病気を防ぐには、生活習慣の見直しとあわせて「ふくらはぎ」をほぐす習慣をつけることがお勧めです。【解説】新浪博士(東京女子医科大学病院副院長・心臓血管外科主任教授)

解説者のプロフィール

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新浪博士(にいなみ・ひろし)

東京女子医科大学病院副院長・心臓血管外科主任教授。1962年、神奈川県出身。1987年、群馬大学医学部卒業後、東京女子医科大学大学院修了。同年、東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所に入所。アメリカ・ウェイン州立大学、オーストラリア・アルフレッド病院などに留学し、心臓血管外科の研究と治療に従事する。帰国後は東京女子医科大学助教授、順天堂大学助教授、埼玉医科大学教授を経て、2017年より現職。年間300症例の手術を手がけるスーパードクターとして知られる。著書に『数こそ質なり 「人の10倍の手術数」の心臓外科医が実践するプロの極意』(KADOKAWA)などがある。

ふくらはぎほぐしで病気を防ぐ

血管は、体内で真っ先に老化が進む箇所です。

一般に、加齢による血管機能の衰えが始まるのは男性で40代、女性で50代からといわれています。また、喫煙習慣や糖尿病などの病気によっても血管機能は低下します。

これらが原因で血流が悪くなれば、むくみや冷え、血圧上昇などのリスクが高まります。さらに、血流が悪くなるほど血管の老化が進みやすくなるため、動脈硬化も助長します。脳血管疾患や心疾患などの危険性も上がります。

これらの不調や病気を防ぐには、生活習慣の見直しとあわせて「ふくらはぎ」をほぐす習慣をつけることがお勧めです。

その理由のキーワードになるのが「血管内皮細胞」。血管の内壁を構成し、血液に直接触れている細胞です。この細胞には、健康な血管の維持に役立つ2つの機能があります。

血管を守る「バリア機能」

LDL(悪玉)コレステロールやAGE(高血糖がもたらすたんぱく質と糖が結びついた物質)などの、血液中に存在する悪い成分が血管壁に入り込むのを防ぎます。

血管拡張を促す「活性化機能」

血管内皮細胞は、血管を広げる働きを持つ一酸化窒素(以下NO)を分泌します。血管が広がれば血液は流れやすくなるので、当然血圧は下がります。

さらに、NOには血管の弾力性を保ったり、傷ついた血管壁を修復して血栓(血液の塊)を防いだりする働きがあります。血液中のNOが増加すれば、血管の健康維持と血流の改善が期待できるでしょう。

全身の血流がよくなり筋力維持にも役立つ

NOを増やすには、運動や入浴によって血流をよくするのが効果的です。血流の圧力が血管内皮細胞を刺激することで、NOの分泌が促されるのです。

そこで有効なのが、マッサージなどで外部から動脈を直接刺激すること。特に、ふくらはぎをほぐすのが有効です。

動脈の多くが体の深部に通っている一方、ふくらはぎにある前・後脛骨動脈と腓骨動脈は、体表の近くを通っています。

つまり、ふくらはぎは体の中でも数少ない、動脈を直接刺激できる位置なのです。

また、ふくらはぎは「第二の心臓」との呼び名がつくほど血流とも深く関わっています。

ふくらはぎの筋肉は、収縮と弛緩をくり返すことで、静脈の血液を心臓へ送り戻すポンプのような働きを持っています。

しかし、静脈の血液は重力に逆らって流れており、血流が弱くなっています。そのため、血管内皮細胞への刺激も弱く、NOはそれほど分泌されません。

ふくらはぎの筋肉を刺激すれば、静脈の血流もよくなって、NOの分泌がさらに増えると考えられます。

ふくらはぎへの刺激を習慣にすれば、下半身だけでなく全身の血流がよくなって、むくみや冷え、高血圧、動脈硬化などの予防・改善も期待できます。

ふくらはぎをほぐすポイント

力を入れ過ぎない
強くほぐし過ぎると、内出血を起こす可能性も。気持ちいいと感じる力で刺激する。

全体をまんべんなく
血流をよくするイメージで、ふくらはぎ全体をまんべんなくほぐすとよい。

ひざ裏や足首も一緒に
ひざの裏や足首にも動脈が通っているので、余力があるときは、これらの部位もあわせて刺激する。

症状が気になるタイミングで
予防・改善したい症状が出やすいタイミングで行えば、より高い効果が期待できる。
(例)朝に血圧が上がりやすい……起床後・夜に足がむくむ……お風呂上がりのリラックスタイム

ふくらはぎをほぐすポイントを、上にまとめました。特にこの習慣をつけてほしいのは、次のような人です。

運動を習慣にしづらい人

ふくらはぎへの刺激は、体力が衰えた人でも簡単に行えます。そのため、運動を習慣にしづらい人でも、簡単に血流をよくすることができます。

ふくらはぎが柔らかい人

筋力が衰えている人のふくらはぎは、フニャフニャで柔らかくなっています。ふくらはぎ周辺の血流をよくすることは、筋力維持の助けにもなるので、こうした人にもお勧めです。

動脈硬化を予防したい人

加齢による動脈硬化は、足にできやすいことで知られています。特に糖尿病の人は、高血糖で血管壁が損傷するため、動脈硬化を起こしやすいといわれています。

こうした足の動脈硬化の予防にも、ふくらはぎへの刺激が役立ちます。

ただし、すでに起こってしまった動脈硬化は、マッサージではよくなりません。歩くと足のしびれや痛みが増す、間欠性跛行などの症状がある人は、まずは受診してください。現在足に動脈硬化がある人は、治療とあわせて行いましょう。

ふくらはぎほぐしは、時間もお金もかからず、健康な血管の維持に役立つセルフケアです。ぜひ、生活習慣に取り入れてみてください。

画像: この記事は『安心』2022年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年7月号に掲載されています。

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