解説者のプロフィール

松生恒夫(まついけ・つねお)
松生クリニック院長。1955年東京都生まれ。1980年、東京慈恵会医科大学卒業。同大学第三病院内科助手、松島病院大腸肛門センター診察部長を経て、2004年に松生クリニック(東京都立川市)を開業。大腸内視鏡検査や炎症性腸疾患の診断と治療を得意とし、これまでに行った大腸内視鏡検査は5万件を超える。EXVオリーブ油の保温力の高さを証明した実験の特許出願中。『腸の冷えを取ると病気は勝手に治る』(マキノ出版)が好評発売中。
▼松生クリニック
腸の状態が悪い人は血糖値も高かった
私は、これまでに5万件以上の大腸内視鏡検査を行ってきました。その経験から、腸内環境が良好であれば、大腸がんや便秘だけでなく、糖尿病や肥満にもなりにくいと考えています。
それを裏付ける研究結果が、2015年3月に発表されました。アメリカのイリノイ大学の研究チームが「血糖コントロールと腸内細菌には強い関連がある」と報告。これは、糖尿病の発症リスクの高い男性を対象とした調査です。
調査には45~75歳の男性116人が参加し、
①血糖値が徐々に適切な範囲で維持されるようになった
②血糖値がずっと正常
③血糖値が徐々に適切な範囲でコントロールできなくなった
④血糖値がずっと高い
の4つのグループに分けられました。
参加者の便を調べて腸内細菌の状態を確認したところ、①と②のグループは腸内細菌が多く見られ、体の機能によい影響を与える善玉菌も多いことが判明しました。
しかし、③と④のグループは腸内で善玉菌が少なく、悪影響を与える悪玉菌が増えていたのです。研究チームは「糖尿病を改善する腸内細菌が存在するかもしれない」と述べています。
つまり、腸内環境を整えれば、糖尿病を予防・改善できる可能性があるということです。
血糖値のコントロールは、肥満にも関係します。
食事で糖質をとると、血糖値が上がります。すると、体は血糖値を下げるために、膵臓からインスリンというホルモンを分泌させます。インスリンが血液中の糖を細胞に取り込ませるよう命令することで、血糖値は下がります。
このとき、大量の糖が細胞に入ってくると、血糖値が急上昇し、インスリンが過剰に分泌されます。すると、糖から中性脂肪が合成され、蓄積してしまうのです。こうして中性脂肪が増えると、肥満につながります。
ですから、血糖値の急上昇を抑えることは、肥満の予防にもつながるのです。
大麦の成分が腸の病気に有効
腸内環境を整えることで、血糖値をコントロールし、肥満を防ぐ──。では、腸のために何をすればよいのでしょうか。
腸内環境の改善には食物繊維、中でも水溶性食物繊維が重要です。水溶性食物繊維は、善玉菌の栄養分になるからです。
さらに、腸内細菌は水溶性食物繊維から「短鎖脂肪酸」という物質を作り出します。短鎖脂肪酸の一つである酪酸には、肥満を防ぐ効果があることが研究で明らかになりました。
水溶性食物繊維を含む食品は多くありますが、私は、大麦に含まれるβ-グルカンという食物繊維が腸の病気に有効であることを、約20年前に確認していました。
β-グルカンは、麦類に特徴的に含有されている成分です。品種や栽培条件で異なりますが、含有量は3~7%です。
現代人は、食物繊維の摂取量が少なくなっています。成人1日当たりの推奨量は20gですが、実際は約14gしかとれていないというデータもあります。
不足しがちな食物繊維を補うには、主食に大麦を取り入れるといいでしょう。白米に混ぜて炊くだけなので、特別な調理は不要です。手軽に食物繊維の摂取量を増やせます。
大麦ごはんの作り方

材料(2食分)
米…1合
スーパー大麦…大さじ3
水…米を炊く分の水+スーパー大麦の分(70ml)
1. 米を研いで炊飯器に入れる。
2. 炊飯器に1合の目盛りまで水を入れる。
3. スーパー大麦とスーパー大麦の分の水を入れる。
4. 炊飯する。
※スーパー大麦は研ぐ必要はありません。
大麦の種類について
大麦は、米や小麦と同じイネ科の穀物です。歴史は古く、古代エジプトでも食べられていました。大麦ごはんは白米と比較すると、食物繊維がとても豊富です。
主食として食べられている大麦には、麦飯でおなじみの「押し麦」、栄養価の高い胚芽を残した「胚芽押し麦」、外皮を取り除いて丸く削った「丸麦」、米の形に加工された「米粒麦」、水溶性食物繊維が豊富でもちもちとした食感の「もち麦」、そして、オーストラリア連邦科学産業研究機構が開発した「スーパー大麦」があります。
スーパー大麦はもち麦の一種ですが、食物繊維の量が100g中に23.3gと普通のもち麦より格段に多く、白米の約40倍も含まれています。そして「セカンドミール効果」といって、食物繊維による糖質の吸収を抑える働きが次の食事まで続くため、ダイエットに効果を発揮します。
[安心編集部]

この記事は『安心』2022年7月号に掲載されています。
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