リバウンドの原因は「やる気」や「意志」といった精神面ではありません。食事制限などによるストレスで、体を冷やしてしまう点にあるのです。冷えが原因でエネルギー代謝が落ちると、食事量を減らしてもやせにくくなります。さらに、心身のバランスを大きく崩し、過食が止まらなくなって、体重が増えるのです。【解説】石原新菜(イシハラクリニック副院長)
解説者のプロフィール

石原新菜(いしはら・にいな)
イシハラクリニック副院長。医師。帝京大学医学部卒業後、大学病院での勤務を経て、現在、自然医学の泰斗で医学博士の父、石原結實氏が院長を務めるイシハラクリニックで、漢方医学、自然療法、食事療法により、さまざまな病気の治療に当たっている。雑誌をはじめ、テレビやラジオなどのメディアへの出演が多数。
体が冷えると過食が止まらない
「やせるためには、食事するのを我慢しなければならない」
「ダイエットを成功させるには、強い意志が必要だ」
「生活習慣を根本的に変えなければ、やせることなど絶対にできない」
このように、自分を追い込む形でダイエットに取り組んできた人は多いのではないでしょうか。私たち医師も、以前はカロリー計算などを患者さんに徹底してもらう形で、ダイエット指導を行ってきました。
しかし、普段の食事が栄養面で偏っており、体を冷やすような生活を送ってきた場合は逆効果なことも。なぜなら、過度な食事制限は、結果的にリバウンドを招くことが多いからです。
リバウンドの原因は、「やる気」や「意志」といった精神面ではありません。食事制限などによるストレスで、体を冷やしてしまう点にあるのです。
冷えが原因でエネルギー代謝が落ちると、食事量を減らしてもやせにくくなります。さらに、心身のバランスを大きく崩し、過食が止まらなくなって、体重が増えるのです。
私自身のこれまでの人生を振り返っても、最も太っていたのは多大なストレスを受けていた医学生の頃でした。
親元を離れて一人暮らしを始め、勉強が大変なので、栄養のバランスなど全く考えない生活を送っていました。すると、どんどん太って、体重は63kgぐらいにまで増加。加えて、肩こりや頭痛、便秘、むくみ、多汗、ニキビと、多くの不調にも悩まされました。
大学病院の研修医になり、休みは1ヵ月に1日程度と、以前に増して忙しくなりました。動悸を起こしたりや脂汗が出るたりするようになり、生理も止まりました。
医師である父(※イシハラクリニック院長の石原結實先生)に体調について相談したところ、体の冷えが原因だと指摘されました。そして、父のアドバイスを受けて自炊を始め、「ショウガ」を積極的に取り入れて体を温めるよう心がけました。
すると、半年で10kgもやせて、元の体重に戻ったのです。肩こりやニキビ、動悸などといった不調も消えました。
医師として忙しい日々を送っていても、体を温めるように工夫すれば、食事量を減らさなくても自然と健康的にやせていくのです。そんな私の体験から、肥満や生活習慣病の患者さんには、冷えの解消方法をお伝えしてきました。

石原先生はショウガで体を温めることでダイエットに成功
血糖値、血圧、中性脂肪数値が軒並み改善
中でも強い効果を発揮するのが、「酢ショウガ」です。これはショウガを酢に漬けたもので、9年ほど前からわが家の常備菜になっています(作り方は別記事参照)。
[別記事:1日スプーン3杯で太らない体に変わる神食材 酢ショウガの作り方&代謝促進レシピ→]
酢ショウガを取り入れている患者さんも多数いらっしゃいます。「体の痛みが取れた」「よく眠れるようになった」「便秘が治った」など、さまざまな報告を受けてきました。
劇的な効果があったのは、50代男性のNさんです。Nさんはすし職人で、一日の営業が終わった深夜にラーメンなどを食べる生活を送っていました。そのため、典型的な肥満体形になり、血圧や血糖値も上がってしまいました。
Nさんに42日間にわたって酢ショウガを1日大さじ3杯食べてもらったところ、体重は88.8kgから83.7kgになりました。仕事が忙しいNさんは、この期間も以前と変わらない生活を送っていたと話していました。ですから、ここまで体重が減ったのは、酢ショウガの効果といえます。
食事に酢ショウガをプラスするだけでやせられたのは、酢とショウガの相乗効果によるものだと考えられます。
酢ショウガでやせたNさんの事例
Nさんが酢ショウガを42日間食べたところ、以下の変化があった。
●体重
88.8kg → 83.7kg
●血圧
(上)150mmHg → 138mmHg
(下)94mmHg → 84mmHg
(基準値は上の血圧が140mmHg以上かつ下の血圧が90mmHg以上)
●空腹時の血糖値(基準値は110mg/dl未満)
151mg/dl → 110mg/dl
●ヘモグロビンA1c(基準値は4.6~6.2%)
7.2 → 6.3%
●中性脂肪値(基準値は150mg/dl未満)
261mg/dl → 68mg/dl
●総コレステロール値(基準値は220mg/dl未満)
227mg/dl → 199mg/dl
漢方薬としても使われてきた
まず、酢は、血圧を下げたり、食後の血糖値の上昇を抑えたり、血液をサラサラにして血栓(血液の塊)をできにくくしたりする働きがあります。
また、腸内環境を整え、内臓脂肪を減らす効果も報告されています。
そしてショウガは、漢方薬の材料として古くから使われてきました。血流をよくして体を温めたり、病気から体を守る「免疫力」を高めたりする成分が含まれています。
漢方薬だけでなく、食べ物や飲み物、さらにスイーツにまで、洋の東西を問わず活用されていて、安心して使える点もショウガの魅力です。
食品などを取り締まるアメリカ合衆国の政府機関であるFDA(アメリカ食品医薬品局)は、ショウガを「副作用のないハーブ」として認めています。
漢方では、生のショウガを干しただけの「生姜」には健胃作用があるとされています。また、ショウガを蒸してから乾燥させた「乾姜」は、胃腸の冷えによる下痢や便秘、腹痛に対して使われてきました。
生姜も乾姜も「気剤」と呼ばれ、生命エネルギーである気の流れを促すために使われてきました。
なんとなくだるい、朝起きられない、寝つけないといった症状が、ショウガをとると改善される場合があります。
ちなみに、生のショウガのピリッとした辛味成分を「ジンゲロール」といいます。殺菌効果がある他、胃腸の働きを助けたり、血管を拡張させて血流を促進したりします。
このジンゲロールに熱が加えられると、「ショウガオール」といって、じんわりとした辛味成分に変化します。ショウガオールは体の脂肪を燃焼させて、内部から熱を発生させる効果を発揮します。
酢ショウガを作る際には、細かく刻んだショウガを電子レンジで加熱します。こうすることで、ジンゲロールの一部がショウガオールに変わるため、両方の効果を得ることができるようになります。

●酢は血糖値の上昇を抑えるほか、内臓脂肪を減らす!
●「ジンゲロール」が血流を促進する!
●「ショウガオール」が体の脂肪を燃焼させる!
●いろいろな料理にプラスできておいしい!
2週間保存できる!煮魚の臭み取りにもよい
ショウガは傷みやすい食材ですが、殺菌効果の高い酢とあわせて酢ショウガにすると、冷蔵庫で2週間ほど保存が可能になります。長期保存ができる点も、酢ショウガの魅力ではないでしょうか。
ショウガの血流改善効果が続くのは、食べてから3~4時間だとされています。ですから、1日に大さじ3杯を目安に、朝昼晩と酢ショウガを食べるといいでしょう。
料理については、煮魚に使うと魚の生臭さが取れ、焼き肉やハンバーグなどにかけると脂っこさがマイルドになります。
酢のツーンとした酸っぱさが気になる人は、加熱することでその成分が飛ぶので、煮たり焼いたりするときに使うのがお勧めです。
それから、焼きそばなどの麺類などのトッピングや、白いご飯のおかず、サラダのドレッシングにも、酢ショウガはぴったりです。
材料選びについて補足しておきましょう。
酢には種類がありますが、色の濃い黒酢などは、アミノ酸やビタミン、ミネラルを多く含んでいるので、栄養価が高いといえます。さらに、酢を醸造するときに欠かせない酢酸菌がろ過されていないので、透明で色の薄い酢よりも、腸内環境を整える効果が高いと考えられます。
ただ、それほど種類にこだわる必要はありません。手に入りやすい酢を使ってもらえればと思います。
しっかりと食べながら、無理なく健康にやせるために、ぜひ酢ショウガを活用してください。
最後に、酢もショウガも古くから親しまれてきた食品なので、多くの人に安心してお勧めできるものですが、胃の弱い人は、少し注意が必要です。
というのも、空腹のときに大量にとると、胃を強く刺激する可能性があるからです。
胃の弱い人は、最初は少量にとどめ、様子を見ながら量を加減してください。また、胃に食べ物が入っている状態で、酢ショウガをとりましょう。
石原先生おすすめの酢ショウガレシピ

酢ショウガトマト
相性は抜群。簡単に作れて、これからの季節にさっぱりといただけます!

酢ショウガとダイコンのサラダ
ダイコンには消化を助ける酵素があり、食欲がないときなどに私もよく食べています!

酢ショウガ紅茶
血液サラサラに最強の飲み物です。冷たい紅茶ともよく合います!

この記事は『安心』2022年7月号に掲載されています。
www.makino-g.jp