新薬の研究開発では、薬の候補となる物質を選び出し、試験管内の試験や動物試験で作用や効果、安全性などを調べます。そして、製造販売の承認を目的として、動物試験で効果や安全性の確認された薬の候補が、人でも安全で有効かどうか調べる臨床試験を、治験といいます。【解説】蚊爪一成(ピーワンクリニック臨床研究部薬剤科薬剤師)

非常に慎重な試験から段階的に進んでいく

近年、新型コロナウイルスワクチンや新薬に関するニュースで、「治験(ちけん)」という言葉を耳にする機会が増えました。「治験ではどんなことが行われているの?」と興味を持っている人が多いかもしれません。

そこで、治験に携わる薬剤師の立場から、新薬の治験について解説しましょう。

画像: 蚊爪一成先生

蚊爪一成先生

新薬の研究開発では、薬の候補となる物質を選び出し、試験管内の試験や動物試験で作用や効果、安全性などを調べます。そして、製造販売の承認を目的として、動物試験で効果や安全性の確認された薬の候補が、人でも安全で有効かどうか調べる臨床試験を、治験といいます。

ここで臨床現場における薬の安全性について説明します。薬の作用には、症状の改善や病気を治すといった有益な作用(ベネフィット)のほかに、副作用といった好ましくない作用(リスク)があり、どんな薬にもリスクはあります。

新薬の承認審査では、「ベネフィットと比較してリスクが許容できる範囲か」「リスクがコントロール可能か」という観点で安全性を評価します。

例えば、抗がん剤には吐き気や便秘といった副作用のある薬がありますが、対策のひとつとして、ほかの薬で抑えることも可能です。これらはコントロール可能なリスクで、安全性の観点からも許容できる範囲である、と判断されるわけです。

治験は第1相から第3相の3つの段階を踏んで行われます。

第1相では、基本的に健康な成人男性に治験薬(薬の候補)が投与されます。薬剤が人体に安全なのか、体にどのくらい吸収されて、どのくらいの時間で体外へ排出されるかという「薬物動態」などを主に調べます。

人に対して行われる最初の試験で、人体への影響がまだわからないため、第1相は非常に慎重に行われます。最初は少量の薬を1回だけ投与し、短い間隔で採血をして薬剤の血中濃度の変化を調べたり、尿や便などを検査して薬がどのように体外へ出ていくのかを調べたりします。

この期間中は、肝機能など各種血液検査の数値も注意深く観察し、治験薬との因果関係を調べていきます。

その後、投与する薬剤の量を徐々に増やしたり、毎日くり返し投与したりする試験へ進みます。ここで人に対する安全性が確認された治験薬が、第2相に進みます。

第2相の主な目的は、引き続き治験薬の安全性に加え、有効な用法や用量を調べること。少数の患者さんを対象に、病気を治す効果があるのか、どのような効き方か、どの程度の量やどんな使い方が最適なのか、などを調べます。

最後の第3相では、多くの患者さんに治験薬を使用してもらい、効果や安全性を最終的に確認します。これらの治験で得たデータを基に、厚生労働省所管のPMDA(医薬品医療機器総合機構)に承認申請を行います。

審査を経て承認されれば、製造や販売の許可が下り、新薬として一般の患者さんたちの治療に使われます。こうした一連の流れは、治験だけでも数年を要し、開発から販売まで約10~18年ほどかかります。

新薬ができるまでの流れ

【基礎研究】
薬の候補となる化合物を作り、その可能性を調べる試験管内試験
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【非臨床試験】
動物を使い、薬物の有効性や毒性を調べる
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【治験】
第1相:主に安全性や薬物動態を調べる
第2相:主に安全性や用法、用量を調べる
第3相:大人数で効果や安全性を最終確認
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【申請・審査】
PMDAで承認審査
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 製造・販売

認知症などの根本的治療に向けますます重要に!

治験はさまざまな安全対策の下で行われています。

治験を行う製薬会社や医療機関は、医療に関する法律や、GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)という規則を守らなければなりません。この規則は国際的に認められています。

治験の試験計画はIRB(治験審査委員会)という第三者委員会で倫理性や安全性、科学的な妥当性を審査され、審査に通らないと治験は実施できません。

万が一、治験の被験者に有害事象(副作用を含む、あらゆる好ましくない医療上の出来事)が発生した場合は、速やかに被験者に医療的措置を行うとともに、治験の責任医師や製薬会社、IRB等で試験を継続してよいかを判断します。

同時に、被験者の参加継続意思に影響ありと判断された場合は、同意説明文書を改訂して、このまま治験に参加していただけるか確認します。

治験は製薬会社と実施機関だけでなく、さまざまな第三者機関が連携して安全性を確保しているのです。

医療が発達した現代でも、認知症など、まだ治療が難しい病気はあります。これらの病気の根本的治療を目指すのに伴い、治験を含む新薬開発は、ますます重要性を帯びています。

しかしコロナ禍で、欧米と比べて日本は、こうしたことが遅れていると浮き彫りになりました。院長の降旗謙一をはじめ、当クリニック一同は、こうした課題と向き合って日々の業務に励んでいます。皆さんのご理解とご協力も不可欠です。

ともに歩み、さまざまな病気に苦しむ患者さんたちへ、新たな解決策を提示していくことができればと願っています。

画像: この記事は『壮快』2022年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年7月号に掲載されています。

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