副作用は一時的でも特徴を把握するのが重要
私は病院薬剤師として、主に入院患者さんの治療に携わっています。通常業務に加え、外来がん治療認定薬剤師の資格を取ったことで、数年前から外来で抗がん剤治療を受ける患者さんにもかかわっています。
外来がん治療認定薬剤師としての主な業務は「医師が処方する抗がん剤の種類や投与量が適切かどうかの確認」「患者さんへの治療や副作用の説明」「治療の効果や副作用を患者さんから聞いて、医師や看護師と情報を共有する」いったことが挙げられます。効果的で安全な薬物治療が行われるようにサポートすることが、私の仕事です。
こうした業務に携わる立場から、抗がん剤の働きや副作用について、解説します。
現在使われている主な抗がん剤は、作用機序によって4つのタイプに大きく分けられます。下に、その4タイプの抗がん剤についてまとめたので、ご参照ください。
抗がん剤の主な働きと副作用
【殺細胞性抗がん剤】
主な働き
細胞が分裂して増える過程に作用して、細胞増殖の盛んな細胞を死滅させる。昔からあるタイプで、幅広い種類のがんに使われている。
副作用
がん細胞だけでなく、正常な細胞も攻撃するため、吐き気や脱毛、貧血、骨髄抑制(血液細胞を作る骨髄の働きが低下すること)といった症状が現れることがある。
【分子標的薬】
主な働き
がん細胞の表面にある、特定のたんぱく質や遺伝子を標的にして攻撃する。がん細胞だけを狙い撃ちできるので、正常細胞へのダメージが少ないといわれている。
副作用
吹き出物や湿疹といった皮膚障害や下痢、高血圧など、従来と異なった副作用を持つ薬がある。
【ホルモン療法薬】
主な働き
乳がんや前立腺がんなど、性ホルモンが影響するがんに使う。内服薬があり、外来通院で治療できる。
副作用
副作用は比較的穏やかとされている。性ホルモンの分泌や働きを抑えるので、体のだるさや更年期障害に似た症状、性欲減退といった症状が現れることがある。甲状腺機能障害などの報告もある。
【免疫チェックポイント阻害薬】
主な働き
がん細胞が持つ「免疫チェックポイント」は、体の免疫細胞からの攻撃をブロックしている。このブロックを解除し、免疫の攻撃力を回復させてがん細胞の増殖を抑える。
副作用
新しい種類の薬であり、副作用について不明な点がある。免疫の働き過ぎによって症状が現れることがあり、間質性肺炎や1型糖尿病、腸炎、甲状腺機能障害などの報告もある。
抗がん剤治療は、抗がん剤の種類や投与法、期間、手順などが治療計画として決められています。患者さんがどこの病院でも有効で安全な治療を受けられるように、各病院で管理されているのです。
加えて、以前と比べて副作用に対する予防法や治療法が増え、患者さんの負担は減ってきました。例えば、副作用として吐き気が起こる可能性のある抗がん剤を服用するときは、吐き気止めの薬も同時に処方して、予防的に服用していただくことがあります。
便秘や下痢、発熱、体の節々の痛みなどの副作用も、多くのケースは事前に薬を処方して、症状が出たときに自分で対処できるようにします。
抗がん剤の副作用は一時的なものが多く、ほとんどが回復するものだと考えて大丈夫です。
薬の種類により副作用は異なるので、自身が受ける抗がん剤治療の特徴を把握しておくことは重要です。いつどんな副作用が現れる可能性があるか、症状は何日くらい続くのかを知っておくことで、心構えができて予定を立てやすくなるでしょう。
コロナ禍でも今までと注意点は変わらない
さて、抗がん剤治療中は免疫力が低下しうる時期があるため、患者さんやご家族は、新型コロナウイルスに不安を抱えていると思います。なかには、長引くコロナ禍で、特に何に気をつければいいか、気になっている人もいることでしょう。
私は患者さんたちに「コロナ禍であろうと、気をつけることは通常時と変わりません」と説明しています。
ほかの感染症対策と同様に、ふだんからマスクを着用し、帰宅したら手洗いやうがいを忘れずにしてください。体温を毎日測り、万が一発熱したときに、いち早く気づけるようにすることも大事です。

帰宅したら今までどおり手洗いやうがいを忘れずに!
「抗がん剤治療中にワクチンを接種していいか」という質問をいただくこともあります。
日本癌治療学会と日本癌学会、日本臨床腫瘍学会の3学会は共同で「新型コロナウイルス感染症とがん診療について」という患者さん向けの文書を発表しています。
これに「がん患者は非がん患者に比べてワクチンによる感染予防効果が低下する可能性はあるが、それでもその効果は有意義であり、積極的な接種を検討するべきと考えられる」といった記載があります。
ただし、抗がん剤の影響で免疫力低下やほかの副作用が現れている時期にワクチンを接種するのは、避けたほうが望ましいとされています。接種のタイミングは医師や薬剤師に相談しましょう。
私たち病院薬剤師は、医師や看護師のほかにも、近隣の調剤薬局の薬剤師とも連携を進めています。
病院薬剤師は主に入院中の患者さんのサポートを行い、薬局薬剤師は退院後や外来通院中の患者さんをサポートしています。それぞれがサポートを行ううえで必要な情報を病院と薬局間で共有して、ともに抗がん剤治療を支えていけるよう努めています。
抗がん剤治療中に少しでも気になることがあれば、ぜひ私たち薬剤師に相談してください。

この記事は『壮快』2022年7月号に掲載されています。
https://www.makino-g.jp/book/b605811.html