解説者のプロフィール

久保田佳代(くぼた・かよ)
氣生薬局代表・薬剤師。昭和薬科大学卒。心理カウンセラー。マルエ薬局(駒込にある老舗漢方薬局)にて漢方修行を積む。八ツ目製薬八ツ目漢方薬局上野店店長を経て、2001年に長野市にて久保田薬局「漢方薬の氣生」を開局。15年に氣生薬局を新宿三丁目に開局、18年に豊島区南大塚へ移転し、現在に至る。サプリメントアドバイザー資格取得など、所有資格多数。コラムの執筆や記事の監修、テレビ出演など、メディア出演にも活発に行っている。
西洋薬は病気が標的 漢方薬は原因が標的
私たちの身近にある薬に漢方薬があります。しかし「どんな特長があるのか」「どんなときに利用するといいのか」といった疑問がある人は、ふだん利用しない人をはじめ、少なからずいることでしょう。そこで、西洋薬と比較しつつ、漢方薬の特長について解説します。
まずは両医学の背景を見てみましょう。
西洋医学は治療対象を病気そのものに絞り、検査値や症状から診察します。エビデンスを基に、科学的な知見から治療を行う対症療法です。
一方、東洋医学では心身の状態から取り巻く環境までを含む、病人そのものが治療対象。
診察では、
「望診」(肉付きや骨格、顔色など患者全体の視覚情報を集める)
「聞診」(声や呼吸音、腸の蠕動音などを聞く)
「問診」(患者や家族から病歴、主訴、家族歴などを聴取)
「切診」(患者に触れて脈拍や腹部の所見の有無を判断)
の四診を行います。
基本的になぜその症状があるか、その人の背景から診断し、根本から治療します。例えば肩にコリがある場合、肩こりひとつで捉えず、その要素をひもといていきます。筋肉や骨格など物理的によるものか、内臓の影響によるものかなど、ほかにどのような症状が現れているかにより、肩こりの原因は異なります。根源を突き止め、包括的に治療していくのです。
このような考え方の違いは、薬にもよく表れています。
西洋薬は、有機合成反応でできた化合物や、人工的に抽出した有効成分で作られます。かたや漢方薬は植物や動物、鉱物など自然界の天然物を、葉や根といった薬用部位で使用します。原料は「生薬」といい、産地によって細かい効能が異なります。これは土壌が違うためです。
東洋医学の根底には、「天人合一」という言葉があります。「天」は自然界を、「人」は人体を指します。このふたつは「合一」、つまり人体も自然界の一部であると考えるので、自然界の物を利用するというわけです。
代表的な効果として、過剰になった物を取り除き、足りない物を補って、「中庸」という心身の調和の取れた状態を保つようにする働きが挙げられます。有効成分のみならず、人智を越えた自然界のエネルギーが作用し、心身を整えるわけです。
前述のとおり、根本的な治療を目指しますので、同じ症状でも漢方薬は西洋薬と処方のしかたが異なります。
高血圧を例に挙げましょう。西洋薬では、「血圧」を下げる降圧剤を処方、と病気に標的を絞った薬が使われます。
漢方薬では同じ高血圧でも、患者によって薬が異なることは珍しくありません。赤ら顔やおなかが張っている、冷え症など、体質に合う薬を処方します。「血圧が上がる『原因』」を治す薬が使われるのです。
なんとなくの軽い不調にも効果的!
このような特長を持つ漢方薬は、次のような人にお勧めといえるでしょう。
①病院で病名がつかない
②西洋薬でなかなか治らない
③心的(内因性)症状が強い
④なんとなく(軽い)不調がある
⑤根本的に健康になりたい
④は「未病」といい、放置すると、ときには重病になることがあります。漢方薬は未病にも効果的です。なんとなくの段階を意識し、事前に病気になるのを防ぐことがたいせつです。
また、当薬局に来店される多くのかたは、⑤を願っていらっしゃいます。そのなかで、漢方薬を服用するようになって改善した症例を紹介しましょう。
Aさん(40代・女性)は、高血圧がなかなか改善しないのが悩みで来店されました。そこで、ふだんの生活や心の状態をご自身で把握してもらうためのカウンセリングを行いつつ、漢方薬を服用していただきました。
すると、約2ヵ月で最大血圧が160mmHgから140mmHg、最小血圧が90mmHgから70mmHgまで下がって安定したのです(基準値は最大血圧が140mmHg未満、最小血圧が90mmHg未満)。
このかたはカウセリングや漢方薬で改善しましたが、「西洋薬と漢方薬を組み合わせて服用していいか」という質問がたまにあります。
禁忌(投薬すべきでない患者やその状態、併用してはいけない薬剤のこと)の心配はあまりなく、薬次第で効果的になることもあるので、漢方薬を取り扱っている医師や薬剤師に、気軽にご相談ください。
最後に、常備しておくと役立つ漢方薬を下にまとめます。なじみのない人も、ぜひ参考にして、日常生活に漢方薬をうまく取り入れてください。
常備しておくと役に立つ漢方薬
●銀翹解毒散(ぎんぎょうげどくさん)
余分な熱を取り除いて、症状を鎮める。体が熱っぽく、口の中が乾燥してのどが痛むときや、声がしわがれているときにお勧め。
●麻黄湯(まおうとう)
抗ウイルス剤に匹敵する効果があると発表され、病院などでもインフルエンザに処方されるようになった漢方薬。スムーズに体を温めて汗で熱を発散させる作用がある。特に熱による関節痛に効く。
●葛根湯(かっこんとう)
「カゼかな?」「少し寒気がする」「首がこわばって、嫌な感じがする」といったときにお勧め。

この記事は『壮快』2022年7月号に掲載されています。
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