効果が変わりかねない5つのケース
私はこれまでドラッグストアや調剤薬局の業務に携わってきました。そのうち3年は離島で、いわゆる「へき地医療」を経験しています。
現在の薬局は在宅医療に力を入れており、私は訪問薬剤師として1日3~4軒、患者さんのご自宅に伺って服薬指導などを行うほかに、かかりつけ薬剤師として5~6人の患者さんを担当しています。
現職に限らず、日々の業務中に、薬についての質問をいただくことがよくあります。まず、なかでも多い疑問とその回答をご紹介しましょう。
「服用時に食べたり、飲んだりしてはいけない物はありますか?」という疑問です。
簡潔に回答を述べましょう。
薬によって注意すべき食材や飲み物はあります。
なぜなら、いっしょに食べたり飲んだりすることで、薬の効果が変わりかねないからです。主作用(薬本来の目的の働き)が現れにくくなることがあれば、逆に強く現れ過ぎることもあります。副作用(すべての薬にある本来の目的以外の効果)が想定以上に出ることもあるのです。

石井多門 先生
具体例を挙げて説明しましょう。
❶カルシウム拮抗薬(降圧剤)とグレープフルーツなど
特に多くのかたに知っていただきたい食べ合わせです。グレープフルーツの果肉には、この薬の分解反応を妨げる成分が含まれています。体内での薬の分解が遅くなるのです。
そうして、分解されていない薬が体内に長く留まることになり、血圧を下げ過ぎてしまいます。橙や文旦(ザボン)、スウィーティーも同じ成分を含むので、服用前後は避けてください。これらが含まれるジュースも同様です。
なお、同じ柑橘類でも、ミカンやオレンジ、レモンなどは薬に影響しないので大丈夫です。
❷ワーファリン(抗凝固薬)とビタミンKが多い物(納豆など)
血液をサラサラにするワーファリンは、ビタミンKの作用を抑える(合成を阻害する)薬です。ビタミンKを多く含む食品と同時に服用すると、薬の効果が弱まります。
ビタミンKが多い食材の代表格は、納豆やクロレラ(淡水産の緑藻類の一つ)などです。クロレラは青汁にも多く含まれるので要注意です。
緑茶はあまり気にしなくても大丈夫です。茶葉にビタミンKが含まれますが、あまり溶け出ないからです。ただし茶葉ごと飲む抹茶や粉茶は控えましょう。
ワーファリンには、ほかにも気をつける物が多くあるので、ぜひ薬剤師に聞いてください。
❸一部の抗生物質(抗生剤)とマグネシウムやカルシウムが多い物(牛乳や便秘薬、胃薬など)
ニューキノロン系抗生物質やテトラサイクリン系抗生物質は、マグネシウムやカルシウムと反応すると、体内へ吸収されにくくなり、効果が弱まります。
こうしたミネラルを多く含む牛乳やヨーグルトといった乳製品を、服用前後は避けてください。便秘薬の酸化マグネシウムや胃薬に含まれるアルミニウムでも反応することがあります。服用時間をずらしましょう。
❹アセトアミノフェン(頭痛薬)と炭水化物
炭水化物が多くあると、アセトアミノフェンは吸収されにくくなり、効果があまり得られないことがあります。服用前の食事は、ご飯やパン、麺類のとり過ぎに注意しましょう。
❺テオフィリン(気管支拡張薬)とカフェイン
コーヒーなど、カフェインの多い飲み物といっしょにとるのは避けてください。テオフィリンとカフェインは似た性質があるため、薬の主作用が強く出たり、頭痛などの副作用が起こったりすることがあります。
服用時の水の量は重要!白湯で飲むのもお勧め
ここまで注意すべき組み合わせを列挙しましたが、特別な理由がない限り内服薬はコップ半分以上(100~150ml)の水で飲みましょう。
ジュースやアルコールでは期待する効果が得られないことがあります。水の量も重要です。少量だと薬の溶ける時間が長くなり、効き方が変わることがあります。
冷たい水ではなく、胃腸にやさしい白湯で服用するのもいいでしょう。体温くらい(40度より少しぬるめ)の熱さで飲んでください。胃腸が温まり、新陳代謝が上がると、冷え症の改善が期待できます。薬を飲まない人も、朝に白湯を飲むのはお勧めです。
食べ合わせや飲み合わせのほかにも、食事で影響を受ける薬があります。下にまとめたので、ご参照ください。
せっかく服用しているのに、薬の効果が十分に発揮されないのは、とても残念なことです。思い当たるかたは、ぜひ見直しましょう。
食事で影響を受ける薬の例
●アジスロマイシン(抗生物質)
胃の中に食べ物があると、薬の効果が強く出る。副作用が起こらないように空腹時に服用する。
●イトラコナゾール(抗真菌薬)
●イコサペント酸エチル(脂質異常治療薬)
空腹時の服用は効果が落ちる。食直後に服用する。
●スボレキサント(睡眠導入剤)
●ラメルテオン(睡眠導入剤)
食事の影響で効果が弱くなる。夕食後2時間以上空けて、寝る前に服用する。夜食は食べない。

この記事は『壮快』2022年7月号に掲載されています。
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