解説者のプロフィール

小栗章弘(おぐり・あきひろ)
おぐりクリニック院長。日本眼科学会認定眼科専門医。1991年、岐阜大学医学部を卒業後、岐阜大学医学部附属病院、清水厚生病院、医療法人白鳳会鷲見病院に勤務。99年、アメリカに渡り、緑内障の研究に携わる。2004年、滋賀県長浜市にて、おぐり眼科クリニック(現おぐりクリニック)を開院し、15年に愛知県名古屋市でおぐり近視眼科・内科クリニック(現栄眼科クリニック)を開院。幅広い目の疾患の診療にあたっている。
代謝や血流が滞ると眼病が起こりやすくなる
私たちの体は生きていくために、細胞が一定の周期で生まれ変わっています。これは「代謝」といって、心臓などの臓器や、目などの器官でも行われるものです。代謝が正常であってこそ体は健康を維持できます。
代謝が行われるうえで重要なのが、血液です。血液が細胞に酸素や栄養を届けることで、正常に代謝が行われるからです。また、細胞から二酸化炭素や老廃物を回収するのも、血液の役目です。
しかし残念なことに、年齢を重ねるにつれて代謝能力は低下します。20歳のときにはなかったシミが50歳で現れるというのも、代謝能力が低下して、体内の不要なものを処理しきれなくなる結果です。
さらに体内の活性酸素も、加齢とともに増加します。活性酸素が増加すると、血液がいわゆるドロドロ状態になって流れが悪くなります。血管のしなやかさも失われて動脈硬化を起こし、全身の血流が滞ります。
こうしたことは、目でも起こります。
目には、多くの毛細血管が走っています。この毛細血管が詰まって目への血流量が減ると、目に酸素や栄養が十分に供給されなくなります。老廃物も十分回収されなくなり、視神経や網膜はもろくなります。その結果、眼病が起こりやすくなるのです。
ですから、血液の働きと代謝が円滑であってこそ、目の健康は保たれるといえます。
歩いてちょっと疲れたら鼻からゆっくり深呼吸
全身の代謝を改善させるための手段としてお勧めしたいのが、歩くことです。さらに深呼吸をすると、活性酸素の悪い影響が軽減されやすくなります。
実は活性酸素には、「善玉」と「悪玉」があります。先述のような体に悪影響を与えるのが悪玉で、善玉の活性酸素は体を守るのに役立ちます。深呼吸には、その悪玉を減らして善玉を増やす作用があるのです。
そこでぜひ実践していただきたいのが、下記で紹介している「深呼吸ウォーキング」です。緑内障をはじめ、白内障、飛蚊症、老眼、近視、黄斑変性、疲れ目、ドライアイなどでお悩みのかたにお勧めです。続けているうちに、見え方が変わってくることでしょう。
深呼吸ウォーキングは歩きやすい靴さえあれば、いつでもどこでもできます。1時間くらい歩くのが理想ですが、ふだん全く運動をしていない人は30分くらいから始めて、少しずつ距離を延ばしていくといいでしょう。たいせつなのは継続です。
歩くときのスピードは、少し息が弾む程度、歩きながら会話できるくらいがちょうどよい速さです。
歩いていて、「ちょっと疲れたな」と感じたら立ち止まって、深呼吸をしましょう。体が少し疲労したほうが、肺が開いて、呼吸が深く入りやすくなります。
深呼吸をする際には、へそから指3、4本下がったところにある丹田というツボに意識を集中します。丹田は、人間の体の中心で、エネルギーを取り込むところです。
丹田に両手のひらを軽く当てて、左右の肩甲骨の真ん中辺りに息を吸い込んで肺をふくらますイメージで鼻から深く吸います。そして、鼻からゆっくりと吐きます。
歩くときも、丹田を意識しましょう。足先だけ動かして歩いても、大きな効果は得られません。むしろひざや腰を悪くしてしまいます。丹田から足を引き上げる気持ちで足を持ち上げると気持ちよく歩けます。
加えて、木々の緑や数メートル先の人や物に目を向けることもポイントです。こうすると自然と頭が上を向き、うつむき姿勢が解消されます。うつむき姿勢は、眼圧を上げる要因にもなるので要注意です。
現代人の多くが、テレビやスマホの見過ぎで、目のピントを調節する筋肉がこり固まっています。深呼吸ウォーキングをすると、その筋肉もほぐれます。
血流改善に運動がいいというと、激しい運動をする人がよくいますが、それは逆効果になりかねません。若いうちはいいですが、50代を過ぎたら、軽く汗をかく散歩程度に留めたほうが無難です。
深呼吸ウォーキングは誰でもできる運動です。血管を若返らせて、目と体の健康を維持するのに役立ちます。深呼吸ウォーキングを、ぜひ毎日の習慣にしてください。
深呼吸ウォーキングのやり方

息が弾む程度のスピードで30分程度歩く。疲れたと感じたら立ち止まり、鼻から深く息を吸って、鼻からゆっくり吐く。
◎丹田(へその下)を意識して、ひざを持ち上げる
◎顔を上げて木々の緑や、数メートル先の人や物に目を向ける
※転倒に注意する。
※慣れてきたら歩く距離や時間を増やす。
※激しい運動はNG。

この記事は『壮快』2022年7月号に掲載されています。
www.makino-g.jp