緑内障は、視神経がなんらかの原因で障害され、視野が欠損する病気です。白内障は、水晶体が加齢によって濁る病気です。そして加齢黄斑変性は、網膜の中心部分にある黄斑部が加齢によって変性し、視力の低下などが引き起こされる病気です。それぞれの症状や治療法、セルフケアについても解説しましょう。【解説】永井紀博(聖路加国際病院眼科医長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

永井紀博(ながい・のりひろ)

聖路加国際病院眼科医長。日本眼科学会眼科専門医、PDT認定、臨床研修指導医、医学博士。1998年、慶應義塾大学医学部卒業。済生会神奈川県病院、けいゆう病院、慶應義塾大学医学部眼科学教室専任講師、永寿総合病院眼科部長などを経て、2021年より現職。長年にわたり、網膜疾患の臨床と臨床研究、基礎研究を行い、研究の成果を診断や治療に活用している。

緑内障は早期発見が重要毎年1回は検診を!

中高年以降、加齢とともに増える目の重大な疾患として、緑内障、白内障、加齢黄斑変性といった病気を挙げることができるでしょう。ここでは、これら3つの重要な目の疾患について解説しましょう。

画像: 目の構造

目の構造

緑内障

【どんな病気か】

網膜が受け取った情報を脳へと伝える視神経がなんらかの原因で障害され、視野が欠損する病気です。40歳を過ぎると、20人に1人くらいの罹患率となり珍しい病気ではありません。

主に、目を潤す房水の排水路が狭くなって眼圧が上がるタイプと、排水に問題がないにもかかわらず、眼圧が上昇し発症するタイプがあります。後者のなかには眼圧が正常範囲なのに、視神経が障害される正常眼圧緑内障があり、このタイプが日本人の緑内障の約7割を占めます。

【症状・治療のタイミング】

進行すると、「視野が欠ける」「視力が下がる」といった症状が起こりますが、かなり進行するまで、自覚症状がほとんどないため、気づいたときにはかなり悪くなっているというケースが少なくありません。

いったん障害された視神経や、欠損した視野は元に戻すことができません。だからこそ早期発見、早期治療が重要です。

40歳以上になったら、1年に1回は検診を受け、緑内障が始まっていないかどうか、毎年確認をすることをお勧めします。

【治療法】

今のところ、治療法はなく、病状の進行を遅らせることしかできません。眼圧を下げる点眼薬を毎日さす習慣をつけ、神経の圧迫をできるだけ回避して、視神経を守ることを心がけましょう。

点眼薬を使っても、眼圧が思うように下がらない場合、眼圧を下げる手術を行うケースがあります。手術をしても、障害された視神経や視野欠損が回復できるわけではないので、やはり早期発見が重要です。

【セルフケア】

緑内障は、加齢や強度の近視など、多くの要因が関連して起こります。遺伝的素因も関連しますので、親族に緑内障の患者さんがいる場合、より気をつける必要があります。

血流が悪くなると、目にも悪い影響が及びます。生活習慣病の予防や改善のためには、バランスのよい食事や適度な運動などが勧められます。

マス目シートを使い見え方を確認しておこう

白内障

【どんな病気か】

レンズの役割を果たしている水晶体が、加齢によって濁る病気です。多くは50歳くらいから始まり、年齢を重ねるほど、発症しやすくなります。

【症状・治療のタイミング】

初期症状としては、「暗いところで、見づらい」「ライトの光がまぶしい」といった症状から始まり、進行すると、「視力が下がる」「全体的にぼんやり見える」などの症状が起こってきます。

視力が下がったり、目がかすんだりすることがあっても、あまり不便を感じていないなら、経過観察でよいでしょう。日常生活で強く不便を感じようになった場合、手術を選択することになります。

【治療法】

白内障は手術が有効です。内容としては、濁った水晶体を人工のレンズを入れ換えるものです。手術の安全性は高く、日帰りできるうえ、今までの不便な状態が解消されます。

【セルフケア】

紫外線が白内障の症状を進行させるとされています。このため、外出時に「サングラスをする」、「日傘を使う」などの対策が予防となります。

また、糖尿病が悪化した結果、糖尿病による白内障が起こることがあります。その場合は、血糖値を下げるために、生活習慣の改善が必須となります。

加齢黄斑変性

【どんな病気か】

眼球の奥にある網膜の中心部分にある黄斑部が加齢によって変性し、視力の低下などが引き起こされる病気です。

加齢黄斑変性には、2つのタイプがあります。病気の前駆状態として、眼底にドルーゼンという病変が見られることがあります。それが進行すると、新生血管という異常な血管が生じます。新生血管は出血しやすく、黄斑部に漏れ出したり、腫れたりして、黄斑の機能を低下させます。これが滲出型です。

もう1つの萎縮型は、黄斑の組織が萎縮します。割合としては日本人の場合、滲出型が多い傾向にあります。

【症状・治療のタイミング】

「物がゆがんで見える」「視界の中心が見えにくい」といった症状から始まり、進行すると、視力の低下も起こります。

下項にあるマス目シートを使ったテストを行うことで、自分で加齢黄斑変性に気づくことが可能です。怪しいなと思ったら、すぐに病院で診察を受けてください。

【治療法】

滲出型では、新生血管が広がるのを抑制するために、抗VEGF注射を行います。萎縮型には、今のところ、はっきりした治療法はありません。

【セルフケア】

食事について下項で紹介しているので、ご参照ください。喫煙しているかたは、禁煙を強く推奨します。直射日光を避け、サングラスや日傘などで目を守ることも有効です。

これらの病気は、高齢になると、誰がかかってもおかしくない病気です。いずれの病気も、早期発見・早期治療が大事。併せて、自分の生活習慣を見直していきましょう。

マス目シートの使い方

下のマス目シートをプリント(120×120mm)して、目と同じ高さの壁などに貼る。
マス目シートから30cm離れたところに立つ。手で片目を覆い、必ず片方ずつチェックする。
マス目を見るときの目線は中央の●印。周りのマス目がどう見えるかを確認する。

画像1: マス目シートの使い方

※マス目がゆがんでいたり、欠けていたりしたら、その場所を記録し、眼科受診時に伝える。
※予防の意味でチェックする場合、月に1回、同じ日に同じ場所で行う。
※就寝前に暗い寝室で行うことは避ける。

画像2: マス目シートの使い方

緑内障の見え方
マス目の一部が欠けたり、ぼやけたりして見える。

画像3: マス目シートの使い方

黄斑変性の見え方
初期段階では、マス目の線がゆがんで見える。症状が進行すると、ゆがみが大きくなり、欠けている部分や見えにくくなる部分が出てくる。

画像4: マス目シートの使い方

ルテインの摂取で黄斑変性の進行が抑制

黄斑とは、目に入ってきた光が像を結ぶ網膜の中心部にある組織です。この黄斑が、加齢や生活習慣の影響を受けて変性し、物が見えにくくなる疾患が、「加齢黄斑変性」です。

昔の日本では、この病気にかかる人は現在よりも低い割合でした。しかし、そんな日本でも、食が欧米化されるとともに加齢黄斑変性にかかる人が非常に増えてきました。そういった背景を考慮すると、生活習慣病の1つといってもいいでしょう。

逆にいえば、生活習慣病だからこそ、食を変えることで、加齢黄斑変性にいい影響を及ぼすことができます。

では具体的に、どんな物を食べればよいでしょうか。まず、2001年、アメリカで行われた大規模臨床試験・AREDSについて触れておきましょう。

この研究では、抗酸化ビタミン(ビタミンCやE)、βカロチン、亜鉛などのサプリメントを取り上げ、それが加齢黄斑変性の進行を抑えられるかどうかを調べました。

片方の目が加齢黄斑変性になると、もう一方の目のリスクも高まります。

のちのち加齢黄斑変性を発症する前触れともいえる病変をドルーゼンといいます。このドルーゼンが片方の目にあると、5年以内にもう一方の目に発症する確率が18%とされています。また、片方の目がすでに加齢黄斑変性になってしまっていると、もう一方の目には、43%の確率で発症します。

このドルーゼンが片方の目に確認できた人たちに、上記の配合のサプリメントを飲んでもらったところ、残りの目に発症する確率が25%も抑えられたのです。病気によって視力が低下する率も低くなりました。

ただし、その後の調査で、βカロチンのとり過ぎは肺がんのリスクを高めるという報告があったため、それに替わるものが検討されるようになりました。そこで注目されるようになったのが、ルテインゼアキサンチンという成分です。

これら2つの成分を含んだサプリの効果が調べられたのが、2013年に実施されたAREDS Ⅱでした。この調査の結果、これらのサプリが加齢黄斑変性の進行を抑制することが確かめられました。同時に、βカロチンの過剰摂取による肺がんリスクも抑えられたのです。

ちなみに、この研究でサプリの効果があった人を調べると、そもそも食事でルテインをとっていなかったことが判明しています。こうした結果から、ふだんからルテインをとることが重要だとわかってきました。

ルテインをとるほど目の黄斑色素密度が向上

ルテインは、もともと目の水晶体や黄斑部に多く含まれている黄斑色素で、2つの重要な作用があります。

1つが青色光の吸収作用です。網膜を障害しやすい青色光をブロックすることで、黄斑を保護します。

もう1つが抗酸化作用です。光を受け止めることで黄斑部に生じる酸化ストレスを消去し、目を守ります。

つけ加えると、そもそもルテインは、体内で合成できない成分です。ですから食事で摂取するほかありません。ルテインを含む食材としては、ケールホウレンソウなどがあります。ルテインを含む食材をとると、それが腸から吸収され、血液に乗って運ばれ、目に届けられると考えられます。

画像: ホウレンソウはルテインが豊富

ホウレンソウはルテインが豊富

黄斑色素の密度を測ってみると、加齢黄斑変性の人は、健康な目の人より黄斑色素の密度が下がってしまっています。そして、ルテインをたくさんとっている人ほど、目の黄斑色素の密度が上がってくるのです。

以上のようなデータを踏まえて、私たちは、ルテインを多く含有している寒締めホウレンソウ(通常の3倍の含有量)を使って臨床研究を行いました。

21~45歳の健康な、非喫煙者11名に協力いただいて、75gの冷凍ホウレンソウ(ルテイン10mg含有)を、2ヵ月にわたって、毎日食べてもらいました。

その結果、血液中のルテイン含有量は、実験開始前が、0.23μg/mlであったのに対して、1ヵ月後には、0.29μg/mlに上昇。2ヵ月後も同じレベルで維持できており、有意差をもって、血中のルテイン量が増えていることがわかりました。

さらに、そのルテインが目に影響を与えていることも確認できました。目におけるルテインなどの黄斑色素密度は、実験開始前0.47だったものが、1ヵ月後0.53、2ヵ月後には0.54まで上昇していたのです。

つまり、サプリメントのかわりに食品からルテインを摂取することで、黄斑部の黄斑色素の含有率を上昇させることが明らかになったのです。

加齢黄斑変性を発症していない人や、加齢黄斑変性になる前段階のドルーゼンが見つかってもまだ小さめの人は、食事に気を遣うことが肝心です。ホウレンソウなどを積極的に摂取すれば、予防に役立てることができるでしょう。

ちなみに、いわゆる地中海食を実践することで、加齢黄斑変性の進行を抑制する効果があるという研究もあります。

ただし、この研究によれば、地中海食でよく使われるオリーブオイルや魚を単品でたくさんとったり、赤ワインをがぶ飲みしたりしても、効果的ではないとされています。

バランスよく、有効な栄養を摂取することが加齢黄斑変性を防ぐ基本といえます。先述の実験で使用した、寒締めホウレンソウなどもお勧めです。

画像: この記事は『壮快』2022年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年7月号に掲載されています。

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