つま先立ち、そしてつま先歩きを行うことで各所の筋肉群が強化され、正しい姿勢でしっかりと立つことができるようになります。そのことが、腰痛やひざ痛といった、年齢とともに増えるさまざまな体の痛みの予防や、転倒の予防にもなり、いつまでも自分の足で歩くための体づくりにつながると考えられます。【解説】足立清香(はくほう会セントラル病院リハビリテーション科医師)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

足立清香(あだち・さやか)

リハビリテーション専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、宝塚音楽学校外部講師。2010年、鳥取大学医学部医学科を卒業。14年、兵庫医科大学病院リハビリテーション外来医長。16年、リハビリテーション専門医資格を取得。同年よりはくほう会セントラル病院リハビリテーション科に勤務。そのかたわら、バレエダンサー向けの解剖学講座の講師、バレエダンサーの帯同医師を務めるほか、医学書の執筆なども行う。

ふくらはぎや太ももが鍛えられ運動能力が向上

私がバレエを習い始めたのは5歳のとき。以来バレリーナになることを目指し、練習に打ち込んできました。しかし10代の半ばごろから、ケガに苦しむようになり、バレリーナになる夢は断念せざるを得ませんでした。

この経験から、「ケガに悩むかたを助けられるようになりたい」と考えた私は、医師としての道を選びました。現在は病院のリハビリテーション科に勤務するかたわら、スポーツドクターとしてバレリーナの悩みにこたえたり、宝塚歌劇団において、体づくりのサポートをしたりといった活動も行っています。

今回のテーマは「つま先歩き」。バレエでもごく近い動きをすることから、私は身をもって、つま先歩きによってどの筋肉が使われ、鍛えられるかを知っています。

つま先歩きは「つま先立ちになる」「その態勢で歩く」という2つの行動が組み合わさった動きです。これらにより得られる効果について、解説しましょう。

筋力アップ

つま先で立つと、ふくらはぎを構成する下腿三頭筋(ヒラメ筋と腓腹筋)が収縮し、それらを鍛えることができます。

ふくらはぎは、全身に血液を巡らせるポンプの役割も果たしており、「第2の心臓」とも呼ばれています。そのためふくらはぎの筋肉を鍛えれば、全身の血流の改善にも役立ちます。

画像: ふくらはぎや太ももが鍛えられ運動能力が向上

また、つま先だけで立つということは、足裏の地面に接する面が小さくなるということを意味します。足もとが不安定になるので、体はユラユラと前後左右に動きます。体は、そのつど倒れないように重心を動かし、バランスを取り続けます。

このとき、さまざまな筋肉が使われます。太ももの筋肉である大腿四頭筋やハムストリングス、背中の筋肉である脊柱起立筋などがその代表です。

また、つま先立ちの状態で、さらに「歩く」という動作を加えると、立つだけのときとは違う筋肉が使われます。例えば、お尻の筋肉である大殿筋、足を前に運ぶインナーマッスルである大腰筋などです。

こうしてさまざまな筋肉が鍛えられれば、当然運動能力の維持や向上が期待できます。

転倒の予防効果

高齢になると、筋力とともに、バランス感覚も低下します。そのためちょっとつまずいただけで、転倒につながります。骨折し動けなくなれば、それが寝たきりや、フレイル(心身の虚弱した状態)、認知症の発症のきっかけになる恐れがあります。

このため、できる限り転ぶことは避けたいのです。①で述べたように、つま先だちやつま先歩きは、筋力を強化するとともに、体幹を鍛え、バランスを取る訓練にもなるので、転倒予防につながります。

美脚効果

つま先立ちでふくらはぎの筋肉の収縮がくり返されると、筋肉内の血流が促され、リンパの流れもよくなります。これによって、足のだるさやむくみが解消します。その結果として、足がスッキリ見えるといった効果も期待できます。

また、かかとをできる限り高く引き上げると、腓腹筋が鍛えられ、その対比で足首がキュッと細く見えます。

そのため、見た目の美しさをたいせつにするモデルのかたや、舞台に立つかたが、つま先歩きなどで腓腹筋を鍛えることも多いのです。

さらには、つま先立ちをする際、足の親指(母趾)に力を入れて立つと、太ももの内側の筋肉に働きかけることができます。それにより、太ももの内側がスッキリ見えたり、О脚の予防になったりします。

これは特に、足を美しく見せたいバレエダンサーが日ごろから意識することでもあります。

いつまでも自分の足で歩くための体づくりに!

こうして、つま先立ち、そしてつま先歩きを行うことで各所の筋肉群が強化され、正しい姿勢でしっかりと立つことができるようになります。

そのことが、腰痛やひざ痛といった、年齢とともに増えるさまざまな体の痛みの予防や、転倒の予防にもなり、いつまでも自分の足で歩くための体づくりにつながると考えられます。

ちなみに、体を動かすために使われる骨、関節、筋肉などの部位をまとめて、医学用語で「運動器」といいます。

この運動器に障害が起こり、運動機能が低下した状態を「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と呼びます。ロコモが進行すると、これまでお話ししてきたとおり、介護が必要となるリスクが飛躍的に高まることがわかっています。

厚生労働省も、ロコモ予防の資料で、運動器をしっかり鍛えることを推奨しています。

それを受けて、日本整形外科学会もロコモ予防の運動(ロコトレ)を提案していますが、そのために勧めている運動として、まず片足立ちスクワットが挙げられます。そして次に推奨される運動として、かかとの上げ下げが示されているのです。

かかとの上げ下げは、ふくらはぎの強化という意味で、まさにつま先立ち、つま先歩きと類似する運動です。

この点からも、つま先歩きはロコモ予防に勧められるといえるでしょう。

どこかにつかまったり手を添えたりして行う

つま先歩きのやり方は、下項をご覧ください。

初めは、正しい姿勢を取ったあと、かかとをゆっくり上げ下げする運動(下項のSTEP①、②)を1日10回ほど行います。

これが問題なくできるかたは、STEP③のつま先歩きに進みましょう。継続して行えば、筋力アップに役立ちます。

やり方は、このようにごく簡単ですが、注意点があります。

それは、つま先立ちも、つま先歩きも、高齢のかたは必ず「どこかにつかまったり、手を添えたりしながら」行ってほしいということです。

これらの動きは、しばしば「ながら運動」として勧められることがありますが、それは若く、足腰のしっかりしたかたに向けた話。足腰が弱っている高齢者にとっては、転倒リスクが高まるため、注意が必要です。

ふらつきやすいかたは、歯磨きをしながら、掃除機をかけながらなど、なにかをしながらつま先歩きを行うのは控えましょう。

特に掃除機など動く物を持っているときは危険です。つま先歩きは、自分の体力や筋力のレベルに合わせ、無理のない範囲で行ってください。

例えば86歳になる私の祖母は、加齢で足腰が弱ってきています。そこでイスに座ったままかかとを上げ下げする運動をしています。これでも十分筋力アップにつながります。

私自身は、最近子育てと仕事で忙しくしており、まとまった運動の時間が取れません。そのため、台所のシンクにもたれながらつま先立ちをしたり、電子レンジの加熱中に、数歩歩いたりして取り入れています。

つま先歩きは根気よく続けていくことで効果を発揮します。ぜひ、無理をすることなく、継続して行ってください。

つま先歩きの基本的なやり方

STEP1
基本の姿勢

はだしになり、両足を肩幅に開き、足をまっすぐ前に向けた状態で立つ。

画像1: つま先歩きの基本的なやり方

STEP2
つま先で立つ

机や壁につかまり、かかとをゆっくり引き上げ、ゆっくり下ろす。これを10回くり返す。

・高齢のかたは、かかとを2〜3cm程度上げればOK!
・運動能力に問題がなく、美脚を目指すかたは、かかとを高く上げると効果が増す。

画像2: つま先歩きの基本的なやり方

STEP3
つま先で歩く

壁などに手を添えながら、②のようにつま先立ちをし、そのまま足の5趾でしっかり床をつかむイメージで数歩歩く。1日何回行ってもよい。

・廊下の壁などに手を添えながら行うとよい。
動く物(掃除機やモップなど)を持って行うと危険なので控える

画像3: つま先歩きの基本的なやり方
画像: この記事は『壮快』2022年7月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年7月号に掲載されています。

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