体のどこかに痛みがあるときには、別の場所に筋肉や腱の癒着が生じています。脊柱管狭窄症と診断されていても、明らかなマヒがなく、「お尻から足にかけて痛みやしびれがある、歩くとしびれる」といった症状が中心なら、まずは「筋肉はがし」を試してみてください。重要なのは「もむ」のではなく、「はがす」ことです。【解説】平野薫(Dr.平野薫自由診療クリニック院長)

解説者のプロフィール

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平野薫(ひらの・かおる)

Dr.平野薫自由診療クリニック院長。日本整形外科学会認定専門医。日本整形外科学会認定スポーツ医。天城流湯治法師範。天城流医学会理事。九州大学医学部卒業。ひらの整形外科クリニック前院長。(株)ホリスティックメディカル研究所Auwa(アウワ)代表取締役。
▼Dr.平野薫自由診療クリニック

[別記事:病気の原因から手術の相談まで脊柱管狭窄症がよくわかるQ&A→

お尻から足にかけての痛み、しびれに有効

整形外科医として診療に当たる中、近年は「脊柱管狭窄症」と診断された患者さんが際立って増えています。

一般的に脊柱管狭窄症は、背骨の中を通る神経の空間(脊柱管)が狭くなって神経が圧迫されて、痛みやしびれといった症状が起こるとされています。しかし私の考えは違っていて、9割以上の症状の原因は神経の圧迫ではないと考えています。

私がそのような考えに至った理由を解説しましょう。以前は、私も投薬や神経ブロック注射といった一般的な薬物療法を行い、それでも改善しない場合は狭窄した脊柱管を広げる手術を行っていました。

しかし、こうした治療で改善しなかったり、やがて再発したりする患者さんが一定数いたのです。「脊柱管の狭窄が原因で、それを治療したのに、なぜよくならないのか?」と疑問に思っていました。

そんな疑問を、健康アドバイザーである杉本錬堂先生(一般社団法人天城流湯治法協会代表)が考案した独自のメソッド「天城流医学(天城流湯治法)」が解消してくれました。

出合ったのは、6年前のことです。初めて参加したワークショップは衝撃的でした。杉本先生が参加者の顔や体を見るだけで、どこに問題があるかを判断し、その上で手技を行うと、すぐに痛みが解消するではありませんか。

聞くと、天城流医学は体の各部の痛みの原因を「展張痛(てんちょうつう)」だと考えていました。この展張痛について解説します。

まず、体のどこかに痛みがあるときには、痛みがある部位とは別の場所に筋肉や腱(筋肉と骨をつなぐ結合組織)の癒着が生じています。それによって、腱、筋肉、骨が引っ張られて、痛みが引き起こされるのです。これが、展張痛です。

ちなみに、萎縮のほとんどは体内の血液やリンパ液(体内の老廃物や毒素、余分な水分を運び出す体液)の滞りで生じると考えられます。

したがって、痛んでいる部位ではなく、その原因となる滞りのある部位、つまり、筋肉や腱が骨とくっついているところにアプローチします。

腰から足にかけての痛みは、お尻からつながっている太ももの裏側と足の外側(足の小指側)、足の指の筋肉や腱を、癒着している骨からはがしていくことで解消できるとしています。

以来、私は天城流医学の手法を治療に取り入れるようになりました。すると、脊柱管狭窄症の患者さんが次々と治癒していったのです。

脊柱管狭窄症と診断されていても、明らかなマヒがなく、「お尻から足にかけて痛みやしびれがある、歩くとしびれる」といった症状が中心なら、まずは「筋肉はがし(やり方は下項参照)」を試してみてください。天城流医学の手法を自分で簡単にできるようにアレンジしたものです。

もむのではなく「はがす」ことが大切

重要なのは「もむ」のではなく、「はがす」ことです。ただ指先で押し込む(もむ)のではなくて、骨と筋肉の境目をしっかりと意識して、ていねいにはがしていきましょう。

癒着がある箇所をはがすときには、痛みを伴うことがあります。しかし、癒着が解消するにつれて、痛みも軽くなっていきます。

一連の手法の中から代表的な手法を3つ、ご紹介します。

足の裏のしびれ

【ふくらはぎはがし】
特に、足の裏のしびれの解消に有効です。血行の悪さがしびれにつながるため、足の裏と直結しているふくらはぎの筋肉をはがすことが大切になります。

ふくらはぎ、太ももの裏の痛み、しびれ

【くるぶしはがし】
太ももやふくらはぎの裏の痛み、しびれや、ピリピリする「座骨神経痛」には、内くるぶしと外くるぶしの筋肉と腱をはがすのが効果的です。

内くるぶしの下には後脛骨筋腱、長母趾屈筋腱、長趾屈筋腱という3本の腱があり、外くるぶしの下には短腓骨筋腱、長腓骨筋腱という2本の腱があります。これらをはがすと、太ももやふくらはぎの痛みが速やかに取れます。

排尿障害(頻尿・尿もれ・残尿感など)

【恥骨はがし】
脊柱管狭窄症が重症化すると神経マヒによる排尿や排便の障害が起こることがあります。こうした場合、整形外科では手術を検討するのが一般的です。

しかし、実際には神経マヒであることは少なく、恥骨や腸骨など骨盤の骨のはりつきにより、排泄に関わる筋肉がうまく働かないために起こっていることが多いのです。おなかの力を抜き、恥骨周辺の筋肉をはがすことが、排尿・排便の症状改善に大いに役立ちます。

筋肉はがしは1日数回、行うように心がけてください。

筋肉はがしのやり方

気になる症状のものだけでも構いません。手が空いた時に行うようにしましょう。

ふくらはぎはがし

足の裏のしびれに
片方の足のふくらはぎの内側最上部(脛骨と腓腹筋の境目の一番上)に両手の親指の爪先を当てる。
両手を胴体側に回転させて押しはがす。親指をすねの骨の後ろに回し込んではがすイメージで行う。1cmずつ内くるぶし寄りにスライドさせてくり返す。

画像1: ふくらはぎはがし

内くるぶしまではがせたら、反対の足でも同様に行う。
※いすか床に座って行う。

画像2: ふくらはぎはがし

くるぶしはがし

ふくらはぎ、太ももの裏の痛み、しびれに
まず、片方の足の内くるぶしの下に、足と反対側の手の親指の爪先を当てる。そこにある3本の腱をかかと方向に向かって爪の先ではがす。1cmずつ土踏まず側にスライドさせて、第1指の根元側面までくり返す。反対の足でも同様に行う。

画像1: くるぶしはがし

次に外くるぶしの下に足と同じ側の手の親指の爪先を当てる。①と同様にして、くるぶしの下の少しへこんだ溝にある2本の腱をかかと方向に向かって爪先ではがす。反対の足でも同様に行う。

画像2: くるぶしはがし

恥骨はがし

排尿障害に
あおむけに寝て、左右片側の腸骨の上部の出っ張り(上前腸骨棘)に両手の人さし指~小指まで4本の指の爪先を当てる。内側に向かって深いところまで押し込んで筋肉をはがす。

手の位置を少しずつスライドさせながら、腸骨の上部から下部、恥骨に向かって同様にはがしていく。反対側でも同様に行う。

恥骨結合という縦方向の骨の隙間に指を当てて、左右にスペースを作るイメージで分けるように刺激する。

画像1: 恥骨はがし
画像2: 恥骨はがし
画像: この記事は『安心』2022年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年6月号に掲載されています。

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