私は、おいしくて続けやすい減塩食として「乳和食」をお勧めしています。みそやしょうゆなどの塩分が多い調味料を減らす分、牛乳をプラスして作る和食のことで、乳脂肪によるコクと、乳糖による自然な甘味、うま味のもととなるアミノ酸で減塩食のもの足りなさを補うのです。この乳和食を、手軽に取り入れるのにうってつけなのが「ミルクだし」です。【解説】市原淳弘(東京女子医科大学高血圧・内分泌内科教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

市原淳弘(いちはら・あつひろ)

東京女子医科大学高血圧・内分泌内科教授。1986年、慶應義塾大学医学部卒業。米国Tulane大学医学部客員講師、慶應義塾大学医学部抗加齢内分泌学講座准教授などを経て現職。日本高血圧学会高血圧専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医であり、日本高血圧学会理事なども務める。年間7500名の高血圧患者を診療し、全国各地から血圧の高い医師らも駆け込む「医者も信頼する血圧専門医」として絶大な信頼を得ている。『ビジュアル解説でわかる! 薬に頼らず7日で血管を変えて血圧は下げられる』(KADOKAWA)など著書・監修書多数。

血圧降下や骨粗鬆症の予防・改善に役立つ

島国で生まれ育った私たち日本人は、塩気の強い食事に長年慣れ親しんできました。そのため、塩気の薄い食事は「おいしくない」と捉えがちです。

減塩食は健康によいと頭ではわかっていても、おいしくなければ続けるのは困難でしょう。そこで私は、おいしくて続けやすい減塩食として「乳和食」をお勧めしています。

乳和食とは、みそやしょうゆなどの塩分が多い調味料を減らす分、牛乳をプラスして作る和食のことです。

牛乳には、乳脂肪によるコクと、乳糖による自然な甘味、うま味のもととなるアミノ酸が含まれています。塩分の少なさからくる味のもの足りなさを、牛乳のコクや甘み、うま味で補うのが乳和食です。

一般的に、みそ汁や煮物などの和食は塩分過多になりがちです。しかし、使う調味料を減らし、ほんの少しの牛乳を足すだけで、和食のおいしさや見た目はそのままで、塩分の総量を減らせます。

さらに乳和食には、他の減塩食とは異なる利点もあります。

とり過ぎた塩分を排出する

乳和食に使う牛乳には、体内の不要な塩分(ナトリウム)を排泄する働きがあります。つまり、乳和食は摂取する塩分の量を減らせるだけでなく、とり過ぎた塩分の排泄も期待できるというわけです。

血圧を下げる

牛乳は、カルシウムやカリウムなどのミネラルが豊富な食材です。中でもカリウムは、腎臓へ働きかけて、ナトリウムの尿中への排泄を促す効果を持っています。さらに、カリウムの一部には血管を拡張して血圧を下げる働きがあるといわれています。

骨粗鬆症を予防する

牛乳に含まれるカルシウムは、高齢者や閉経後の女性に多い骨粗鬆症(骨の量が減り、骨折しやすくなる病気)の予防・改善に役立ちます。また、減塩することで尿中のカルシウム排泄量が減り、骨密度の維持につながるという研究報告もあります。

その他にも、日常的に牛乳を摂取している人は、メタボリックシンドロームや循環器系疾患のリスクが少ないといわれています。さらに、適度な牛乳の摂取は、インスリンの働きを高めて血糖値を下げることもわかっています。

ただし、牛乳には乳糖が含まれており、とり過ぎは当然、メタボや糖尿病のリスクを上げる可能性があります。使い過ぎにはご注意ください。

減塩中でもラーメンが楽しめる!

この乳和食を、手軽に食習慣として取り入れるのにうってつけなのが、干しシイタケと牛乳で作る「ミルクだし」です(作り方は下項参照)。

このだしの魅力は、何と言ってもそのうま味にあります。前述した牛乳のコクに加え、干しシイタケのうま味がプラスされているため、より高い満足感が得られます。

使い方はさまざまで、和食にはもちろん、洋食や中華にもよく合います。また、だしそのものが風味豊かで十分おいしいので、スープやみそ汁の代わりとしても楽しめます。

例えば「減塩中だけど、どうしてもラーメンを食べたい」というときは、袋ラーメンのスープの半量分をミルクだしに置き換えるのもよいでしょう。もちろん、ミルクだしだけでスープを作っても構いません。

なお、通常の乳和食では普通の牛乳を使いますが、ミルクだしの場合は脂肪分を除去した低脂肪牛乳を使うのがポイントです。脂肪分が少ない一方、カルシウムなどの積極的に摂取したい栄養分は牛乳と同じ量なので、脂質が気になる人も安心して使えます。

ただし、先ほどもお伝えした通り、牛乳のとり過ぎはカロリーオーバーにつながります。低脂肪牛乳だからといって過剰摂取はせず、1日の牛乳摂取目安量の200ml程度でとどめておくとよいでしょう。

なお、腎疾患があるなどでカリウムの摂取が制限されている人は、事前に医師と相談してから、ミルクだしを使うようにしてください。

ミルクだしは、減塩を期待する人以外にも、低栄養に陥りがちな高齢者や、骨粗鬆症を予防したい閉経後の女性にお勧めです。作るのが簡単で、加齢とともに減ってしまいがちな栄養を手軽にとれるので、ぜひ活用してほしいと思います。

健康のためであっても、「おいしく・楽しく」でなければ、減塩食は続けられません。その点、ミルクだしは、おいしく・楽しい減塩生活に、きっと役立つはずです。

ただ、ミルクだしをはじめとする乳和食も、毎日ではさすがに飽きてしまいます。減塩生活を継続するためには、今日はミルクだし、明日は酢やかんきつ類の酸味を生かした減塩食、明後日はスパイスの辛味を生かした減塩食……といった具合に、日々の減塩食の1つとして使うとよいでしょう。

「ミルクだし」の作り方

画像: 【乳和食とは】余計な塩分を排出し血圧を下げる!美味しい減塩食「ミルクだし」のレシピ

<レシピ考案>
小山浩子(こやま・ひろこ)
料理研究家、管理栄養士。大手食品メーカー勤務を経て、2003年に独立。料理研究家として料理教室の講師やコーディネーターを務める他、テレビや雑誌などのメディアに数多く出演し、料理や栄養についての解説を行う。これまでに指導した生徒は7万人以上に及ぶ。牛乳を使ったレシピを20年以上研究し、減塩などに役立つ「乳和食」を開発。2015年からは日本高血圧協会理事も務める。著書に『はじめよう乳和食』(日本実業出版社)などがある。

「ミルクだし」とは?

朝の人気情報番組で紹介された、牛乳をだし代わりに使う「乳和食」の調理法の1つ。だしの素材の中でもぬめりや臭みの心配がいらない干しシイタケと合わせることで、よりコクの深いだしが取れます。

ミルクだしの一番のメリットは、カルシウムの吸収率がアップすること。干しシイタケに含まれるビタミンDには、カルシウムの吸収を高める効果があるので、加齢とともに骨がもろくなってきた高齢者にもお勧めです。

また、牛乳に含まれるグルタミン酸と、干しシイタケに含まれるグアニル酸は、うま味成分の中でも最強の組み合わせ。相乗効果でうま味が倍増するため、塩分を含む調味料を使わなくても、十分満足できる味に仕上がります。

ミルクだしのポイント

低脂肪牛乳を使用する。

低脂肪牛乳とは、生乳から乳脂肪分を除去し、乳脂肪分を0.5%以上1.5%以下にしたもののこと。脂肪分以外の成分は牛乳と変わらないのが特徴で、味がなじみやすい。

似た種類として「低脂肪乳」というものがあるが、これは生乳に脱脂粉乳やバターなどの乳製品を加えた「加工乳」のため、間違えて購入しないよう要注意。

なお、成分無調整牛乳は、牛乳以外の素材や水、調整剤、香料などの食品添加物を一切加えていないので、味のバランスがよく、だしとして使用した際によりおいしく仕上がる。こちらを使用してミルクだしを作るのもお勧め。

加熱して使用する際は、フッ素樹脂加工のフライパンを使う。

画像: ミルクだしのポイント

牛乳は、加熱すると膜を張るという性質があるため焦げつきやすい。できればこびりつきにくい、フッ素樹脂加工のフライパンを使うとよい。

ミルクだしは、その日のうちに使い切る。

ミルクだしは、冷蔵庫の状態などによって保存可能な日数が大きく変わるため、作りおきはせず、その日のうちに使い切る。特に夏場は、菌の増殖スピードも高まるため、作ったらなるべく早く料理に使うようにする。

ミルクだしの作り方

画像1: ミルクだしの作り方

材料(作りやすい分量)
・低脂肪牛乳…200ml
・干しシイタケ…中1枚(6g)
・顆粒鶏ガラスープの素…小さじ1/2
※加工乳の「低脂肪乳」ではなく「低脂肪牛乳」を使用する。
※刻み干しシイタケでもよい。
※使う料理によって分量の割合は調整する。

画像2: ミルクだしの作り方

器に低脂肪牛乳を注ぎ、干しシイタケのかさを手でポキポキと折りながら入れる。軸は石づきを取り除いて細かく刻んでから入れる。

画像3: ミルクだしの作り方

①に顆粒鶏ガラスープの素を加え、干しシイタケが完全に戻るまで置いておく。

画像4: ミルクだしの作り方

干しシイタケが戻り切ったら出来上がり。

お勧めのミルクだし活用法

ミルクだしと酢を加えて、みそ汁を作る
酢と牛乳を同時にとることで、カルシウムの吸収率がアップ!作り方も簡単なため、毎日の習慣にもしやすい。

切り干し大根や高野豆腐などの乾物と合わせる
乾物の素材自体に含まれるカルシウムなどの栄養を効率よくとれる。常備菜として、煮物などの副菜にするのが◎。

ミルクだし+めんつゆ
めんつゆの使用量を抑えながら、コク深い味わいに仕上がる最強の組み合わせ! 解凍した冷凍うどんを、温めたミルクだし+めんつゆに入れて月見卵を落とす「ミルクだしの月見うどん」がお勧め。味のアクセントに、白ゴマやラー油をかけて食べれば、減塩しつつ飽きずに食べられる。

温めたミルクだし+豆腐で湯豆腐に
鍋で温めたミルクだしに豆腐を入れ、少量のポン酢しょうゆでいただく湯豆腐も簡単でお勧め。優しい味に胃も心もホッとすること間違いなし!

■レシピ再現・料理/古澤靖子

画像: この記事は『安心』2022年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年6月号に掲載されています。

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