解説者のプロフィール

上月正博(こうづき・まさひろ)
山形県立保健医療大学理事長・学長、東北大学名誉教授。1981年、東北大学医学部卒業。2022年3月まで同大学院医学系研究科機能医科講座内部障害分野教授を務めた後、現職。国際腎臓リハビリテーション学会理事長、日本腎臓リハビリテーション学会前理事長。運動療法を取り入れるなどした「腎臓リハビリテーション」を確立させ、腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させる活動に力を入れている。『血管をよみがえらせる 長生き体操』(マキノ出版)など、著書多数。
塩で血圧が上がらない人でも減塩すべき!
塩分のとり過ぎで高血圧のリスクが高まることは、広く知られています。このメカニズムには腎臓が深く関わっています。
塩の主成分であるナトリウムは、体液のバランスを保ち、筋肉や神経の働きを支えるなど、体内で生命に直結する重要な役目をしています。その役目を果たすには、血中のナトリウム濃度が一定の範囲内に保たれている必要があります。
しかし、体に過剰な塩分が入ると、血中のナトリウム濃度が上がる危険性が出てきます。すると、体は血中の水分を増やしてナトリウムを薄め、正常範囲に保とうとします。
その上でさらに余分な塩分や水分を出そうとするため、それらの排泄を受け持つ腎臓に血液を送ります。その結果、腎臓に負担がかかるとともに、血圧が上がるのです。
こうして高血圧になると、圧がかかった血管壁が傷つき、動脈硬化が進みやすくなります。もともと腎機能が悪化している人や、腎機能の悪化をもたらす糖尿病がある人などでは、余計にそのリスクが高まります。
ただし、現在では、塩分で血圧が上がる「食塩感受性」の人と、塩分では血圧が上がらない「食塩非感受性」の人がいることがわかっています。その割合は、日本ではほぼ半々です。
それなら、「食塩非感受性の人は、塩分を多くとっても大丈夫ではないか」と思われるかもしれませんが、その考え方は危険です。というのは、高血圧を介さなくとも、過剰な塩分は腎臓に負担をかけるからです。
しかも、最近になって食塩そのものが「細胞毒」として作用することもわかってきました。塩分の過剰摂取を続けると、胃がんや食道がんのリスクが高まることが知られています。これは、細胞毒である塩分が、食道壁や胃壁を傷めるためです。
同じことが、血管壁にも起こります。血液中ではナトリウム濃度が薄められるとはいえ、塩分を過剰摂取すると、血管壁はその分、多くの塩分に接することになります。
すると、血管壁が傷つき、動脈硬化を進めてしまうのです。このことは、脳や心臓の重大な病気にもつながりかねません。食塩非感受性の人も、ぜひ減塩を心がけましょう。
ラー油の塩分含有量はゼロ
高血圧や慢性腎臓病の重症化を防ぐための塩分摂取量の基準は、男女とも6g未満です。それに対し、日本人の実際の食塩摂取量は、平均約10gです。
実は、6g未満という数字自体、世界の基準(5g未満)より多い設定です。しかし、高塩分の食事に慣れ親しんできた日本人の現状を考えると、厳し過ぎて減塩に挫折するよりはと、この数字になっているのです。
ですから、平均的な食事をしている人なら少なくとも3割程度、塩分を多くとっている人はそれ以上の減塩を心がける必要があります。
減塩は、工夫次第でおいしく楽しく続けることができます。その一つの方法としてお勧めしたいのが、私自身も実践している「スパイスの活用」です。
スパイスは特別なものではなく、入手しやすいもので構いません。例えば、手軽に使えるラー油やカレー粉。ラー油の塩分含有量はゼロですし、小さな瓶や缶に入った昔ながらのカレー粉なら、塩分はごく微量です。
これらを活用すると、塩やしょうゆ、ドレッシングなどの量を大幅に減らしても、おいしく食べられます。
また、コチュジャン(トウガラシみそ)やテンメンジャン(中華甘みそ)は、100gに7〜8gの塩分を含みますが、一度に使うのはわずかで、しかも味わい深いので、減塩に役立ちます。これらは酢と合わせることで、また違う風味が味わえます。
私は早朝出勤かつ深夜帰宅のため、3食ともに研究室で食事をします。毎食キャベツやモヤシなどの山盛り野菜を電子レンジで加熱したものに、前述のスパイスを気分に合わせてかけます。塩やドレッシングなどがごく少量でもおいしく食べられるのです。
また、たんぱく質をしっかりとるために、木綿豆腐なども毎食とっています。

上月先生が愛食するレンチン野菜のラー油がけ
こういった食事を数年続けているおかげか、血圧はずっと正常で、一時期高くなった血糖値も正常化しました。また、65歳という年齢の割には、白髪も少ない方だと自負しています。
この他、無理なく減塩を継続させるには、次のようなことも役立ちます。
◎献立の一品は普段通りに味付けし、味にメリハリをつける。
◎加工食品を減らす。
◎みそ汁は1日1杯まで。具だくさんにするとなおよい。
◎味付けは1回だけにし、できるだけ最後にするか、食べる前に調味料を付ける。
トウガラシなどのスパイスは、高齢になると増える誤嚥を防ぐのに有効といわれており、その意味でもお勧めです。
ちなみに高齢者は、塩分を1日6g未満にできなくても、軽く減塩しただけで血圧改善などの効果が出やすい傾向があります。少しの心がけからでよいので、ぜひやってみてください。
おいしい減塩に役立つお勧めスパイスベスト3
① ラー油
液体タイプのラー油のほとんどは、ゴマ油やトウガラシなどの香辛料のみで作られているため、塩分が含まれていません。さらに、ピリリとした辛味により、塩分控えめでも満足感を味わえます。
辛いものが好きな人は、辛味が強いものを選んでもよいでしょう。ただし、「食べるラー油」などは食塩が含まれていることがあるため、栄養成分表示を見て買うようにしてください。

② カレー粉
市販のカレールーやカレー風味スパイスは、食塩が使われているものがほとんどです。しかし、小さな瓶や缶に入っている純粋なカレー粉であれば、塩分はごく微量のため、減塩に大いに役立ちます。
ターメリックなどのスパイスの風味が楽しめるので、コク深さを足したいときに使うとよいでしょう。ただし、ラー油と同じく、栄養成分表示を見てから買うことを忘れずに。

③ 酢コチュジャン
韓国料理に多く使われる、コチュジャン(トウガラシみそ)やテンメンジャン(中華甘みそ)は、100g当たり7〜8gの塩分を含んでいます。これら単体の塩分量を見ると多く感じますが、少量でも十分に味が付くので、使用量に気を付ければ減塩に役立てることができます。
お勧めは、これらのみそを酢と合わせること。酢の酸味とコチュジャンの辛味が合わさることで、舌に適度な刺激が与えられて満足感を得られます。なお、これらは上の2つよりも若干癖が強い味なので、食材との相性も考えながら活用するとよいでしょう。

[別記事:ミルクで! みそで! ラー油で! 血液・血管が若返る「おいしい減塩レシピ」→]

この記事は『安心』2022年6月号に掲載されています。
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