解説者のプロフィール

保田真吾(やすだ・しんご)
2001年、京都大学大学院医学研究科修了。医学博士。京都大学大学院医学研究科助教授を務めた後、複数の医療機関の勤務や医長、院長などを経て、19年より現職。22年からは、大阪梅田セルクリニック院長も務める。再生医学の臨床応用については常に模索し、大阪ひざ関節症クリニック開院を機に、実用段階となった再生医療の道を追求することを決意。「和顔愛語 先意承問」の精神で、日々の診療に尽力している。
ひざが痛い人の太ももはこり固まっている!
私は長年にわたり、ひざ痛など、ひざに問題を抱える人たちの治療に取り組んできました。今回は、ラップの芯を利用してできる、ひざ痛のセルフケアをご紹介しましょう。
その前に、まずはひざ痛について解説します。
変形性ひざ関節症をはじめとするひざ痛は、太ももの筋肉や「筋膜」がかかわっています。
筋膜とは、皮膚と筋肉の間にある薄い膜です。全身の筋肉を包んでいて、筋肉の動きに合わせて伸びたり縮んだりします。姿勢を保つ補助をするほか、筋肉がスムーズに動くのを助ける働きがあります。
ひざが痛い人は、階段の上り下りはもちろんのこと、平地を歩くときも、ひざ関節をかばいやすくなります。すると、太もも周りの筋肉に力が入って負担がかかり、筋肉がこり固まります。太ももを酷使している状態になるのです。
筋肉がこって柔軟性を失うと、筋膜に萎縮やよじれが生じて、筋肉や皮膚に筋膜が貼りつく「癒着」が起こります。
こうした太ももの筋肉のコリや筋膜の癒着が悪化すると、痛みが生じるとともに、ひざの曲げ伸ばしに使われる大腿四頭筋などの筋肉の動きが悪くなったり、ひざの可動域が狭くなったりします。その結果、ますますひざが痛くなるという悪循環に陥ります。

太ももの主な筋肉
つまり、ひざの痛みの改善には、股関節付近からひざまで、太もも全体の癒着した筋膜をはがし、筋肉のコリをほぐすことが重要だと考えられます。
加えて筋肉をほぐすことで、血行の改善も期待できます。痛みの原因となる物質が血液とともに流れやすくなり、痛みが緩和するのです。
変形性ひざ関節症なら起床直後に行うのが大事
こうした背景を踏まえ、当クリニックでは、医師と専門トレーナーが連携し、ひざ痛を抱える患者さんに「太ももほぐし」(やり方は下項参照)をお勧めしています。
太ももほぐしは太もも周りの筋膜の癒着をはがし、筋肉のコリをほぐして痛みを取るのが目的です。ラップの芯を利用してもできますし、市販のマッサージ用ローラーを使ってもかまいません。朝昼晩の1日3セット行うのが理想的ですが、少なくとも朝晩の2セットは忘れずに行うようにしてください。
特に変形性ひざ関節症の人は、朝が大事です。起きて活動を始めるときにひざが痛むことが多いのですが、起床直後にベッドやイスに腰かけて太ももほぐしを行えば、一日の動き出しがスムーズになります。
夜は、入浴後の筋肉がやわらかくなっているときがお勧めです。寝る直前の、リラックスした状態で行うのもいいでしょう。
「実践したらすぐに楽になった」という声が多く寄せられていますが、太ももほぐしは1日2〜3回、2週間以上続けると、持続的な効果を得られやすくなります。ぜひ毎日、継続して行ってください。
太ももほぐしは、特にひざの内側の痛みに有効です。
前述の変形性ひざ関節症や膠原病(関節リウマチなど、さまざまな臓器に炎症を起こす病気の総称)、鵞足炎ハムストリング(前項参照)のすねの骨内側に付着する部分に炎症が生じる病気)、膝蓋腱炎(大腿四頭筋とひざの皿の付着部分に痛みが生じる病気)といったひざの痛みに効果が期待できます。
骨や半月板が原因のひざ痛には、すぐには効果が現れないと考えられますが、治療とともに太ももほぐしを併行することで、改善が期待できるでしょう。実践する価値はあると思います。
こうしたひざ痛のほかに、股関節の痛みの軽減も見込めます。ひざの前面の筋肉は、股関節の辺りから伸びているからです。
股関節痛がある人は、大殿筋(お尻の筋肉)をラップの芯やテニスボールなどで同様にほぐすと、さらに効果が期待できるでしょう。
ただし、肉離れなどの筋肉の炎症がある場合は、お勧めできません。悪化するおそれがあるので控えてください。
また、行って強い痛みを感じる場合は中止し、患部を冷やして安静にしてください。
当院では、治療とともに太ももほぐしをはじめとしたリハビリを行うことで、アスリートなど多数の患者さんに成果が見られます。
バレエダンサーのかたがコンクールで2番めの賞を受賞できたり、マラソン選手やテニス選手が復帰できたりした例もあります。
ひざ痛の改善には、正しい病状判断と治療がとてもたいせつです。放っておいたり、誤った方法でケアをしたりすると、治るどころか悪化するおそれがあります。
ですので、ひざに違和感のあるかたは、まずは専門医のいる医療機関を受診することをお勧めします。専門医の診断や意見を確認したうえで、太ももほぐしなどのセルフケアを無理をせずに続けることが、改善への近道といえるでしょう。
太ももほぐしのやり方
※肉離れなど、筋肉に炎症がある人は控える。
※力を入れ過ぎないように注意する。強い痛みを覚えたら、中止する。
※1日3セット、毎日行う。特に変形性ひざ関節症の人は、起床直後に行うとよい。
※慣れてきたら、各時間を2倍、3倍に延ばす(計15分まで)。
※ひざの外側が痛い場合は太ももの外側、ひざの内側が痛い場合は太ももの内側を主にほぐすと、効果的なことが多い。
❶イスなどに浅めに腰かける。太ももの内側、外側を含め、足のつけ根辺りからひざ付近まで、痛む側の太もも全体をラップの芯で軽い力で2分ほぐす。
❷①を行って気持ちいいと感じるところを重点的に3分ほぐす。痛気持ちいい力かげんで行う。

Ⓐ両手でラップの芯の両端を持ち太ももに当てて、筋肉を伸ばすように往復する。
Ⓑ両手のひらでラップの芯を太ももに当てて、コロコロ転がして往復する。
ⒶⒷいずれかの行いやすいほうでほぐす。❶のときはⒶ、❷のときはⒷが行いやすい

この記事は『壮快』2022年6月号に掲載されています。
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