解説者のプロフィール

日笠久美(ひがさ・くみ)
1953年兵庫県生まれ。77年兵庫医科大学卒業。医学博士。兵庫医科大学第一内科助手ののち西武庫病院勤務、兵庫県立尼崎病院東洋医学科(非常勤)、西武庫病院内科部長を経て、2002年4月より河崎医院附属淡路東洋医学研究所所長。日本東洋医学会指導医、日本東洋医学会専門医、日本内科学会認定医。
※キク科の植物にアレルギーがある人はヨモギの使用は控えてください。
〝十の薬に値する〟薬効に優れるドクダミ
ドクダミとヨモギは、いずれも春から初夏にかけて、場所を選ばず繁茂する多年草です。古来、日本では民間薬として、また漢方薬の材料(生薬)としても重宝されてきました。こうした位置づけの物を「和漢薬」といいます。
まずはドクダミから、その薬効を解説しましょう。ドクダミには多くの薬効があり、〝十の薬に値する〟ことから「十薬(じゅうやく)」という生薬名がついたとされます。
なかでも知られている薬効は「清熱・解毒作用」です。清熱とは、体の熱を取ることです。ほてりを鎮め、炎症を抑えます。加えて解毒、つまり体内の毒素や老廃物の排出を促す働きがあります。
この薬効は主に、ドクダミの独特のにおいの元である、デカノイルアセトアルデヒドという精油成分によるものです。強い抗菌作用があり、細菌感染による傷の腫れや炎症を抑えます。おできや湿疹、吹き出物、口内炎、副鼻腔炎、膀胱炎、痔などに効果的です。
乾燥させると、この精油成分が揮発して、においが穏やかになりますが、同時に効果も弱まります。ですから例えば、炎症を起こしているおできには生葉のしぼり汁を患部に塗るほうが乾燥葉の煎じ汁を塗るよりも、即効性が期待できます。
利尿・通便作用にも優れているので、乾燥葉の煎じ汁、いわゆるドクダミ茶の飲用は、便秘にお勧めです。ただ、胃腸の弱い人は、最初は薄めたり、量を調節したりするとよいでしょう。
ちなみに私の医院では、メーカーから仕入れた化粧水を数種類、取り扱っています。ローズの香りなどもあるなかで、ドクダミ化粧水は、ダントツの人気です。農作業で肌が日焼けする女性が多いので、ドクダミの美肌・美白作用を、シミ・シワ対策に役立てているようです。

ドクダミの薬効
●清熱作用
●解毒作用
●抗菌・抗炎症作用
●血行促進作用
●利尿・通便作用 など
〝婦人の薬〟ヨモギは冷えによる痛みに有効
ヨモギもまた、薬効が高く、生薬としては「艾葉(がいよう)」という名で通っています。代表的な働きは「温熱・止血作用」です。
ここでいう止血というのは、下半身の出血、痔などもそうですが、主に女性の月経過多や不正出血の改善を指します。
体を温め、妊娠を安定させる「安胎作用」もあり、妊娠を望む女性や流産しやすい女性にもお勧めです。冷えによる月経痛や腹痛にも効果を発揮します。ヨモギが〝婦人の薬〟とも称されるのは、このためです。
婦人科系の症状に対して西洋医学ができることは、実はそう多くありません。月経は毎月のことなので、ホルモン補充療法などよりも、体に負荷の少ない治療法が望ましいでしょう。
そこで頼りになるのが、ヨモギです。艾葉を配合した「芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)」という漢方薬があります。私の医院では、月経で悩む女性によく処方していますが、とても喜ばれています。
ところで、ヨモギがお灸のモグサの材料ということは、あまり知られていないかもしれません。葉の裏側の白い綿毛を、集めて固めた物がモグサです。火を点けると、さわやかな香りが広がります。この香りは主にシネオールという精油成分によるもので、鎮静・鎮痛作用があります。
民間薬的な使い方としては、乾燥葉を煎じてヨモギ茶として飲む、湯船に入れてヨモギ湯にする、などが人気のようです。ドクダミ同様、抗菌・抗炎症作用があるので、湿疹など皮膚炎の改善に役立つでしょう。

ヨモギの薬効
●温熱作用
●止血作用
●抗菌・抗炎症作用
●安胎作用
●鎮静・鎮痛作用
●湿潤作用 など
自身の体質に照らして活用を
実際、ヨモギとドクダミの活用法には共通するものも多くあります。
例えば薬用酒。生葉や乾燥葉を、ホワイトリカー(35度の焼酎)に3ヵ月から半年ほど漬けたら出来上がりです。ヨモギ酒はぜんそくに、ドクダミ酒は血行促進や滋養強壮に有効といわれます。
この薬用酒を水で薄めると、化粧水になります。虫よけや虫刺されのかゆみ、水虫にも効果が期待できるでしょう。ヨモギは湿潤作用もあるので、葉を煮出した油を外用にする人もいます。
ドクダミとヨモギには似た働きもあるため、どちらを使おうか、迷われるかもしれません。そんなときは、ご自身の体質に照らして選びましょう。
ドクダミは清熱・解毒作用があるので、
・暑がりで体は比較的壮健、
・吹き出物などができやすく、
・胃腸が丈夫な、
漢方でいう「実証」タイプにお勧めです。
ヨモギは温熱・止血作用があるので、
・冷え症で比較的細め、
・肌が乾燥しがちで、
・胃腸の弱い、
「虚証」タイプに向きます。
ただし、キク科の植物にアレルギーのある人は、ヨモギは避けたほうがいいでしょう。
道端に生えている草に、これだけの薬効があるのですから、活用しない手はありません。ぜひ、旬の手仕事を楽しみ、健やかな毎日にお役立てください。
*次項より[壮快編集部 編]
【監修】日笠久美(河崎医院附属淡路東洋医学研究所所長)
ドクダミとヨモギ
採取と乾燥方法
※キク科の植物にアレルギーがある人はヨモギの使用は控えてください。
期待できる主な効果
【ドクダミ】
清熱作用、解毒作用、抗菌・抗炎症作用、血行促進作用、利尿・通便作用 など
傷の腫れや細菌感染による炎症、吹き出物や湿疹、虫刺されなど肌の症状、便秘解消、痔

ドクダミの葉
【ヨモギ】
温熱作用、止血作用、抗菌・抗炎症作用、安胎作用、鎮静・鎮痛作用、湿潤作用 など
冷え症、冷えによる神経痛、月経異常や不正出血、痔、吹き出物や湿疹、虫刺されなど肌の症状

ヨモギの葉
採取と乾燥方法
❶ドクダミもヨモギも、地上に出ている部分を茎ごと採取する(ドクダミは花ごと使える)。
※できるだけ農薬や除草剤が散布されておらず、犬や猫の通らない、排気ガスの少ない場所を選んで採取する。
❷ゴミや枯れた部分、ほかの植物などを取り除く。丁寧に水洗いして、水気をふき取る。

❸②をザルや新聞紙の上に広げるか、ツルや茎を束ねて吊るすなどして、数日かけて乾燥させる。天日干しでも陰干しでもよいが、雨や夜露に当たらないよう注意し、なるべく風通しのよい場所に置く。葉を指でつまむと砕ける程度まで、カラカラに乾けばOK。

❹よく乾燥させたら、紙袋や紙箱など、通気性の高い場所で保管する。乾燥材を入れるとベター。
ドクダミとヨモギ
お茶の作り方
※キク科の植物にアレルギーがある人はヨモギの使用は控えてください。
※鉄製や銅製の鍋やヤカンは避ける(金属の成分が溶出するため)。
※1日に飲む量はコップ1~3杯程度とし、飲み切れない場合は冷蔵保存する。2~3日はもつ。
※薬効を引き出すには煮出すほうがお勧めだが、熱湯を注いで数分蒸らしてから飲んでもよい。

材料(出来上がり量=約600ml)
・乾燥したドクダミまたはヨモギ…5g(量は好みにより調整)
・水…1L

❶鍋やヤカンに、乾燥したドクダミまたはヨモギと、水を入れ、始めは強火、沸騰したら弱火にして煮出す。

❷水量が3分の2から半分程度になったら、火を止める。茶こしでこして飲む。
ドクダミとヨモギ
入浴剤の作り方
※キク科の植物にアレルギーがある人はヨモギの使用は控えてください。
※乾燥したドクダミまたは乾燥したヨモギを、鍋やヤカンで煮出し、その煮汁を風呂の湯に加えてもよい。
※肌に赤みやかゆみなどの異常が現れたら、直ちに中止する。

材料(1回分)
・乾燥したドクダミまたはヨモギ…30g(量は好みにより調整)

ネットやガーゼの袋に、乾燥したドクダミまたはヨモギを詰め、輪ゴムなどで口を縛る。湯船の中でもみ出しながら入浴する。
抗炎症作用ですべすべ! 美白肌に!
ドクダミ化粧水の作り方
※必ずパッチテストを行う。少量を塗りしばらく時間をおき様子を見て、赤みやかゆみなどの異常が現れたら、直ちに中止する。
※冷暗所または冷蔵庫で保存。1年ほどもつ。
※原液のまま使用して、刺激が強いと感じる場合は、すぐ使う分だけ小瓶に移し、水で適宜薄めて使うとよい。水を加えたら早めに使い切る。

1週間でできる 【簡易タイプ】
材料
・ドクダミの生葉…100g
・ホワイトリカー(35度の焼酎)…200ml
・グリセリン(保湿剤)…小さじ1

❶葉をよく水洗いし、丁寧に水気をふき取り、細かく刻む。
❷①をミキサーに入れ、ホワイトリカーを少量ずつ注ぎ、攪拌する。
❸ガーゼなどを敷いたザルをボウルの上に置き、②を空けて汁をしぼる。さらに茶こしなどでこし、清潔な密閉容器に移す。
❹1週間ほど冷暗所におき、グリセリンを加えて混ぜる。
1ヵ月以上漬け込む 【本格タイプ】
材料
・ドクダミの生葉…適量
・ホワイトリカー(35度の焼酎)…適量
・グリセリン(保湿剤)…適宜

❶葉をよく水洗いし、丁寧に水気をふき取る。
❷①を清潔な密閉容器にぎゅうぎゅうに詰め、ホワイトリカーをひたひたに注ぐ。冷暗所に置き、1ヵ月ほどしたら使える。3ヵ月〜半年おくとなおよい。
❸ガーゼなどを敷いたザルをボウルの上に置き、②を空けてこす。好みでグリセリンを少量加えて混ぜ、清潔な密閉容器に移す。
しっとりツヤツヤ! 健やかな肌に!
ヨモギオイルの作り方
※キク科の植物にアレルギーがある人はヨモギの使用は控えてください。
※必ずパッチテストを行う。少量を塗りしばらく時間をおき様子を見て、赤みやかゆみなどの異常が現れたら、直ちに中止する。
※冷暗所または冷蔵庫で保存。1年ほどもつ。

材料
・ヨモギの生葉…100g
・白ゴマ油…600~800ml(鍋の大きさにより調整)
※白ゴマ油(太白ゴマ油)は、生のゴマを圧搾して作られた無色透明の油。スーパーなどで購入できる。オリーブオイルなど、ほかの油で作ることも可能だが、香りが強くなく酸化しにくい油が向く。
※鉄製や銅製の鍋は避ける(金属の成分が溶出するため)。土鍋やほうろう製、耐熱ガラス製がお勧め。

❶葉をよく水洗いし、丁寧に水気をふき取る。

❷鍋にヨモギを入れ、白ゴマ油をひたひたになるまで注ぐ。
❸②をごく弱火にかけ、ときどきかき混ぜながら、油が緑色になるまで煮出す(30分が目安)。高温になると、ヨモギが揚がってしまうので注意。

❹火を止めて鍋を下ろし、触っても熱くない程度まで冷ます。ガーゼなどを敷いたザルをボウルの上に置き、③を空けて油をしぼる。清潔な密閉容器に移す。

この記事は『壮快』2022年6月号に掲載されています。
www.makino-g.jp