私たちの体の中では、3秒に1個、遅い人でも30秒に1個のペースでがん細胞が生まれます。しかし、免疫力の働きにより、がんは消え去ります。ですが、生活習慣に問題があるとがん細胞が増殖します。食事、睡眠、運動、加温、笑いの5つ。これらがくずれると免疫力が低下し、がんが育ってしまうのです。【解説】船戸崇史(船戸クリニック院長)

解説者のプロフィール

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船戸崇史(ふなと・たかし)

船戸クリニック院長。1959年、岐阜県生まれ。82年、愛知医科大学卒業。岐阜大学第一外科を経て、94年、岐阜県養老町に船戸クリニックを開業。西洋医学だけでなく、東洋医学や補完代替医療も取り入れた統合治療を行うほか、末期がん患者を中心とした在宅医療にも注力。2018年、日本初の「がん予防滞在型リトリート リボーン洞戸」を開設。新しいアプローチでがんの再発や転移の予防に取り組んでいる。
▼船戸クリニック

がんを告知されて言葉が出なかった

2007年、たまたま受けた人間ドックで、腎臓がんが見つかりました。血尿などの自覚症状は一切ありませんでしたし、自分は健康体で、がんにかかるはずがないという思い込みがありましたから、告知されたときも信じられませんでした。

担当医は、外科医どうしの気安さで、「左の腎臓に6cmのRCC(腎細胞がん)がありますね。転移はないようですから、手術できそうです。紹介状を書きますね」と、話を進めていこうとしましたが、私は驚くばかりで言葉が出ませんでした。

事態を受け入れられなかった私は、自分の病院に戻り、泌尿器科の医師に、持ち帰った写真を友人の物と偽って見てもらいました。しかし彼も即座に、検診医と同じ診断を下しました。「手術できそうだから、早く取ったほうがいい」と。2人の医者にいわれてしまうと、さすがに認めるほかありません。

受け入れざる得なくなったものの、「なぜ自分ががんにならなくてはいけないのか」という思いがわいてきました。

近年、「がん=死」ではないといわれるようになりました。しかし告知された人間は、どうしても死を意識せざるを得ません。私は告知する側から、告知される側の立場になり、身をもってこのことを痛感しました。

がんの好きな食材を控えがんが嫌う食材をとろう

誰もががんになります。私たちの体の中では、3秒に1個、遅い人でも30秒に1個のペースでがん細胞が生まれます。そのがん細胞を大きく成長させてしまう人と、成長させない人がいます。これは、免疫力の働きによるもので、この力によりがんは消え去ります。

しかし、その人の生活習慣に問題があると、免疫力が落ち、がん細胞が増殖します。では、免疫力が活発に働くことをじゃましているものとはなんでしょうか。

私は、5つの生活習慣に着目しました。食事、睡眠、運動、加温、笑いの5つです。これらがくずれると免疫力が低下し、がんが育ってしまうのです。

それぞれのポイントについて、もう少し具体的にお話しましょう。

「食事」

まず、食事から。ちなみに、私のがん告知までの食生活がどんな感じだったかといえば、とても褒められたものではありませんでした。

勤務医時代は、自宅での朝食や夕食以外では、まともな物を食べていませんでした。昼食はカップラーメン、当直の夜は、かつ丼、カレーライス等々。ファストフードやお菓子なども気にせず食べていましたし、肉料理、麺類、炒め物、揚げ物が大好きでした。育ち盛りの高校生と変わりません。

術後は、乱れた食生活をすべてやめました。塩分カットどころか、無塩生活を続けたのです。これはかなりきつかったのですが、おかげで減塩にも慣れ、術前より18kgのダイエットにも成功しました。

私が患者さんに食事療法を指導する際には、最初に最もたいせつなことをお伝えします。それが、「食への感謝」です。

基本的に皆さんの口に入るすべての食材にはなんの罪もありません。あらゆる食材が命を賭して、皆さんの血肉になるのです。ですから、どんな食材であれ、それを大事な命としていただく気持ちがたいせつだと考えています。

画像: 白米のかわりに玄米がお勧め

白米のかわりに玄米がお勧め

次に、控えたほうがよい食材です。がんは糖質が大好きです。糖質を食べて成長しますから、がんの好きな糖質を減らす必要があります。

糖質は2つに分けられます。「なめると甘い糖質」と「なめても甘くない糖質」です。

なめて甘い糖質の代表は、お菓子類です。精製された白砂糖を使ったお菓子は強力な依存性がありますから、やめるのはつらいと思いますが、なんとかお菓子断ちにチャレンジしてください。なお、精製した白砂糖はいけませんが、黒糖やハチミツなどはOKです。

一方のなめても甘くない糖質とは、お米やイモ類です。このうち、がんの好物である白米や小麦粉は控えます。かわりに玄米、雑穀米、全粒粉のパンなどが勧められます。これらは食べ過ぎなければ問題ありません。

がんの嫌いな食材、つまり、積極的にとるべき食品は、「まごわやさしいヨと覚えましょう。豆類、ゴマ、ワカメ(海藻類)、野菜、魚、シイタケ(キノコ類)、イモ類、ヨーグルトとなります。ちなみに肉類は、鶏肉のみを推奨します。

半日断食もお勧めです。夜食べて、翌日の朝を抜き、昼に食べます。すると、12時間以上空腹状態が続くことになり、内臓を休ませることができるうえ、免疫力アップの効果も期待できます。

ほかの4つのポイントについては次項で取り上げましょう。

朝6時からの運動が夜のいい睡眠につながる

「睡眠」

睡眠は、がんを治すために重要な要素です。

がん細胞を消去してくれるリンパ球は、主に副交感神経によって支配されています。副交感神経とは、自分の意志とは関係なく、血流や内臓の働きを調整する自律神経の一つです。

この副交感神経は夜間に優位となるので、夜の眠る時間が短くなれば、副交感神経が優位に働く時間が減ります。つまり、リンパ球ががんを消去している時間が短くなり、がん細胞が生き残ってしまうのです。

何時間以下なら睡眠不足なのでしょうか。これは個人差がありますし、単純に睡眠時間だけで判断することはできません。しかし、わかりやすい判断法があります。

それは、翌日の昼間に眠くなるかどうか

がんになる前、私自身は、ずっと睡眠不足の生活を続けていました。会議などがあると、よくウトウトしていましたし、あろうことか診療中に居眠りをすることさえありました。明らかに睡眠が足りていなかったのです。

患者さんには、「十六睡眠」を提唱しています。これは、夜10時に寝て、朝6時に起きるというもの。そんなに早く眠れないというかたは、とりあえず毎朝6時に起きるようにしましょう。これをくり返していくと、だんだん睡眠のリズムが整ってきて、早寝早起きができるようになります。

「運動」

誰しもに勧められるのは、ウォーキングです。1日少なくとも30分、できれば歩いてみましょう。目安としては30分で3000歩、1時間で6000歩です。

毎朝6時に起きて、なるべく早くウォーキングをするのがお勧めです。朝陽を浴びると、セロトニンという神経伝達物質の分泌が促されます。セロトニンは、いわゆる「幸せホルモン」で、精神を安定させる効果があります。

セロトニンが分泌されると、その15時間後にメラトニンというホルモンが分泌されます。これが「睡眠ホルモン」で、自然な眠気をもたらしてくれるため、前述した睡眠にもいい影響を及ぼします。

体を動かすことの効能は、近年、さまざまな研究によって確かめられています。

がん細胞を取り締まってくれるリンパ球は、酸素によって活性化されます。ウォーキングは有酸素運動ですから、歩くことで体内にたくさんの酸素を取り込まれ、リンパ球の働きを促してくれるのです。

画像: 朝陽を浴びながら歩こう

朝陽を浴びながら歩こう

「加温」

がんは、低体温を好みます。実際、がん患者さんは低体温のかたが多い傾向にあります。

私自身もがんになる前は、体を温めることに全く関心がありませんでしたが、がんの手術後は、体を温めるいろいろな方法を実践してきました。

患者さんには、湯船に浸かることを推奨しています。41~42度のお湯に入って、10~15分ほど湯船で温まってほしいのです。シャワーだけですと体を冷やしかねません。

重要なのは入浴後に、さらに毛布をかぶって、20分ほど保温することです。どっと汗が出てくるはずですが、それでも20分は保温を続けてください。保温を終えてから、汗を拭き取り、パジャマを着ます。これは、医学博士である伊藤要子先生のHSP入浴法に基づく方法です。

「笑い」

がんになる人は、まじめな人が多い傾向にあります。笑うことが苦手なのです。しかし、むっつりしていても、よいことは何もありません。

まじめなかたも、テレビのバラエティ番組を見てみましょう。あなたが想像する以上にくだらないので、つい笑えてくるはずです。笑いというのは、余裕がないと生まれません。免疫力も、この余裕から生まれてくるのです。

特におかしいことがなくても、笑顔を作ることがたいせつです。ニッと口角を上げると、免疫活性が上がるといわれています。

幸いコロナのおかげで、常時マスクをしていますから、ずっと口角を上げていても、誰にもわかりません。ひとつ副作用があるとすれば、目じりに笑いじわが増えてしまうことでしょうか(笑)。

がんを治すこと以外に生きる目標を見つけよう

私はがんの患者さんたちに、「がんが治ったら、何がしたいですか」と、問いかけることにしています。

がんになると、それを治すことが人生の目標になってしまいます。

しかし、本来、そうではないはずです。

がんを治すことは手段にすぎません

がんを治して、自分は何がしたいのか。

旅行に行って温泉に入りたい。

マラソンを完走したい。

今までどおりに仕事をバリバリしたい。

なんだっていいのです。

がんを治すこと以外に、自分の生きる目標を見つけること。

そして、その目標に向かって生きること

それが、がんを克服する力を与えてくれると私は考えています。

画像: この記事は『壮快』2022年6月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年6月号に掲載されています。

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