解説者のプロフィール

フライク幸子(ふらいく・さちこ)
Praxis am Brunnen院長・ドイツ在住家庭医。総合診療科専門医。欧州日本人医師会総務理事。信州大学卒業後、2000年に渡独。06年、テュービンゲン大学医学部卒業。20年、ドイツ南西部(バーデン・ヴュルテンベルク州)の黒い森地方で家庭医として開院。鍼灸治療も行う。ドイツでの日々を記録するブログ「黒い森の白いくまさん」を運営。
黒い森の白いくまさん(ブログ)
生野菜がないときの頼れるピンチヒッター
私は現在、ドイツ南西部の町で「家庭医」として開業し、診察に当たっています。
家庭医とは耳慣れない言葉かもしれませんね。ドイツでは病気になったら、まず誰もが家庭医を訪れます。そこで緊急度が判断され、もしも専門的な治療が必要なら、家庭医が専門医に紹介するというシステムです。
専門医にかかる必要のない病状なら、家庭医が対応しますし、ちょっとした外科処置なども行います。
2人の子供を育てながら、こうした仕事を続けているので、日々忙しくしています。慌ただしく帰宅して、食事の準備をするときに活躍するのが、ドイツの定番食品「ザワークラウト(乳酸発酵キャベツ)」です。さっと出せる野菜の一品として、常備しています。
ザワークラウトは、ドイツでは古くから食べられてきた伝統的な保存食です。もともとは新鮮な野菜や果物がなくなってしまう冬の間、ビタミンC源として活用されていました。
ですから、ドイツの人々にとっては、ザワークラウトは冬のイメージ。同じく保存食であるソーセージやハムなどを食べるとき、それに合わせてとることが多かったのです。現代でも、肉料理のつけ合わせとしてよく食卓に上ります。
ザワークラウトは、健康維持のためにもとても優秀な食品といってよいでしょう。
味の酸っぱさから、キャベツの酢漬けを連想するかたがいらっしゃるかもしれませんが、酢漬けキャベツではありません。キャベツを適切な塩分(約2%程度の量)によって乳酸発酵させて作る発酵食品です。ザワークラウトの酸味は、発酵して増えた乳酸による物なのです。
ザワークラウトを摂取することで、植物性の乳酸菌を腸内に取り入れることになり、整腸作用が期待できます。腸内環境が整うことで、免疫力アップの効果も期待できるでしょう。また、生のキャベツよりも消化がよいのも、利点です。
ドイツでは、瓶詰や缶詰のザワークラウトがたくさん市販されているので、最近ではそちらを使うかたが多いかもしれません。私自身も日ごろ瓶詰を購入しています。
ただしこれらの既製品の多くは、熱処理されているので、乳酸菌やビタミン類が減ってしまいます。栄養面を重視して、ザワークラウトをとろうというかたは、やはり手作りしたほうがよいでしょう。
キャベツの食物繊維も取れますし、生野菜がないときのピンチヒッターとして既製品でも十分頼れる存在です。
下の写真は、我が家のある日の夕食です。カスラー(塩漬け燻製肉)、ソーセージ、ジャガイモ、そしてザワークラウトをたっぷりと。これも瓶詰ですが、さわやかな酸味が美味で、肉料理によく合います。

フライク先生一家のある日の食卓
主食がわりに食べられて血糖コントロールに便利
よく知られているとおり、キャベツにはカリウムが豊富なうえ、ビタミンKや、胃腸の粘膜を保護する働きがあるとされるビタミンU(別名キャベジン)も摂取できます。カルシウムも豊富なので、乳製品が苦手なかたに、骨粗鬆症の予防としてお勧めです。
腸内環境を整える、食物繊維の効能も見逃せません。ただし、食物繊維をとり過ぎると、おなかが張ったり便がゆるくなったりすることがあるので、適量を心掛けましょう。
私自身も、ザワークラウトに限らず、日ごろからキャベツをよく食べます。私は、妊娠を期に妊娠糖尿病を発症し、出産してからも血糖のコントロールのために、糖質制限を続けています。家族にはパンや麺類など炭水化物を用意しますが、私は炭水化物をキャベツでおき換えることが多いのです。
生で食べるときは、ドイツで「とんがりキャベツ」と呼ばれる品種をよく利用します。というのも、ドイツの一般的なキャベツは、葉がかた過ぎて生では食べにくいのです。とんがりキャベツは、その名のとおりとがった形をしたキャベツで、葉が比較的やわらかく、日本のキャベツに近い食感です。
大量のせん切りキャベツに、炒めた肉を肉汁ごとのせて、温サラダのようにして食べたり、主食がわりに、生のまま食べたりもしています。生のキャベツは、かさがあって、満腹感を与えてくれます。私のように血糖コントロールをしたいかたにも、キャベツはお勧めできる食材といってよいでしょう。
皆さんも、ザワークラウトを始め、キャベツを上手に使って、おいしく健康によい食事を心掛けてください。

この記事は『壮快』2022年6月号に掲載されています。
www.makino-g.jp