解説者のプロフィール

桑原大志(くわはら・たいし)
東京ハートリズムクリニック院長。1965年生まれ。愛媛大学医学部卒業。医学博士。愛媛県立中央病院、愛媛大学医学部附属病院、愛媛県立新居浜病院、国立循環器病センター、横須賀共済病院を経て、2016年、東京ハートリズムクリニック開院。日本不整脈心電学会認定不整脈専門医。日本循環器学会認定循環器専門医、日本内科学会認定内科医、日本不整脈心電学会評議委員。
▼東京ハートリズムクリニック
野菜を多く食べるほど脳卒中のリスクが減る!
私は長年、不整脈の専門医として、不整脈やそれに関連する諸症状の治療を専門に行っています。
不整脈とは、心臓の脈を打つリズムが変調を来す症状です。すべての不整脈が怖いわけではありませんが、例えば代表的な不整脈の一つである心房細動は脳梗塞を引き起こす原因となり、私たちの体に致命的なダメージを与えるおそれがあります。
不整脈の予防や改善のために、私が重要視していることのひとつが食事療法です。
不整脈を引き起こす有力な原因のひとつには、高血圧が挙げられます。また不整脈は、肥満や糖尿病などとも密接に関連しています。そこで毎日の食事を変え、高血圧や糖尿病、肥満を改善することは、不整脈の予防・改善にも役立ち、ひいては心血管病の予防にもなるのです。
その食の改善に向けた対策として、私は、キャベツなどの野菜を食事の最初にたくさん食べること(「食前キャベツ」)を推奨しています。これは、不整脈のかただけでなく、生活習慣病などが気になる中高年のかたがたにとっても非常に有益な方法です。
野菜食が心血管系の疾患によい影響をもたらすことは、多くのエビデンスが示しています。アメリカで最も権威のある医学雑誌のひとつであるJAMAに載った研究では、野菜をよく食べることが脳卒中のリスクを減らすことが報告されています。
これは、34〜59歳の女性7万5596人を14年間、40〜75歳の男性3万8683人を8年間、追跡調査したもの。これらの健康な男女を、野菜(と果物)の摂取量で5グループに分け、摂取量と脳卒中の関連を調べたのです。
これによると、野菜などの摂取量の最も多い群は、最も少ない群に比べて、約31%も脳卒中のリスクが減ることがわかりました。
ナトリウムの排出を促進血糖値の急上昇も防ぐ!
こうしたエビデンスを踏まえ、患者さんたちに野菜を食べることをお勧めをしているわけですが、なかでも、私が食前キャベツをお勧めしていることには3つの理由があります。
❶高血圧の予防・改善効果
キャベツには、カリウムが豊富に含まれています。カリウムには、体内の余分なナトリウムの排出を促し、血圧を下げる働きがあります。
もともと日本人は、日常的な食塩の摂取量が多く、しかも食塩感受性の高いかた(食塩摂取量が血圧に反映するタイプ)が高血圧患者の半数近くを占めています。
そのようなかたがカリウムの多いキャベツを積極的にとれば、ナトリウムの排出が促され、血圧の降下や、血圧を低めに安定させる効果が期待できるでしょう。
❷糖尿病の予防・改善効果
食前にキャベツを食べておくと、その後の食事によって血糖値が急激に上昇するのを防ぐ効果があります。
白いご飯などの糖質を、食事の最初に多くとると、血糖値の急激な上昇を招き、それが膵臓への負担となります。血糖値の激しい上下動や高血糖状態が続くことで、血管に負担がかかり、糖尿病へとつながっていきます。
食前キャベツは、血糖値の急上昇を抑えることで、膵臓の負担を減らし、糖尿病の予防・改善に役立ちます。
❸肥満予防効果
食物繊維は余分なコレステロールの排出も促し、かつ糖質の吸収も抑制できるので、肥満予防になります。食前キャベツを続けることで、太りにくくなれば、それも生活習慣病の予防・改善の助けとなるはずです。
実は、私自身も食前キャベツを実践している一人です。
私の家系は典型的な高血圧家系で、家族の多くが高血圧に悩まされてきました。それがわかっていましたから、自分自身も、昔から食事には気を遣ってきました。
その工夫の一つが、毎日朝食の初めにとる山盛りのキャベツというわけです。私はこれにアマニ油を垂らして食べます。あとは、雑穀米と青魚。こうした朝食を30年間続けてきました。
そのおかげで、高血圧家系の私ですが、高血圧にならず、健康体を維持できています。
高血圧、糖尿病といった生活習慣病や心血管系の病気が気になる中高年のかたには、ぜひ食前キャベツをお勧めしたいと思います。
ただし、腎臓が悪いかたや、ワーファリンを服用中のかたは、カリウムをたくさん摂取することが勧められない場合がありますので、ご注意ください。

桑原先生の「食前キャベツ」
キャベツの健康効果
❶高血圧の予防・改善
豊富なカリウムが体内の余分なナトリウムの排出を促し、血圧を下げる。
❷糖尿病の予防・改善
食物繊維が血糖値の急激な上昇を抑制する。
❸肥満の予防
食物繊維が余分なコレステロールの排出を促す。糖質の吸収も抑制する。

この記事は『壮快』2022年6月号に掲載されています。
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