解説者のプロフィール

中倫子(なか・みちこ)
(株)トータルマネジメントビジネス 管理栄養士・国際中医薬膳師。食品メーカーや量販店に向けた料理レシピ開発などに従事。生活習慣病改善のための栄養指導も行い、栄養と料理・薬膳に関する健康教育にも携わっている。
耳の不調は「腎」の機能低下で起こる
黒豆、黒ゴマなどを積極的に食べよう
中医学(中国の伝統医学)では、耳鳴り・難聴といった耳の不調は、「腎」の機能が低下することによって起こる代表的な症状とされています。ただし、耳鳴りなどは重篤な病気であることもありえるので、まずは医師の診察を受けることを推奨します。
中医学では、腎は、腎臓、泌尿器系、生殖器系、副腎をはじめとする内分泌系の一部であるとともに、脳の一部の機能も含まれると考えます。
耳の不調が起こりやすいのは冬から春先にかけての季節。腎は寒さに弱く、冬に体が冷えると、その影響が春先にかけて現れてくるからです。
そこで、積極的にとっていただきたいのが、腎の働きを補うとされる食材。その代表が黒豆、黒ゴマ、ヒジキなど、色の黒い食材です。
これらは入手しやすく、比較的安価で、料理にもとり入れやすいでしょう。特に黒ゴマは、いろいろな料理にちょい足しできて便利です。
また、黒豆に豊富に含まれているたんぱく質も、腎を補うといわれています。私のお勧めは、「黒豆茶」(作り方は別記事参照)として飲むこと。それに加え、煮出した後の黒豆をちりめんじゃこと一緒に酢漬けにして食べるのもいいでしょう。
ちりめんじゃこからは、たんぱく質はもちろん、オメガ3系脂肪酸、カルシウムなどが摂取でき、うま味も出ます。その他のたんぱく源としては、カキなどの魚介類、肉類、卵もお勧めです。
[別記事:耳鳴り・難聴にお勧め!耳の老化を防ぐレシピ→]
なお、腎臓疾患などがあってたんぱく質の摂取制限をしている人は、医師の指示に従うようにしてください。

黒豆茶

黒豆とちりめんじゃこの酢漬け
また、体に入った食べ物は消化吸収されて血液となり、最終的には腎臓でろ過され、不要なものは尿として排泄されます。
つまり、腎は解毒の役割も担っています。腎の負担を減らすためにも、塩分、食品添加物、アルコール、刺激物、乳製品などは、とり過ぎないよう注意しましょう。
さらに、先述のように腎は寒さに弱いため、冷えにも注意が必要です。特に、足首からかかとには腎の経絡(中医学でエネルギーの通り道とされるもの)が通っています。夏場でもレッグウォーマーや靴下をはくなど、冷やさないことを心がけてください。
また、睡眠は腎を補う大切な要素です。十分な睡眠をとるようにしましょう。
ストレスや疲れ対策も耳の不調改善には大切
腎に加え、春は「肝」と「脾(胃腸)」のケアも合わせて行うことをお勧めします。というのも、この季節は、環境の変化にさらされる人が多く、そういった人にはストレスがかかりやすくなります。
肝は、血液をためて全身に巡らせる機能を持ちますが、ストレスの影響で機能低下を起こしやすいといわれています。中医学では、肝が弱ると脾がダメージを受け、脾が弱ると腎にダメージが及ぶと考えられています。
ストレスや疲れを感じたときに、耳鳴りがしたり、聞こえにくくなったりといった耳の不調が起こってくるのは、まさに肝も疲れている証拠です。
そんなときは、セリ、ミツバ、ヨモギ、セロリなど香りの強い野菜、タケノコなどの山菜類で肝を補いましょう。山菜類は熱を冷ます作用のあるものが多いので、体が冷えやすい人はつくだ煮や天ぷらなど、加熱調理をして食べるようにしてください。
また、かんきつ類の香り、酢や梅干しの酸味も、肝を元気にします。
一方、脾を整えるには、イモ類や米などの穀類がお勧めです。例えば、ヤマイモは下痢をしやすい人にいいといわれている他、腎を補う作用もあるとされます。米も、1日1回は食べてください。ご飯が重いと感じる場合は、おかゆにするとよいでしょう。
どんなに体にいい食材をとっていても、胃腸が弱っているとうまく消化吸収できません。脾を整えることは、食事の大前提と心得てください。
肝を弱らせないためには、がんばり過ぎないこと、脾を弱らせないためには、冷たい物を避ける、満腹になるまで食べないことも重要です。こうしたケアが腎の衰えを防ぎ、耳のトラブルの予防、不調の改善へとつながっていくのです。
耳の不調が起こりやすいという人は、冷房で体を冷やしやすい夏、さらには次の秋・冬も、腎をいたわる生活を心がけましょう。そうすれば、翌年の春を快適に過ごせるはずです。
こうした中医学の考えのレシピを別記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。
[別記事:耳鳴り・難聴にお勧め!耳の老化を防ぐレシピ→]

この記事は『安心』2022年5月号に掲載されています。
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