現代人は前かがみになる時間が長くなり、首や肩に慢性的なこりを抱える人が増えました。この圧迫により、首から上のリンパ循環が滞り、内耳にある蝸牛にリンパ液がたまって耳の不調として現れるのです。改善するには、リンパ液の循環を促して、内耳にたまった水を排出しなければなりません。そこでお勧めしているのが「水飲み療法」です。【解説】藤井德治(一掌堂治療院院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

藤井德治(ふじい・とくじ)

一掌堂治療院院長。鍼灸あん摩マッサージ指圧師。「突発性難聴ハリ治療ネットワーク」代表。上智大学経済学部を卒業後、大手機械メーカーに入社。難聴の発症により退社し、東京鍼灸柔整専門学校(現・東京医療専門学校)に入学。1983年、東京・新橋に現在の治療院を開院。胸鎖乳突筋をメインとするもみほぐしや、水飲み療法などを用いた鍼灸治療に定評があり、耳鳴り・突発性難聴等の改善症例は3500例を超える。『耳は「首押し」で9割ラクになる!』(河出書房新社)などの著書がある。
▼一掌堂治療院(公式サイト)

耳の不調を改善する「水飲み療法」とは

発症から2ヵ月たった突発性難聴にも効いた

※腎臓や心臓、肝臓に疾患がある人は、症状を悪化させる可能性があるため控えてください。

当院では、耳鳴りや難聴、めまいを訴える全ての患者さんに鍼灸治療と並行して、ある健康法をお勧めしています。それが「水飲み療法」です。これはその名の通り1日に1~2Lの水を飲む方法で、耳の不調改善に大きな効果を発揮します。いくつか症例を紹介しましょう。

耳鳴りを訴えて来院されたAさん(57歳男性)。病院では、耳鳴り以外の異常がない場合、うまく対処してもらえないことがありますが、Aさんもそのケースで、発症から1ヵ月たった後に当院に来られました。

Aさんは、毎日の飲水量を記録しながら、水飲み療法を実践しました。その記録により、たくさん水を飲むと耳鳴りがしなくなり、少ないとひどくなることがわかったのです。効果を実感されたAさんは、半年で耳鳴りが完治した後も、予防のために水を飲み続けています。

低音が聞こえない突発性難聴とめまいがあったBさん(45歳女性)は、発症から2ヵ月たち来院されました。一般的に、突発性難聴は、発症から時間がたつと改善まで長くかかることが多いのですが、Bさんは水飲み療法をしっかり実践。その結果、治療を始めて1ヵ月半で全ての症状がなくなったのです。

難聴と耳鳴りが同時に起こるケースにも、水飲み療法は有効です。Cさん(55歳女性)は、発症から2週間で来院され、鍼灸治療と水飲み療法を開始。

難聴に耳鳴りが伴う場合、難聴が回復すれば、耳鳴りも自然によくなります。Cさんも、耳の詰まった感じが徐々に取れていくとともに耳鳴りが小さくなり、半年ほどで完治しました。

さらに、重度とされる難聴にも効果が期待できます。Dさん(63歳女性)は聴力検査で低音から高音まで全ての音域が聞き取れず、音が途中で消えてしまう症状もありました。水飲み療法を行ったところ、3ヵ月半が経過した頃に、全ての音が明瞭に聞こえるようになりました。

 

画像1: 【耳鳴り・耳閉感】耳の不調を軽減する水飲み療法とは?常温チビチビ飲みが内耳のリンパの循環をよくする

水飲み療法で改善が期待できる症状

耳鳴り
難聴(特に、低音の聞こえが悪くなるタイプ)
耳閉感
めまい
※発症から時間がたっていない人ほど効果が出やすい。
※発症から時間がたった、もしくは高音の聞こえが悪くなる難聴でも、時間をかければ有効な場合がある。

内耳に溜まったリンパ液の循環を促してくれる

耳鼻科の薬と同様の効果を得られる

では、なぜ大量の水を飲むことで、耳の不調がよくなるのでしょうか。それは、内耳にたまったリンパ液(体内の老廃物や毒素、余分な水分を運び出す体液)の循環が促されるからです。

私たちが音として感知しているのは、実は空気の振動です。耳に入った振動は、鼓膜から耳小骨という骨に伝わり、最後は内耳にある蝸牛(かぎゅう)に届きます。

この蝸牛の中を満たしているのが、リンパ液です。ここで空気の振動は水の振動に変わり、それが脳に伝わると、音として感じられます。ですから、

音の聞こえ方は、蝸牛のリンパ液の状態に大きく影響を受けます。リンパ液の状態が悪くなると、聞こえが悪くなったり、耳鳴りがしたりするのです。

リンパ液の状態が悪くなる一因には、首や肩のこりがあります。特に現代人は、パソコンやスマホの使用で前かがみになる時間が長くなり、首や肩に慢性的なこりを抱える人が増えました。

この圧迫により、首から上のリンパ循環が滞ります。その結果、蝸牛にリンパ液がたまり耳の不調として現れるのです。

これを改善するには、リンパ液の循環を促して、内耳にたまった水を排出しなければなりません。耳鼻科では、それを目的に利尿剤が処方されることがありますが、大量の水を飲むことでも、同様の効果を得ることができるのです。

行う際に重要な4つのポイント

水飲み療法のやり方は、次の項をご覧ください。ここでは、効果を得るために重要な4つのポイントを紹介します。

飲む量は徐々に増やす

水飲み療法の最終目標は、温かい時期で2L、寒い時期で1.5Lの水を飲むこと。まずは1日1Lから始めて3日続け、むくみやおなかがゆるくなるなどの症状がなければ、1.5L、2Lと増やしていきます。

少量ずつ飲む

大量の水を一気に飲むと、体に吸収されず、そのまま排泄されることがあります。前述の量を、1日かけてチビチビと飲むようにしましょう。夜中に尿意で目が覚めるのを防ぐために、寝る2時間前までには飲み切るようにしてください。

常温か温めた軟水を飲む

冷たい水を大量に飲むと、体が冷えやすくなります。また、ミネラルを多く含む硬水は、大量に飲むと下痢を引き起こす恐れがあります。軟水を常温で飲むか、温めて飲みましょう。

コーヒーや緑茶で代用しない

コーヒーや緑茶、ジュースなどには、カフェイン、糖分、塩分が含まれており、お勧めできません。水がどうしても飲みにくいという人は、麦茶や黒豆茶など、カフェインを含まないお茶を飲むといいでしょう。

水飲み療法とぜひ一緒に行ってほしいのが、ウォーキングなどの運動です。体を動かすことで、リンパ液の循環が促されます。

経験上、水飲み療法の効果が出やすいのは、発症後すぐに始めた場合と、低音が聞こえにくい難聴の場合です。しかし、発症から時間がたっている、あるいは高音が聞こえにくい難聴でも、時間はかかりますが有効な場合があります。これらの症状の軽減にもお役立てください。

「水飲み療法」のやり方

常温・2L・チビチビがポイント!

※腎臓や心臓、肝臓に疾患がある人は、症状を悪化させる可能性があるため控えてください。

3日間、毎日3Lの水を飲む。

体がむくむ、おなかがゆるくなるなどの体調不良がなければ、毎日飲む水の量を1.5Lに増やし、さらに3日間程度飲み続ける。

②のような体調不良がなければ、毎日飲む水の量を2Lに増やして、継続する。

画像: 常温・2L・チビチビがポイント!

ポイント

上記の量の水を、1日かけて、少量ずつゆっくり飲むようにする。就寝中の尿意を避けるため、寝る2時間前には飲み終わっているようにすること。

寒い時期や、多くの水を飲むことが難しい女性の場合は、毎日飲む量は1.5L程度でもよい。無理のない範囲で、なるべく多くの水を飲むことを意識する。

冷たい水は、時期を問わず体を冷やす恐れがある。常温か50~60℃の白湯を飲むようにする。後者の場合は、保温性の高い水筒などに入れて手元に置き、チビチビと飲むのがお勧め。

コーヒーや緑茶、ジュース、汁物など、カフェイン、塩分、糖分などが入っている飲み物は計算に含めない。水を飲み続けるのがつらい場合は、麦茶や黒豆茶などのノンカフェインのお茶で代用を。

水飲み療法の効果がアップする運動

ウォーキング(アクアウォーキング療法)

画像2: 【耳鳴り・耳閉感】耳の不調を軽減する水飲み療法とは?常温チビチビ飲みが内耳のリンパの循環をよくする

腕を大きく振りながら、ゆっくり大股で散歩する。
毎日3km、40分程度歩くのが目安。

※腕は、背中側に大きく振ることを意識する。
※かばんを持って歩く場合は、ショルダータイプやリュックなど、両手が空くタイプのものがお勧め。
※ひざや腰に痛みが出ないよう、無理のない範囲で行う。

踏み台昇降

画像3: 【耳鳴り・耳閉感】耳の不調を軽減する水飲み療法とは?常温チビチビ飲みが内耳のリンパの循環をよくする

無理なく足が上がる高さの踏み台を用意し、腕を大きく振りながら踏み台を上り下りする。毎日30分程度行う。

※天候が悪い日や、感染症などの影響が心配な場合の代用法としてお勧め。
※腕は、背中側に大きく振ることを意識する。
※テレビを見ながら、音楽を聞きながらなどして行えば、楽しく続けられる。ただし、転倒などの危険がないよう、十分に注意する。
※ひざや腰に痛みが出ないよう、無理のない範囲で行う。

画像: この記事は『安心』2022年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年5月号に掲載されています。

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