解説者のプロフィール

坂田俊文(さかた・としふみ)
福岡大学医学部耳鼻咽喉科学教授。 医学博士。1986年福岡大学医学部卒業。94年同大学大学院修了。2006年、同大学医学部耳鼻咽喉科講師に就任。16年に現職。専門は難聴、耳鳴り、聴覚過敏、耳閉感。
耳鳴りの感じ方を小さくする「音響療法」
アナログのFMラジオやテレビの砂嵐音がお勧め
耳鳴りは、さまざまな原因で起こります。急に耳鳴りが聞こえ始め、消えそうにないときは耳鼻科の受診が必要です。原因の病気がわかれば、その治療を優先します。
一方で「年齢によるものだから慣れるしかない」と、医師から言われる場合もあります。深刻な病気が原因でなかったのは幸いですが、言われた患者さんは落ち込むものです。「ずっとこれが続くのか」と絶望的な気持ちになる人もいるでしょう。
そんなときにぜひお勧めしたいのが「音響療法」です。ある種のノイズ(雑音)や音楽などを聞くことで、耳鳴りの感じ方を小さくする効果があります。
使用する代表的な音が、ホワイトノイズという、高音や低音、中間的な音など、さまざまな音質を同じくらいの割合で含んだ雑音です。
例として、滝の音、渓流の音、アナログのFMラジオやテレビで放送のないチャンネルにしたときのザーッという音(いわゆる「砂嵐」の音)が挙げられます。
耳鳴りに悩む人なら経験があると思いますが、静かな環境では耳鳴りが大きく感じ、雑踏や乗り物の中などの騒音が多い環境では耳鳴りを感じにくいものです。このように、何かの音が耳に入っていると、耳鳴りの感じ方は軽減されます。
その効果は、耳鳴りに近い音質であるほど高まります。しかし、耳鳴りにはさまざまな音質があり、複数の耳鳴りが聞こえる場合もあります。だからこそ、あらゆる音質を含むホワイトノイズが効果的なのです。
効果を具体的に示すと、耳鳴りの大きさを5とした場合、3くらいの大きさのホワイトノイズを聞けば耳鳴りが2くらいに感じるようになります。音響療法では、これを利用して耳鳴りの感じ方を小さくします。
音響療法を自分で実践する方法
音響療法を自分で実践するには、以下の方法があります。
①補聴器や耳鳴り治療器
最近の補聴器には、ほとんどにホワイトノイズの発生機能がついています。難聴が原因の耳鳴りは補聴器だけでも治療できますが、ホワイトノイズを聞けば二重の効果が期待できます。
難聴がないか軽い人には、耳鳴り治療器がお勧めです。補聴器と同じ形なので、どこにいてもホワイトノイズを聞くことができます。これらは耳鼻科で相談してください。
②部屋に置くタイプの専用機器
ホワイトノイズの発生器の中には、部屋に置いて使えるものもあります。夜などに部屋で使用する際にお勧めです。
③アナログのFMラジオ
最近は、テレビやラジオのデジタル化により、砂嵐の音を聞く機会が激減しました。しかしアナログのFMラジオは安価で購入でき、いまだにノイズ音が聞ける貴重な機械です。ただし、スピーカーで聞いてほしいので周囲への配慮が必要です。
④自然環境音のCD
ホワイトノイズに近い滝や渓流の音の他、自然環境音も効果があります。このようなCDを室内で流すのもよいでしょう。
⑤インターネット上の音源
インターネットで「ホワイトノイズ」と調べると、多くの音源や動画が出ます。聞いていて疲れないものを選びましょう。
次に、ホワイトノイズを聞く上で、特にお勧めのタイミングを紹介します。それは、就寝時に耳鳴りが気になるときです。
音が心地よく聞こえる場所にスピーカーを置き、前述の音を流すとよいでしょう。機材を壁に向けて置くと、部屋全体がホワイトノイズに包まれます。ホワイトノイズは、人によってはリラックス効果や安眠効果もあるので、寝る前に聞くのはそうした意味でもお勧めです。

「寝る前ラジオ」のやり方
❶夜寝る前に枕元や足元など、自分が音を心地よいと感じられる位置にアナログのFMラジオを置く。
❷FM放送の選曲で、局と局の間の「ザァーッ」という砂嵐の音の位置に設定し、耳鳴りとノイズの両方が聞こえる音量で流す。割合は自由でよい。
❸②の音を聞き流したまま眠りにつく。タイマーがあればなおよい。
<ポイント>
*耳鳴りを完全に覆い隠すほどの音量で流すと、かえって日常生活で耳鳴りが気になる原因になる。
*ラジオの代わりに、ホワイトノイズが流せる機器やCDプレイヤーでもよい。スピーカーで聴くのが望ましい。
難聴からの耳鳴りが半年で大幅に減った
この方法を利用して、耳鳴りの悩みを克服した患者さんは全国に大勢おられます。ある70代の男性は、加齢による難聴から耳鳴りが起こりました。
難聴自体は軽かったので、昼は補聴器型の耳鳴り治療器で、夜はラジオでホワイトノイズを聞きました。半年ほどたつと、昼に耳鳴りが気にならなくなり、7〜8ヵ月目には夜も気にせず眠れるようになりました。
この方のように、ホワイトノイズを聞いているうちに耳鳴りが気にならなくなった後は、その時点で聞くのをやめても構いません。逆に、聞き続けていても結構です。なお、ホワイトノイズ自体が苦痛に感じるときは別な音を見つけてください。
音響療法の①~⑤に加え、趣味や運動、人との交流、仕事などの活動を積極的に行い、耳鳴りから注意をそらすトレーニングをすればさらに効果的です。
ちなみに、冒頭で述べた通り耳鳴りにはいろいろな音質があります。加齢による耳鳴りでも音質は人によって異なります。音質から病気を診断することはできませんが、「ブーン」、「ボー」などの低い音の場合、メニエール病などの可能性があります。
気をつけてほしいのは、脈打つような耳鳴りです。この場合は血管障害の可能性も考えられるので、一度は耳鼻科か脳神経外科の受診をお勧めします。

この記事は『安心』2022年5月号に掲載されています。
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