解説者のプロフィール

柴田友里絵(しばた・ゆりえ)
FMT整体代表。スポーツトレーナーを志し、専門学校へ進学。FMT整体でのアルバイト時、ひざの痛みで「もう手術しかない」と宣告された中学生が、手術せずに改善していく光景に衝撃を受け、弟子入りを決断。通算3万人を超す臨床経験を経て、FMT整体の代表に就任。現在は現場に立ちながら、次世代セラピストの育成、命の不思議や心身のつながり・自然から学ぶ健康法などをテーマに、体感型のセミナーを全国各地で行っている。著書に『耳鳴、難聴、めまいを改善! 30秒で耳の聞こえがよくなる「耳体操」』(PHP研究所)がある。
▼FMT整体(公式サイト)
耳鳴りにおすすめのセルフケア
薬が効かなかった自分の耳鳴りが消失
耳鳴り・難聴などの耳の不調の原因はさまざま。中には重い病気に起因するものもあるため、症状が出たらすぐに病院を受診しましょう。
その上で、セルフケアとしてお勧めなのが「耳体操」です。
耳体操は、耳とその周辺の筋膜をゆるめることで耳の不調の改善を目指すセルフケアです。2016年にインターネットの動画共有サイトで紹介したところ、100万回以上の再生数という大反響がありました。
耳体操考案のきっかけは、私自身の実体験でした。左耳にだけ、静かな場所でキーンと響く耳鳴りが生じていたのです。
ただ、当時は整体院の新店舗立ち上げのため忙しく、耳鼻科を受診したのは発症後1ヵ月以上たってから。発症から時間がだいぶ過ぎていたせいか、医師に処方してもらった薬は効きませんでした。
そこで、自分で自分の耳をチェックしたのです。すると、左右の耳で、硬さや圧痛の箇所が異なることに気づきました。
その後、スタッフや患者さんの協力を得ながら試行錯誤をくり返し、誕生したのが耳体操です。私の耳鳴りは、耳体操を作りだす過程で、1年とたたないうちに消えていました。
耳体操で耳の不調が改善する理由
筋膜の緊張で血液・リンパの流れが滞る
耳体操で耳の不調が改善するのは、ごく弱い刺激により、耳周辺の筋膜がゆるむためだと思われます。
筋膜とは、全身の筋肉を覆っている膜です。ストレスが多い状態が続くと、筋膜は緊張してこわばり、その下の筋肉も固くなって、血管やリンパ管が圧迫されます。耳の不調の多くは、この筋膜の緊張による耳周辺の血液・リンパの流れの滞りと関連しているのでしょう。
耳体操では、耳鳴り、難聴、耳の聞こえづらさ、めまいなど、耳に関連する不調の改善が期待できます。
全身の筋膜は互いに関連しています。そのため耳体操で耳周辺の筋膜をゆるめると、体の他の部位の筋膜もゆるみ、頭痛や不眠、首・肩のこり、目の疲れ、鼻づまり、声の通りの悪さ、更年期障害、倦怠感、イライラ、うつ、不安感、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)の乱れ、気候の変化などによる不調の多くに改善が期待できます。
耳体操は「物足りない」と思うくらいの、ごく弱い力加減で行いましょう。
「イタ気持ちいい」の方が、効果が高そうに思われがちですが、赤ちゃんや動物が嫌がるような力加減だと、強過ぎです。耳体操で痛みを感じたときは、力を弱めるか、耳体操自体をお休みしてください。
回数は1日に2~3回程度。それ以上増やすと、かえって耳周辺の筋膜は緊張します。耳鳴りの症状が強く出ているときは、耳体操はしないでください。
忙しい人は、基本の「耳の穴ケア」と「耳の上げ下げ」だけでも構いません。この2つの体操で、要する時間は30秒程度です。
耳体操を行うと、1ヵ月ほどで何らかの変化を実感できるでしょう。中には、耳体操を行った直後に耳の聞こえがよくなったという人もいます。症状が消えても、再発を防ぐために3ヵ月は耳体操を続けてください。
耳体操のやり方
●耳鳴りの症状が強く出ているときは行わない。
●耳体操は「物足りない」と思うくらいの、ごく弱い力加減で行うこと。「イタ気持ちいい」という力だと強過ぎ。
●1日に2~3回程度に収めておく。それ以上の回数を行うと、かえって耳周辺の筋膜が緊張する。
●耳体操で耳に痛みを感じたときは、力を弱めるか、耳体操自体をお休みする。
基本A 耳の穴ケア
「物足りないくらいの力加減で行う」という耳体操の原則を忘れず、まずは「耳の穴ケア」から始めましょう。

私たちが日常生活で「耳」と呼ぶ、顔から外に張り出している部分は「耳介」といいます。「耳の穴ケア」は、耳介の内側のくぼみ全体(写真の斜線部分)にあるこりをほぐすイメージです。全体をほぐすので、1~4で示した場所は、あくまで目安です。

❶耳のくぼみの下部に人さし指を当てて、2mmほど引き下げる。3秒間静止する。

❷くぼみの後方に人さし指を当てて、2mmほど引き下げる。3秒間静止する

❸くぼみの上の部分に人さし指を当てて、ほんの少しだけ押す。3秒間静止する

❹耳の穴に指を入れてふさぐ。指を強く押し入れない。3秒間静止する
❺反対の耳(右耳)で①から④のケアを行う。
基本B 耳の上げ下げ
耳介全体を動かします。まず、手を軽く握り、親指を立て、いわゆる「いいね」の形にします。次に、親指と人さし指の間のV字部分で、耳の穴の前方にある出っ張りも含めた耳介全体を優しく包むようにつかみます。

まずは指でこの形を作りましょう。耳の上げ下げは、両手で同時に行います。

❶耳介全体をつかみ、腕の重みで5mm程度引き下げる。耳に指がぶら下がるイメージ。3秒間静止する

❷つかんだ耳介全体を5mm程度上に持ち上げる。3秒間静止する

❸耳介をつかみ、左右に5mm程度引っ張る。3秒間静止する
側頭筋の持ち上げ
「側頭筋」は頭蓋骨の側面にあり、こりやすい部位なので、ここも優しくケアし、ゆるめていきましょう。手のひらをピタッと密着させ、力を入れず、頭皮を5mmくらい上に持ち上げるイメージで行います。
側頭部にある側頭筋は、目が疲れると、こる部分でもあります。動かしてゆるめることで血流がよくなり、症状が改善されます。

固くこった筋肉は、普段動かしていない方向へと動かし、その位置で静止させることによって、緊張がゆるんでいきます。「ずらして、止めて、力を抜く」ことを意識してください。3つのポイントを紹介します。

❶側頭部の耳から上辺りを優しく持ち上げる。3秒間静止してから力を抜く

❷側頭部のやや前方、こめかみの辺りを優しく持ち上げる。3秒間静止してから力を抜く

❸側頭部のやや後方寄りの部分を優しく持ち上げる。3秒間静止してから力を抜く
耳引っ張り
左の耳は右手で、右の耳は左手で、頭の後ろからつまんで引っ張るケアです。頭をまっすぐに立て、固定した状態で耳介の上部をつまみ、手首を使わず、ひじを前に出すようにして腕を後頭部に押しつけます。
耳は、自律神経の調節や気圧センサーの役割もしているため、耳周辺をゆるめることは自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)の乱れや気候によるめまいや頭痛、だるさなどにも効果が期待できます。

❶右手を頭の後ろから回し、左耳をつかんでひじを前に出し、前腕を後頭部に押しつける。そうすると耳介が後方に引っ張られ、耳介とその周囲の筋肉の緊張がゆるむ

❷腕に力を入れ過ぎず、軽くひじを前方に出すようにする。その状態で3秒間静止してから力を抜く。反対側も同様に行う。なお、この体勢がきつい人は、時間を短めにする
メニエール病による回転性のめまいも改善
ここで、耳体操で効果を得た人のお話を紹介しましょう。
50代女性のAさんは、20年以上続く自律神経失調症で、首・肩の強いこりを訴えていました。不調は日によって異なり、ときどき耳鳴りも生じていたとのこと。そこで、施術とあわせて耳体操を自宅で行ってもらいました。すると、1ヵ月ほどで首や肩がらくになり、耳鳴りも気にならなくなったそうです。
40代女性のBさんは、メニエール病を患っており、毎年春には強い回転性のめまいとふらつきに悩まされていました。しかし施術とあわせて耳体操を続けてもらったところ、1年後の春には、症状は出ませんでした。
Bさんはストレートネック(首の頸椎部分がまっすぐになった状態)で、Aさんと同様、首・肩がひどくこっていました。お2人の症状の改善は、耳周辺の筋膜がゆるんで首・肩のこりが消えたことと関係があるのでしょう。
コロナ禍の今は、慣れない在宅勤務やネット会議などで首や肩がこりがち。私の患者さんにも、イヤホンの使用で聞こえづらさや耳の詰まり感などが生じた人がいました。マスクのひもによる圧迫感から、耳周辺の筋膜が緊張して不定愁訴が生じた人もいます。
耳の不調以外にも「何となく体がだるい」「やる気が出ない」という人は、もしかしたら耳周辺の筋膜が緊張で硬くなっているのかもしれません。ぜひ、耳体操を習慣にして、不調を解消してください。

この記事は『安心』2022年5月号に掲載されています。
www.makino-g.jp