解説者のプロフィール

坂田英明(さかた・ひであき)
川越耳科学クリニック院長。1988年埼玉医科大学卒業。1991年帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手。ドイツ・マグデブルグ大学耳鼻咽喉科研究員、埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科副部長、目白大学保健医療学部言語聴覚学科教授、目白大学耳科学研究所クリニック院長を経て、2015年に川越耳科学クリニックを開設。埼玉医科大学客員教授、昭和女子大学客員教授、日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本耳科学会代議員、日本小児耳鼻咽喉科学会評議員、日本聴覚医学会代議員。著書に『あきらめないで! 耳鳴りは1分でよくなる』『フワフワするめまいは食事でよくなる』(ともにマキノ出版)がある。川越耳科学クリニック:http://www.jikagaku.jp/index.php
「腸内時計」をリセットして体温のリズムを調整
[別記事:耳鳴りの8割は根気よく治療を続ければコントロールできる→]
原因がわからない慢性の耳鳴り・難聴には、生活習慣が関わっているので、セルフケアなしでは改善しないとも言えます。
そこでやっていただきたいのが、「ハチミツレモン水を使った水療法」。これは、1日3回、朝・昼・夜に水分をとり、「腸内時計」のリズムを整えるというものです。
人の体には、体内時計という24時間の周期で生体リズムを整える機能があります。例えば体温は、深夜が一番低く、そこから徐々に上がって昼過ぎにピークに達し、夜に向かって低下していきます。
耳鳴りのある人はほとんど、体温のピークが来なかったり、バラバラだったりします。これは自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)が乱れているからです。
こういう時、腸を刺激すると体内時計を整えることができるので、私はこれを「腸内時計」と呼んでいます。
体温と一緒に動くのが、「やる気ホルモン」と呼ばれるコルチゾールです。副腎皮質ホルモンの一つで、強いストレスにさらされると、副腎からコルチゾールが分泌され、交感神経(心拍数や血圧を上げるなど全身の活動力を高める神経)が緊張します。それによってやる気が出てくるのですが、その状態が続くと副腎が疲れ、コルチゾールも分泌されなくなります。
水療法は、腸内時計をリセットして自律神経の乱れを整え、体温やコルチゾールの日内変動を正常にするものです。
ハチミツレモン水を使った水療法
それでは、水療法のやり方を説明しましょう。
①朝起きたら(午前7~8時)、コップ1杯の温かめの白湯(37℃くらい)を飲む。
腸を温めて深部体温を上げ、同時に腸を起こし、コルチゾールの分泌を促します。
②午後3時のおやつの時間に、常温の「ハチミツレモン水」をコップ1杯飲む。
体温とコルチゾールは、昼過ぎをピークに、徐々に低下していきます。そこで、夕方に向けてもう一度スイッチを入れるために、ハチミツレモン水で糖分とビタミン類を補給します。
ハチミツに多いビタミンB群は細胞内の代謝を助けるほか、血行促進、疲労回復効果があります。とりわけナイアシンは毛細血管の血流をよくするので、内耳の微細な血流を促します。

ハチミツレモン水の作り方
材料(2~3日分)
・レモン汁1個分
・ハチミツ大さじ3~4
・ミネラルウォーター1L
レモンの果汁を搾り、全ての材料を混ぜる。
冷蔵庫で3日保存できる。
※ガラス製の瓶で保存すること。
③寝る前に、コップ1杯の冷たい水を飲む。
体温が十分に下がらないと、よい眠りを得られないので、深部体温を下げるために、寝る前に冷たい水を飲みます。
水を飲むタイミングで、1日3回、体温も測ってください。2週間くらい続けると、体温の波型が変わってきて、山型を描くようになります。
私たちが調べたところ、コルチゾールの分泌リズムも体温と同じように変動し、山型を示します。そのため、水療法の水の温度を、朝はぬるめ(37℃くらい)、昼は常温、夜は冷たい水としているのです。
あごのマッサージで筋肉の緊張をほぐす
水療法と並行してやっていただきたいのが、あごの辺りのマッサージです。耳鳴りや難聴のある人の多くは顎関節に問題があり、動かすとカクカクしたり、食いしばりがあって、周辺の筋肉が緊張したりしています。
そこで、咀嚼筋(咬筋と側頭筋)をマッサージします。
あごを上下に動かすと、耳の前にある骨が動きます。ここが顎関節で、そこから頬にかかる筋肉が咬筋、耳の上に扇型に広がる筋肉が側頭筋です。それぞれに手の指を当てて、ゆっくり行います(下図参照)。

人差し指と中指を左右の咬筋に置き、軽い力で、500円玉くらいの大きさの円を描くように10回動かす。その後、反対回りに10回動かす。これが1セットで、朝と晩に1セットずつ行うといい。

親指以外の4本指を左右の側頭筋に置き、軽い力で、1円玉くらいの大きさの円を描くようにして10回動かす。その後、反対回りに10回動かす。これが1セットで、朝と晩に1セットずつ行うといい。
また、夜は音楽を聴くといいでしょう。耳鳴りは静かなときに起こりますから、夜寝る前に小さく音楽をかけます。選曲は、自分の好きなもので構いません。
音楽に耳を傾けることで、耳鳴りから意識をそらすことができます。音楽が自動的に切れるようにしておけば、そのまま眠りにつけます。ただし、ヘッドホンやイヤホンで聴くのは、厳禁です。
まずは2週間を目安に、こうしたセルフケアを行ってください。耳鳴りが徐々に気にならなくなってきます。患者さんの中には、これらを実践し、2週間後に薬が不要になった人もいます。

この記事は『安心』2022年5月号に掲載されています。
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