解説者のプロフィール

横田有里恵(よこた・ゆりえ)
1964年生まれ。大妻女子大学短期大学部インテリアデザイン科卒業後、高山美容専門学校へ。2013年、東京都世田谷区に現在の美容院をオープン。主に中高年層に向けたカットやパーマを行う他、「頭部リンパほぐし」をはじめとする髪を本質から若返らせるケアも行う。
YouTubeチャンネル▶「美髪堂」
健やかな髪の成長を促すセルフケア
「頭のリンパ流し」を紹介
動画視聴者からも白髪が減ったと大反響
「薄毛や白髪が目立ってきた」「髪のうねりやハネ、パサつきが気になる」……。そんな髪のトラブルでお悩みの人は「頭のリンパ流し」をお試しください。
頭のリンパ流しは、頭のリンパや血液の流れをよくして健やかな髪の成長を促すセルフケアです。これをYouTubeで紹介したところ、2022年3月時点で、189万回以上再生されました。
リンパとは、毛細血管からにじみ出る液体のことで、体内の老廃物や毒素、余分な水分などを運び出し排泄する役割を担っています。
しかし、心臓から送り出される血液と異なり、リンパには流れを促すポンプがありません。その代わりに、リンパ管の周囲にある筋肉の運動と呼吸によって流れています。
頭部にも筋肉はありますが、他の部位の筋肉と違い、動かす機会がほとんどありません。その上、自分の意思で動かすことも困難です。
つまり、頭部はもともと老廃物が滞りやすい場所だといえます。老廃物が滞ると髪を作る毛母細胞がうまく働かず、健康な髪が育ちません。
頭のリンパ流しは、頭部の筋肉をもみほぐすことで頭皮下のリンパの流れをよくして、老廃物を出しやすくする方法です。さらに、マッサージの効果で血流も改善するため、毛母細胞に必要な酸素や栄養を十分に送る効果が期待できます。
頭のリンパ流しの効果は、私自身も体感しました。私はもともと髪の毛が細くて柔らかい、いわゆる「ネコッ毛」でした。そのせいか、30~40代の頃には髪のボリュームが一気にダウン。髪がペタンコになるのが嫌だったので、毎月根元にパーマをかけていました。
しかし、57歳の今は、当時よりも髪にコシやハリが出て、以前のように手をかけなくても気になりません。雨の日でも髪型は崩れにくく、白髪染めも必要ないのです。
このセルフケアを考案したきっかけは、7年ほど前にさかのぼります。お客さまから「頭にもリンパは流れているの?」という質問を受けた際、自分でも気になって調べたことが始まりでした。
そして、群馬県前橋市で「頭部リンパほぐし矯正」を施術する、根岸政未先生の元に行きつきました。根岸先生に師事して身につけたこの方法に、頭蓋骨マッサージなどの技法を組み合わせていくうちに完成したものが、私の美容院で行っている「頭部リンパほぐし」です。
頭のリンパ流しは、自分で頭皮をほぐす方法として、お客さまに指導したり、YouTubeで紹介したりしています。すると、実際にこのセルフケアを行った人たちから「髪質が改善した」「白髪が減った」「毛の量が増えた」などの反響をいただくことになったのです。

頭皮下の老廃物が薄毛、抜け毛の原因に
しこりのある箇所が薄毛や白髪になりやすい
実は、私自身にも、最近になって頭のリンパ流しの効果を再確認した出来事がありました。
2020年の4月に、私は憩室出血(大腸憩室の粘膜にある動脈から突然大量に出血する病気)で、二度入院することになりました。入院中はもちろん、退院後もいつ再発するかわからないので、しばらく髪に気を遣う余裕がない日々を過ごしていました。
そんなある日、お客さまに「髪を染めたの?」と尋ねられました。鏡を見ると、本来黒髪であるはずの色が茶色く見えるほどパサついていたのです。さらに、自然に抜けた髪を見たところ、入院以降に生えてきた髪が激しくうねっていました。
そこで、今まではときどき行う程度だった頭のリンパ流しを毎日行うようにしました。すると、髪質は徐々に改善し、その年の秋には入院前と同じように戻りました。今は以前より髪質がよくなったと感じています。
頭のリンパ流しのやり方は、下項をご覧ください。ポイントは、頭頂部・ハチ(頭頂部と側頭部の間の出っ張り)・耳の周辺・側頭部・襟足の上を重点的にもみほぐすことです。
頭蓋骨は、23片の骨から構成されており、骨と骨のつなぎ目(頭蓋骨縫合)の周辺には老廃物がたまりやすい傾向があります。頭頂部、ハチ、耳の周辺、側頭部は、このつなぎ目がある箇所に当てはまります。
また、頭頂部は重力で引っ張られるため、他の部分と比べて皮膚も薄くなっており、リンパや血液の流れが滞りがちになってしまいます。さらに、襟足の上はリンパの出口で、やはり老廃物がたまりがち。そのため、こういったところを特に重視する必要があるのです。
まずは、ご自分の頭皮全体を指の腹で触れて確認してください。へこみやむくんだような膨らみ、ゴリゴリとしたしこり、押したり動かしたりすると痛い、動かせない、などの違和感がある箇所に、老廃物がたまっていると考えられます。薄毛や白髪、ハネなども、同じ場所に集中しているはずです。
頭のリンパ流しは、1日1回を目安に行ってください。1~2ヵ月ほど続ければ、髪のツヤや根元の立ち上がり、指通りなどの変化が実感できるでしょう。さらに半年~1年続ければ、薄毛や白髪、髪のうねりなどの改善が期待できるはずです。
頭のリンパ流しのやり方
●まずは1日1回を習慣にする。
●前頭部や側頭部、頭頂部付近はデリケートな箇所なので、こぶしを使わず指でもみほぐす。
●痛気持ちいいと感じる力加減で行う。過度に痛みを感じるほど力を入れるのは禁物。
●髪の上からではなく、頭皮を直接触るようにしてもみほぐす。
基本のやり方
前頭部、側頭部、後頭部の3ブロックを、下のようにもみほぐす。
前頭部
❶テーブルにひじを置き、生え際の頭皮に親指以外の4本の指を置く。
❷指を左右に20回、上下に20回動かして、頭皮をもみほぐす。
❸指の位置を1cmほど上にずらし、②を行う。
➍②~③を頭頂部までくり返す。


側頭部
❶テーブルにひじを置き、耳のすぐ上の頭皮に親指以外の4本の指を置く。
❷後ろから前に向かって円を描くように、指を10回動かす。その後、反対周りに指を10回動かす。
❸指の位置を1cmほど上にずらし、②を行う。
➍②~③を頭頂部までくり返す。


後頭部
❶襟足の生え際から指3本分ほど上がったところ(頭蓋骨の上)の頭皮に、こぶしの第2関節を置く。
❷後ろから前に向かって円を描くように、指を10回動かす。その後、反対周りに指を10回動かす。
❸指の位置を1cmほど上にずらし、②を行う。
➍②~③を頭頂部までくり返す。



途中で腕が疲れてくる人は、寝ながらやるのがお勧め!
忙しいときは・・・
下記に該当する部分を、集中的に各5回ずつもみほぐす。

︎白髪の生え際

いつも髪がハネたり、クセがついたりする箇所の生え際

頭皮を触ったとき、ゴリゴリとしたしこりや痛みなどの違和感がある部分

薄毛が目立つ箇所の生え際

頭皮にへこみやむくんだような膨らみがある部分

頭皮が固まって動かない部分
さらに効果がアップする「ながらケア」
❶気がついたときに、つむじを押す。
〈例〉歯を磨いているとき、テレビやパソコンを見ているときなど

❷刺激が感じられるほどの力加減で、毛の流れとは逆に髪を引っ張る。1分ほどキープする。

頭のリンパ流しQ&A
Q. どのくらい続ければ効果が現れますか?
A. 薄毛や白髪の改善には、半年~1年ほどを見込んでください。
「頭のリンパ流し」を実践しているお客さまの髪の状態を見ていると、髪のツヤや根元の立ち上がり、ヘアスタイルの収まりやすさ、指通りなどの変化は、1~2ヵ月ほどで実感できる人が多いようです。人によっては、頭のリンパ流しを行った直後から、こうした変化を感じる人もいます。
ただし、薄毛や白髪、髪のうねりなどの改善に関しては、ある程度時間がかかります。これらの原因の多くは、今までの生活習慣やストレスなどによって受けた、頭皮へのダメージだからです。変化が現れるタイミングは年齢や体質によって異なりますが、基本的には、半年~1年ほどはかかると思っていいでしょう。
Q. どのタイミングで行えばいいですか?
A. 基本的に、いつでも構いません。
頭のリンパ流しを行う時間に決まりはありません。朝の家事や仕事を終えて一息ついたタイミングや、お昼のリラックスタイムなど、自分が行いやすいときに行うとよいでしょう。
お勧めは、寝る前に布団の中に入って行うこと。寝ながら頭皮をマッサージすることで、もんでいる腕も疲れにくい上、心地よい刺激により自然と寝付けます。頭のリンパ流しには不眠の改善も期待できるので、眠るまでに時間がかかる人や、夜に何度も目が覚める人には、特にお勧めです。
最も大事なのは、少しずつでも毎日続けること。自分の負担にならない範囲で、気軽に長く行えるのが理想です。
Q. 効果をより高める方法はありますか?
A. まずは、目で特徴がわかる部分を重点的にほぐしましょう。
普段の生活で、意識して頭を触ることはあまりないと思います。そのような人が、急に頭皮を触ってほぐす箇所を見つけようとするのは難しいかもしれません。
そんなときにお勧めしているのが、白髪や抜け毛が多い部分や、いつも髪にクセがつく部分の生え際を重点的にもみほぐすことです。こうした特徴があるところには老廃物がたまっていて、必要な栄養が行き届いておらず、目に見える形で現れています。逆に言えば、前述の特徴がある部分の頭皮は、ほぼ例外なくこり固まっていたり、押すと痛みを感じたりします。
他にも、生活環境によってこり固まりやすい部分もあります。例えば、普段から目を酷使している人は、耳の上辺りにゴリゴリとしたしこりがあることがほとんどです。こうした特徴も、参考にしてください。
Q. マッサージの最中に髪が抜けてしまいました。
A. 自然脱毛なので大丈夫です。
髪の毛は、通常の人でも1日に50~100本抜けるといわれています。私たちの髪の毛は、抜けたり生えたりをくり返しているからです。
頭のリンパ流しで髪が抜けたように感じるのは、頭を触ることで、元々抜けていた、もしくは抜けるはずだった髪が指についてくるからです。毛根は非常に丈夫なので、少しの力では髪は簡単に抜けません。
ただし、髪を引っ張り過ぎている場合などは、強制的に髪を抜いてしまっている可能性があります。違いを見分けるには、①髪を引っこ抜いたような痛みの有無、②抜けた髪の根元がマッチ棒のようになっているか(毛根があるか)がポイントです。
もし、髪を抜いたような痛みを感じた、毛根がマッチ棒のように付いていないなどがあれば、力加減を調整してください。

抜けた髪に丸部分の毛根があれば、自然に抜けた髪!
髪トラブルの予防や改善に役立つ生活習慣
布団の中で頭のリンパ流しを行うのも効果的
東洋医学で髪を「血余(けつよ)」と呼ぶように、髪は体内の血液に余裕がある状態で作られます。私はこれを、心身が健康な状態のときに、余った力で髪が育つという意味だと考えています。
つまり、いくら「頭のリンパ流し」を行っても、心身の健康状態が乱れていたら、効果が軽減してしまうのです。ここでは髪トラブルの予防や改善に役立つ生活習慣を紹介しましょう。
①栄養バランスのよい食事
頭蓋骨が守っている脳は、大量の栄養を必要とする大食漢です。ストレスがたまったり、考える機会が増えたりすれば、より多くの栄養を消費します。
それにもかかわらず、栄養バランスが偏った食事をしていたら、毛母細胞(髪の毛の元になる細胞)に運ばれる栄養が減り健やかな髪が育ちません。
髪に栄養を届けるためには、髪を作る材料となるたんぱく質を中心に、さまざまな食材をバランスよくとるのが重要です。
②質のよい睡眠
髪の成長に関わる成長ホルモンは、睡眠中に多く分泌されるといわれています。
質のよい睡眠をとる方法としてお勧めなのが、夜に頭のリンパ流しを行うこと。頭皮への心地よい刺激により、脳の疲労や緊張が取れて、気持ちよく眠れます。寝る前に布団の中で行えば、もんでいる腕も疲れませんし、リラックスしてすぐに眠りにつくことができます。
③適度な運動と冷えの予防
毛母細胞に必要な酸素や栄養を送るには、血行をよくすることも必要です。そのためには適度な運動習慣と、体の冷えの予防が大事になってきます。
軽いウォーキングを日常的に行えば、体が温まるだけでなくストレス解消にも役立ちます。心の負担も頭皮環境を悪化させる原因になるので、心身の健康維持のためにも、無理のない範囲で取り入れてみてください。
洗髪のポイントは「減シャン」
皮脂の落とし過ぎが脂っぽい髪の原因に!?
上記の生活習慣に加え、洗髪にも注意が必要です。
実は近年、若い女性の薄毛や白髪が増えています。これはおそらく、リンスやトリートメント、コンディショナーなどの使い過ぎにより、頭皮にダメージがたまっていることが原因だと考えられます。
これらの商品に使われる「カチオン系界面活性剤(コーティング剤)」は、プラスの電気を帯びています。そのため、髪などのマイナスの電気を帯びる物質に強く吸着して、表面の性質(髪の場合は髪質)を変化させる特徴を持っています。
頭皮もマイナスの電気を帯びているため、カチオン系界面活性剤を含むリンスなどは、よくすすいでも残りがち。こうしたものを長期間使用すれば、当然頭皮もダメージを受けます。
カチオン系界面活性剤は、指通りをよくする目的で、シャンプーにも多く使われています。そのため、リンスなどの使用を極力避けると同時に、シャンプーの量や洗髪時間を短くする「減シャン」が重要です。
この洗髪法は、加齢とともに髪が細くなった人、白髪が増えた人に特にお勧めしています。その理由は、前述に加え、皮脂の落とし過ぎを防ぐことにもあります。
髪トラブルを抱える人の中には、「毛穴に詰まった皮脂を落とさないと薄毛になる」「頭皮の臭いやかゆみを防ぐために念入りに洗う」と考える人もいます。しかし、これは逆効果。皮脂は、落とし過ぎるとかえって皮脂腺が肥大し、分泌量が増えてしまいます。
皮脂は、外界からの異物の侵入を防ぐという重要な役割を担っています。毛根は血管のそばにあるため、万が一毛穴から細菌が侵入すると、血流に乗って全身に悪影響を及ぼします。それを防ぐために、皮脂が毛穴のふたとなっているのです。
そんな皮脂を過剰に落とすと、体は自身を守るために、優先的に皮脂を作り始めます。この結果、本来は毛母細胞や色素幹細胞(毛髪の色を作る細胞)に行くはずの栄養が皮脂腺に送られ、髪がやせ細ったり、白髪が増えたりする原因になってしまいます。
頭皮のかゆみや赤み、脂っぽいフケの多くも、皮脂の過剰分泌による頭皮の炎症が原因です。皮脂の分泌量が正常に戻ればこれらも改善するでしょう。
皮脂は、毛穴の中では液体で存在しており、実際に頭皮の汚れや臭いの原因になるのは、酸化した皮脂と汗です。こうした余分な皮脂や汗は、お湯だけでも十分落とせます。ただし、それまでの洗髪習慣で皮脂腺が肥大していると、お湯だけでの洗髪(湯シャン)ではベタつき感が消えません。
いきなり湯シャンに切り替えるのではなく、まずは減シャンから始めるとよいでしょう。数ヵ月続ければ、皮脂の分泌量は正常に戻るはずです。
減シャンのやり方
❶シャンプーの量を減らす
普段2プッシュしている人は1プッシュにするなどできる範囲で使用する量を減らす。
❷シャンプーの時間を短くする
15秒程度の洗髪でも皮脂や汗は十分取れる。不快にならない範囲で徐々に時間短縮を。ただし、洗髪の前後でのお湯洗いの時間は減らさず、各2~3分を目安に行う。
❸リンスやコンディショナーを極力使わない
人と会わない日はシャンプーのみにする、週数回に減らすなど、できる範囲で減らしていく。髪のきしみが気になる場合は、洗髪後に目の粗いくしで毛先をザッとすき、髪を乾かすとよい。
その他にも、育毛剤や発毛剤の使用にも注意が必要です。
これらの多くには「ミノキシジル」という成分が使われています。ミノキシジルは、もともと降圧薬(血圧を下げる薬)で、頭皮に使用すると毛細血管を開いて血流を改善し、育毛・発毛を促すといわれています。
しかし、長期間使用すると頭皮の毛細血管が傷み、かゆみや赤み、フケなどの頭皮トラブルにつながります。さらに、使用を中止したとたんに、抜け毛が増える場合もあります。
育毛剤・発毛剤に頼る前に、まずは生活習慣や洗髪の見直しをして、頭皮環境を改善するとよいでしょう。

この記事は『安心』2022年5月号に掲載されています。
www.makino-g.jp