解説者のプロフィール

青江誠一郎(あおえ・せいいちろう)
大妻女子大学家政学部食物学科教授。1989年、千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。雪印乳業技術研究所を経て、2003年に大妻女子大学家政学部助教授に就任。07年より現職。日本食物繊維学会理事長。2010年、「大麦の食物繊維とメタボリックシンドローム予防に関する研究」で、同学会の学会賞を受賞。著書に『最強! 毒出しごはん』(河出書房新社)、監修書に『もち麦でやせる! 元気になる!』(主婦の友社)などがある。
食べ方を問わず効果が期待できる
私は、30年以上前から食物繊維の研究をしてきましたが、今ほど食物繊維が見直されている時代はないと思います。
その立役者ともいえるのが、「オートミール」。今、食物繊維が豊富な新しい食材として、広く受け入れられています。
オートミールが朝食の定番として根づいている欧米では、オートミールの健康効果も盛んに研究されています。その一つが、コレステロールに関するものです。オートミールの水溶性食物繊維がコレステロール値を下げることがわかっており、FDA(アメリカ食品医薬品局)もそれを認定しています。
しかし、欧米と日本では食習慣が異なり、オートミールの食べ方も違います。そこで私は、日本の食習慣でも同じ効果を期待できるか検証してみました。
コレステロール値が高めの47人に、オートミールがゆを1日60g(β‐グルカン2.1g含有)、12週間食べてもらい、対照群(非オートミールがゆを摂取)46人と比較しました。
すると、4週目に総コレステロール値と悪玉(LDL)コレステロール値が低下し、摂取期間を通して、対照群との間に有意な差(統計学的に意味のある差)がありました。善玉(HDL)コレステロール値には、変化がありませんでした。
オートミール摂取による総コレステロール値の変化

出典:栄養学雑誌 2006; 64, 77-86.
また、オートミールを使ったクッキーでも試したところ、同じような効果が得られました。つまり、食べ方を問わず、オートミールを普段の食生活にとり入れることで、コレステロール値の改善が期待できるのです。
この効果をもたらす成分は、水溶性食物繊維のβ‐グルカンです。オートミールには、不溶性食物繊維が6.2g、水溶性食物繊維が3.2g(100g当たり)含まれており、水溶性食物繊維のほとんどがβ‐グルカンです。
β‐グルカンは、脂肪の吸収を助ける胆汁酸をからめ取って排出します。胆汁酸は肝臓でコレステロールから作られますから、胆汁酸が排出されれば、その分、原料であるコレステロールが使われます。そのためコレステロール値が下がるのです。
また、β‐グルカンは、脂肪や糖質を吸着して排出する力も強く、血糖値の上昇を抑えたり、血中脂質を減らしたりする働きがあります。
朝食に食べると効果が1日中続く
食物繊維が注目されるようになった背景には、腸内細菌の存在があります。全身の健康、とりわけメタボリックシンドロームや免疫(病気に抵抗する働き)やアレルギーなどに、腸内細菌の働きが深く関わっていることがわかってきたのです。
食物繊維の中には、腸内細菌のエサになって、ビフィズス菌などの有用菌を増やすものがあります。これを「発酵性食物繊維」といいます。
今注目されているのは、この発酵性食物繊維で、水溶性食物繊維の大半がこれに含まれます。β‐グルカンも、もちろん発酵性食物繊維です。
この発酵性食物繊維が有用菌に分解されるとき、短鎖脂肪酸という有機酸が作られます。主なものは酢酸、プロピオン酸、酪酸で、大部分は大腸から吸収されて大腸のエネルギー源になります。また、一部は血流に乗って全身に運ばれ、糖や脂肪の代謝の改善などに関与します。
短鎖脂肪酸が増えると、さまざまな健康効果がもたらされます。例えば、糖尿病、肥満、脂質異常症、リーキーガット症候群(腸もれ)などの改善、免疫の正常化、慢性炎症の抑制、便秘や肌荒れの解消などが報告されています。
発酵性食物繊維は種類によって発酵速度が異なり、大腸の入り口で発酵するものもあれば、中ほどや奥で発酵するものもあります。β‐グルカンは腸の中ほどで発酵しますが、いろいろな種類の発酵性食物繊維をとれば、腸全体を活性化できます。
オートミールはいつ食べてもいいですが、腸内発酵は食後4〜5時間から始まり、18時間ほど続きますから、朝食に食べると、1日中効果が持続します。セカンドミール効果もあるので、昼食時の血糖値の上昇も抑えられます。
オートミールのよさは、主食に置き換えるだけで、たんぱく質やミネラル、ビタミンB群など、他の栄養もバランスよくとれることです。これに野菜、海藻、キノコなどの具材を加えれば、高齢者でも食べやすく、多種類の食物繊維をとることができます。
ちなみに私は、長年オートミールを食べているおかげか、体重は十数年前とほとんど変わらず、腸内細菌の検査でも「ビフィズス菌が多い」と言われました。1日1食でもいいですから、継続してとり続けることが健康につながっていきます。
[別記事:1杯で栄養たっぷり、おなか満足! レンチンですぐできる「オートミールスープ」レシピ→]

この記事は『安心』2022年5月号に掲載されています。
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