解説者のプロフィール

倉本弘樹(くらもと・ひろき)
倉本歯科医院院長。1981年、日本歯科大学卒業後、 歯科鈴木医院に勤務し、87年に倉本歯科医院を開院。日本歯科医師会所属。日本歯科先端技術研究所監事。(公社)日本口腔インプラント学会指導医・専門医・代議員。日本障害者歯科学会認定医。AAID(American Academy of Implant Dentistry)2nd Place Winner。「口腔は全て分野における健康増進の源」を方針とし地域医療に尽力。
▼倉本歯科医院
重曹がなぜ口腔ケアに役立つのか
口腔のアルカリ度を上げ悪玉菌の繁殖を防ぐ!
私が重曹に着目したのは、10年以上も前のことです。当時は学会発表などで、よくアメリカに滞在する機会がありました。
アメリカの練り歯磨きを使って何度も歯を磨くうちに、日本の商品とは、使い心地が違うことに気がつきました。口の中がスッキリして、爽快感があるのです。歯もきれいになります。違う歯磨きを使っても、同じように感じます。
商品を見るといずれにも〝ウィズ ベーキングソーダ〟つまり「重曹入り」と書かれていました。当時の日本では、重曹入り歯磨きはまだ一般的ではなかったので、印象に残りました。そこから、重曹を口腔内の衛生ケアに活用し、患者さんにも勧めるようになったのです。
では、重曹がなぜ、口腔ケアに役立つのでしょうか。
重曹は、化学的には炭酸水素ナトリウムといいます。昔から食品添加物として使われている人体に安全な物質です。
㏗(ピーエイチ/ペーハー)という言葉を聞いたことがあるでしょう。0から14までの数値で、酸性かアルカリ性かを示す指標です。㏗7が中性で、それより小さければ酸性、大きければアルカリ性。重曹の㏗は8.2程度ですから、弱アルカリ性というわけです。
さて、口腔内には、歯周病菌や虫歯菌などの悪玉菌を含め、100~300種類もの細菌が存在しています。
通常であれば、口腔内は中性に保たれています。けれども物を食べたり飲んだりすると、酸が発生。そして悪玉菌は、㏗が6.6以下になると勢いを増して繁殖します。
歯周病や虫歯を予防・改善するには、口腔内の㏗を上げることが肝心なのです。
おすすめは「重曹歯磨き」と「重曹うがい」
歯茎が引き締まって歯肉は健康的なピンク色
そこで、重曹の出番です。
重曹は先述のとおり弱アルカリ性ですから、酸性になった口腔内を中和するのに最適。悪玉菌の増殖を抑制します。しかも安全で安価なので、毎日継続して使えます。
私は患者さんに、「重曹歯磨き」と「重曹うがい」の、2つの方法を勧めています(やり方は下項を参照)。
重曹で歯磨きといっても、重曹の粉を歯ブラシにつけ、そのまま磨くわけではありません。
まず歯ブラシにサッと重曹を振りかけ、その上から練り歯磨きをつけるのがポイント。それで普通に歯を磨きます。
この手順で行えば、重曹の研磨力で歯の表面を傷つけることがありません。重曹の作用で口腔内の㏗値が上がるので、普通の歯磨きをパワーアップさせる方法といえるでしょう。
重曹うがいは、マウスウォッシュ(洗口剤)のような位置づけです。重曹水を口に含むと、酸と反応して炭酸ガスが発生。歯の表面の汚れや着色を浮かせて、取りやすくします。
「重曹うがいをしたら歯磨きをしなくてよい」ということにはなりませんが、重曹うがいをしてから普通の歯磨きをすれば、重曹歯磨きと同様の効果が得られます。仕上げにまた、重曹うがいをすることで、細菌の繁殖しにくい環境を維持できます。
就寝前に行うのも、お勧めです。就寝中は口腔内に酸が発生しやすく、酸性に傾きがちだからです。また、口の中がねばつく起床時や、口臭が気になるときに行うのも効果的です。
酸により、口腔内の㏗が5.5まで下がると、歯の表面のエナメル質からミネラルが溶け出し始めます。この状態が長く続くと、虫歯が進行します。
通常なら、唾液の中和作用により、ミネラルは自然にエナメル質に戻ります。これを「再石灰化」といいます。重曹歯磨きや重曹うがいは、歯の再石灰化がスムーズに行われるよう、手助けしてくれるのです。
重曹歯磨きや重曹うがいを、2~3ヵ月も続ければ、口腔内細菌叢(口腔内に棲む細菌の生態系)に変化が現れるでしょう。歯の表面が白くきれいになり、歯肉が炎症を起こしていた人は、状態がよくなります。
重曹が口腔ケアに効く!
◎歯周病・虫歯 ◎歯の汚れ ◎歯の着色 ◎口臭 ◎口の中のねばつき

歯肉炎が悪化すると歯周病になるので、歯肉をいい状態に保つことはとても重要です。
実際、続けているかたは皆さん、歯茎が引き締まり、歯肉は健康的なピンク色です。もちろん、定期的にメンテナンスにいらしているからこそわかるのですが、重曹歯磨きも重曹うがいも、患者さんに好評です。
40代の女性患者さんは、起床時に口の中がネバネバするのを気にしていましたが、重曹歯磨きを実践するようになったところ、起き抜けでも口の中がさわやかなのだそう。朝、目覚めるのが楽しくなり、歯の表面もツルツルになったと喜んでいらっしゃいました。
口腔ケアは、歯磨きとデンタルフロスによるお手入れが基本ですが、ぜひそこに重曹をプラスしてください。一度試せば、きっと続けたくなるはずです。
重曹歯磨きのやり方
◎毎日、朝晩2回(高血圧などで塩分制限のある人は1回)行う。
◎重曹だけをつけて磨くと歯の表面を傷つけるおそれがあるので、必ず練り歯磨きもつけて行う。
◎歯の上下裏表をそれぞれ4分ずつ、計4分かけて磨くと理想的。

❶重曹を少量、歯ブラシに振りかける。

❷重曹の上から、練り歯磨きをつける。

❸普通に歯を磨き、口の中をよくすすぐ。

重曹はドレッシング用の容器などに入れ、洗面所に置いておくと便利。
重曹うがいのやり方
◎上を向くガラガラうがいではなく、ほおの筋肉を使い、クチュクチュとうがいをする。重曹水を勢いよく歯間に通すイメージで行う。
◎普通に歯磨きをする前後に重曹うがいを行うと、重曹歯磨きと同様の効果が得られる。
◎起床後、就寝前、口臭が気になるときなどに行うのもお勧め。

【準備】
ペットボトルなどの容器に水道水500mlと重曹小さじ1を入れ、よく振り混ぜる。洗面所に置いておくと便利。2~3日で使い切る(夏場は冷蔵庫で保存)。

右の重曹水を少量コップに移し、口に含み、30秒~数分かけてうがいをする。うがい後はそのままでOK(真水ですすがない)。

この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。
www.makino-g.jp