人間には体の基本的な機能が約24時間周期のリズムを刻む「体内時計」が備わっています。めまい患者さんの多くは、体温の変動リズムや、副腎皮質ホルモンの分泌リズムがくずれています。その乱れは自律神経のバランスがくずれていることも意味するのです。まずは寝起きの体を温めるため、起床したらコップ1杯の白湯を飲みましょう。【解説】坂田英明(川越耳科学クリニック院長・埼玉医科大学客員教授)

解説者のプロフィール

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坂田英明(さかた・ひであき)

川越耳科学クリニック院長・埼玉医科大学客員教授。埼玉医科大学卒業後、帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手を務める。ドイツ・マグデブルグ大学耳鼻咽喉科研究員、目白大学保健医療学部言語聴覚学科教授を経て、2015年、川越耳科学クリニックを開院。『フワフワするめまいは食事でよくなる』(マキノ出版)など、著書多数。YouTubeチャンネル「めまいにさよなら」で情報発信中。
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めまいや耳鳴りを改善する食事療法

起き抜けの1杯の白湯で体温リズムを整える

当院では、めまいや耳鳴りの改善に食事療法も勧めています。目的は、自律神経のバランスを整えることにあります。

人間には体温やホルモンの分泌といった、体の基本的な機能が約24時間周期のリズムを刻む「体内時計」が備わっています。この体内時計のリズムによって、人間の体温は朝の起床直後から徐々に上昇し、午後2時ごろにピークに達したあと徐々に低下して、睡眠時に最も低くなるよう設定されています。

ところがめまい患者さんの多くは、体温の変動リズムに異常が見られます。体温が一日中低いままだったり、体温が上昇・下降する時間がずれていたりするのです。

人間の体は、起床後から交感神経の働きが徐々に高まり、体温や血圧が上がって、日中、活発に活動できる状態になります。そして夕方以降は副交感神経が優位になり、体温が下がって休息モードになります。

つまり、体温の変動リズムの乱れは自律神経のバランスがくずれていることも意味するのです。

そこで、まずは寝起きの体を温めるため、起床したらコップ1杯の白湯を飲みましょう。白湯は、沸かした湯を常温に置いて、37度前後の人肌になるまで冷ました物を飲みます。

人間の体内時計の本体は脳の視床下部の視交叉上核という場所にありますが、ほぼすべての臓器にも体内時計があります。胃腸、特に小腸の腸内時計は、飲食物が入ってきた刺激で朝の時刻合わせが行われます。

起き抜けに白湯を飲むのは、体温を上げると同時に副腎皮質ホルモンの分泌を促す意味があります。副腎皮質ホルモンは、人間が活動するうえで欠かすことのできないホルモンです。副腎皮質ホルモンの分泌量が低下すると、無気力や不眠、頭痛といった症状を引き起こします。

このホルモンは食事の刺激により、腸内時計の周期に同調して分泌されています。分泌のリズムが体温の変動とも連動しているのです。

めまい患者さんは、体温同様、副腎皮質ホルモンの分泌リズムがくずれていることも考えられます。

起き抜けの白湯を2週間ほど続ければ、分泌リズムが徐々に正常化します。体温と同じように午後2時ごろに分泌のピークに達し、夜に向けて徐々に低下していくでしょう。

これらによって、緊張時に優位になる交感神経と、リラックス時に優位になる副交感神経のバランスが整うようになります。そして、めまいの改善へと導かれるのです。

朝食で体を温め夕食で体を冷やす

体温や副腎皮質ホルモンをコントロールするには、朝食や夕食の食材にも着目しましょう。

朝食には「体を温める食材」をとります。具体的な食材は下記をご参照ください。ご飯にみそ汁、焼き魚、納豆、漬物といった和食も適しています。

朝食に適した体を温める食材
【根菜類】ゴボウ・ニンジン・ショウガ・ヤマイモなど
【寒い地方で育った食材】サケ・イクラなど
【発酵食品】納豆・みそ・ぬか漬けなど
【香辛料】山椒・シナモン・八角など
※上記に加えて、活動するためのエネルギー源となる炭水化物やたんぱく質、塩分を適度にとるように心がける。

昼食は軽めにすることがポイントです。食べ過ぎて食後に眠気を覚えるようなときは、副交感神経が優位になっています。これでは午後2時ごろに体温と副腎皮質ホルモン分泌のピークが来なくなります。

食事量の目安は、糖質80~100gくらい。これは、ご飯であれば茶わん1杯から1杯半、麺類の場合は1人前くらいです。午後2時過ぎごろには、抗酸化作用のあるハチミツレモン水などを常温でコップ1杯とるのがお勧めです。

夕食では、寝る直前に体温が最も低くなるように、「体を冷やす食材」をとります。寝る直前に食べると安眠の妨げになるので、夕食は就寝の3時間前までに食べ終えてください。さらに寝る前にコップ1杯の冷たい水を飲み、一日を終えます。

夕食に適した体を冷やす食材
【葉菜類】キャベツ・レタス・白菜・ホウレンソウなど
【そのほかの野菜】トマト・キュウリ・ダイコンなど
【暑い地方でとれた食材】スイカ・バナナ・パイナップルなどの果物
【グリシンの豊富な食材】エビ ・カニ ・ホタテなどの甲殻類
※ グリシン……アミノ酸の一種で、体を冷やす作用がある。

当院では、このような食事指導を行う患者さんたちに体温記録表を渡し、自宅で朝昼晩の1日3回、体温を測って記録してもらっています。その結果、多くの患者さんの体温の変動リズムが正常化しています。めまいや耳鳴りで悩んでいるかたは、体温や食材にもぜひ目を向けてください。

画像: この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。

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