BPPV(良性発作性頭位めまい症)に対し、エプリー法はすぐれた治療法ですが、耳石がどちら側の三半規管に入り込んでいるかを自己判断するのは至難の業です。BPPVと思われるめまいを初めて発症した際は、めまい専門医を受診してエプリー法などを行ったほうがいいかご相談ください。【解説】松村将司(杏林大学保健学部理学療法学科講師・理学療法士)

解説者のプロフィール

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松村将司(まつむら・まさし)

杏林大学保健学部理学療法学科講師・理学療法士。2015年、首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法科学域博士後期課程修了。06年、医療法人社団瑞幸会千川篠田整形外科、14年、医療法人社団SEASONS東京リウマチ・膝関節治療センター自由が丘整形外科などの勤務を経て、15年に杏林大学保健学部理学療法学科助教、17年に同学内講師、20年より現職。めまいに関する論文執筆や学会発表も精力的に行っている。

BPPV(良性発作性頭位めまい症)を30歳で発症

世界がグルグル回って吐き気もひどかった

私がめまいや前庭分野に興味を持つようになったのは、30歳のときにめまいで倒れたのがきっかけでした。私が発症したのはBPPV(良性発作性頭位めまい症)でした。

当時は理学療法士として夕方まで働き、夜は大学院に通うというかなりきつい生活でした。そんなある日、後ろから呼ばれて振り向いた瞬間、グルグルと目の前が回り出しました。「これはまずい」と思っているうちに吐き気がこみあげて、嘔吐してしまいました。

すぐ耳鼻科で聴力検査などを受けたものの原因は不明。その後、大学病院へ行きMRI(核磁気共鳴画像法)検査を受けたら、脳に原因があるような状況ではないことが判明しました。しかし体で何が起こっているかは、やはりわからなかったのです。

そのときは点滴治療を受けました。1時間ほど経ったころに起き上がってみましたが、まだ頭はグラグラして目が回ったまま。入院を勧められましたが、妻が出産直後だったのでタクシーでどうにか帰宅しました。以後はほとんど動けず、服薬しながら寝込みました。

2週間経つと、めまいはだいぶ落ち着いてきました。再診で医師にそれを告げると、「BPPVかもしれませんね」とのことでした。あとあと考えると、自然軽快するといわれている期間も当てはまっているので、やはりそうだったと思います。

それから1年後、まためまいが再発しました。今度は深夜にパソコンに向かっていたら、突然、世界がグルグルと回り出したのです。吐き気もひどく、乗り物酔いが急に襲ってきたようでした。

エプリー法でめまいが徐々に落ち着いた

しかし、最初にめまいを発症してからの1年、私はめまいについて勉強していました。BPPVについても、評価のしかたや治療法について学んでいたのです。深夜で自分で対応するしかない状況でしたから、自分自身で評価した結果、エプリー法(やり方は下項参照)が効きそうだとわかりました。

そこで必死の思いで試したところ、めまいは徐々に落ち着き就寝できました。そして翌日には自転車で通勤できるほど回復したのです。初回のめまいは2週間ほど寝込んだことを考えると、この短時間で回復できたのは大きいと思います。

エプリー法を行うとすぐに軽快するケースは多く見られます。私の体験のほか、学会報告した症例もご紹介しましょう。

BPPVと診断されたAさん(60代・男性)は投薬治療が行われていましたが、なかなか改善せず10日間寝たきりでした。そこで担当医と相談したうえ、Aさんにエプリー法を実施しました。

まず1セット行った結果、眼球の揺れ(眼振)やめまいが軽減。続けて3セット行ったところ、めまいはさらに軽減し、スムーズに起き上がれて、慎重ながらも100mほど歩けたのです。

このようにエプリー法はすぐれた治療法ですが、有効なのはBPPVだけです

さらに、適切に行わないと効果がないどころか首を傷めるおそれがあります。BPPVと思われるめまいを初めて発症した際は、自己判断でエプリー法は行わず、めまい専門医を受診してください。担当医の治療を受け、必要に応じてエプリー法などを行ったほうがいいかご相談ください。

日光に当たって周りを見回す散歩もお勧め

 
ここでエプリー法以外のめまいの予防、改善に役立つ方法を紹介します。

それは30分程度の散歩です。日光に当たると体内でビタミンDが生成されます。BPPVはビタミンDの低下が一因にあるので、予防が期待できます。

周りを見回すこともポイントです。首を動かすことで、耳の中の三半規管などにいい刺激を与えられます。

こうしたケアを私自身も行い、2回め以降はめまいを再発していません。しばらく残っていた後遺症のフラフラ感もなくなりました。めまいに悩んでいるかたはぜひお試しください。

めまいの原因を特定することがたいせつ

川越耳科学クリニック院長・埼玉医科大学客員教授 坂田英明

エプリー法は臨床現場でもよく行われる治療法です。しかしBPPVの原因、つまり耳石がどちら側の三半規管に入り込んでいるかを自己判断するのは至難の業です。原因を突き止めることが重要ですので、めまい発症時は、まず医療機関を受診しましょう。

[別記事:原因はストレス?それとも体の異常?耳鳴りとめまいの傾向と対策を専門医が解説→

エプリー法のやり方

画像1: エプリー法のやり方

あおむけになったとき、首付近が着く位置に枕を用意して座る。めまいの原因がある側へ顔を横に45度向ける(写真は右側に原因がある場合)。

画像2: エプリー法のやり方

首は①のまま、ゆっくり体を後ろに倒してあおむけになり、30秒キープ。頭は低くする。

画像3: エプリー法のやり方

①の反対側へ顔を横に45度向けて30秒キープ。

画像4: エプリー法のやり方

③の側へ体ごと真横に倒す。30秒キープしたあと、ゆっくり起き上がる。

画像: この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。

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