解説者のプロフィール

金谷康弘(かなや・やすひろ)
かなや整骨院院長。1961年生まれ。柔道整復師。学習塾講師、大学受験予備校講師を経て、関西医療学園専門学校卒業。90年大阪市に「かなや整骨院」を開院。自院での施術のほかに、広島市「ふじわら医院」でも定期的に施術を行う。一般社団法人「日本頭蓋仙骨療法協会」代表理事。
「▼かなや整骨院」
内耳の緊張や脳血流の悪化が原因に!
私が整骨院の施術に取り入れている「頭蓋仙骨療法」のひとつに、その場で簡単にでき、めまいに有効な手技があります。まずは頭蓋仙骨療法についてご説明しましょう。
私たちの頭蓋骨は23個のパーツから成り、それぞれの骨は呼吸によって少しずつ動いています。その動きがなんらかの理由で妨げられると、自律神経(意志とは無関係に働き、内臓や血管をコントロールする神経)のバランスが崩れ、体にさまざまな症状が現れます。
そこで頭蓋骨の緊張を緩めて本来の動きを取り戻し、自律神経のバランスを整えるというのが、頭蓋仙骨療法の考え方です。
めまいが起こる理由のひとつは、側頭骨の動きが悪くなり、すぐそばにある内耳に緊張が及んで平衡感覚が失われること。
そしてふたつめは、頭蓋骨と頸椎(首の骨)の間が緊張し、頸椎を通る血管が圧迫されて脳への血流が悪くなることです。
頭蓋骨はストレス、外傷、食べ物を噛むときの癖などによって、動きが悪くなります。また側頭骨には下顎骨がぶら下がっているので、アゴの問題によって、側頭骨の動きが制限されることもあります。
寝る前に行えばそのままぐっすり眠れる
いずれにしても、めまいを改善するには頭蓋骨、とりわけ側頭骨の緊張を緩めることが鍵になります。側頭骨の緊張が取れれば、平衡感覚をつかさどる内耳の緊張も緩みます。
側頭骨を緩めると、さらにそこに繋がる蝶形骨の緊張も取れます。蝶形骨は頭蓋骨の中心にある骨なので、そこが緩むと頭蓋骨全体が緩みます。最終的に頸椎の緊張も取れて、脳血流がよくなるというわけです。
以上から側頭骨を緩め、めまいを改善する方法としてお勧めなのが「耳つまみ」(やり方は下項参照)です。頭蓋仙骨療法では「Temporal Ear Pull」という名称で、直訳すると「耳引っ張り」。しかし、実際には「引っ張る」ほどの力はかけません。
実際の頭蓋仙骨療法では、便せん1枚の重さ、つまり5gの力で側頭骨を調整します。治療を受けている人にはほぼ手を当てられている感覚しかありません。強い力で耳を引っ張ると、本来動かしたい側頭骨ではなく耳自体を動かしてしまいます。
ですので、ポイントは力を入れて耳を引っ張るのではなく、ただつまむだけにすること。力を入れ過ぎたり長く行い過ぎたりすると、気分が悪くなることがあるので注意してください。
耳つまみはめまいの症状があるときに行ってもかまいませんし、1日1〜2回続ければ、しだいにめまいが起こりにくくなるでしょう。
耳つまみは特に、ストレス性のめまいや病院で調べても原因不明のめまい、むちうちの後遺症によるめまいなどに効果的です。耳や首の問題から起こっているめまいにも、補助療法として期待できます。
めまいと同じく、内耳や頸椎の緊張から起こっている耳鳴りにも、耳つまみは有効です。顎関節症など、アゴの症状がよくなるケースもあります。
ただし、脳内に病気がある人、半年以内に記憶に残るほど強く頭を打った人は行わないでください。脳疾患が疑われる場合はすぐ病院へ行くべきです。
耳つまみは緊張が解けるので、頭痛や肩こり、イライラ、不眠にもいいでしょう。寝る前に耳つまみを行えば、そのままぐっすり眠れます。ぜひお試しください。
耳つまみのやり方
※強く引っ張らない。
※1日1~2回行う。症状が現れたときに行ってもよい。
基本のやり方

❶イスに座り、テーブルや机に両ひじを着いて、親指と人差し指で左右の耳の穴のそばを、軽くつまむ。
❷耳の動きを感じながら、3分キープする。

●外出中など、ひじを着けられないときは、そのまま行ってもOK!
●就眠前、布団の中であおむけになって行うと、いつの間にか眠れるのでお勧め。
片側の調子が悪いとき
「基本のやり方」で、明らかに左右どちらかの耳の動きが悪かったり、ふだんからどちらかに不調を感じたりする場合は、以下を行う。

写真は右側の調子が悪い場合。
❶調子が悪いほうの耳の穴のそばを、同じ側の親指と人差し指で軽くつまむ。
❷①と同じ側の、ほほ骨が出っ張っている辺りに、反対側の人差し指と中指をそっと当てる。そのまま3分キープする。

この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。
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