解説者のプロフィール

佐藤裕道(さとう・ひろみち)
べっく・メディカル・クリニック/内科・脳神経内科医。1965年、静岡県生まれ。93年、信州大学医学部卒業。西洋医学に加え、漢方薬や栄養療法、サプリメントなどを駆使しながら、年間のべ700人を超えるめまい患者を診療している。日本神経学会認定神経内科専門医。日本内科学会認定医。日本東洋医学会会員。著書に『脳神経内科医が書いた誰も知らなかっためまいの治し方』(現代書林)がある。
▼べっく・メディカル・クリニック
めまい患者の側頭筋は厚い傾向にあると判明
皆さんは、自覚のない歯ぎしりや食いしばりがめまいの原因となることをご存じですか?
めまいのおよそ70%は、耳のいちばん奥にある内耳と関連しています。その内耳に悪影響を与える要因の一つが「ブラキシズム」(歯ぎしりや食いしばりの総称)です。
私がブラキシズムに注目したきっかけは、あるめまいの患者さんのCT(コンピューター断層撮影)画像でした。咀嚼にかかわる側頭筋が厚くなっていたのです。不自然に思い、「歯ぎしりはないですか?」と尋ねたところ、歯科でも同じことを指摘されていたそうです。
そこで、2000例以上のCT画像から側頭筋の厚みを計測して平均を出しました。そして、めまいの患者さんたちの側頭筋は、通常よりも厚い傾向にあることがわかったのです。

矢印が指す灰色の部分が側頭筋。めまいがある患者のCT画像(下)のほうが厚くなっている。
ブラキシズムでめまいが生じる原因は次の3つです。
❶咀嚼筋が血管を圧迫して血流障害が起こる
側頭筋などの「咀嚼筋」は内耳の周囲にあります。ブラキシズムで咀嚼筋が絶えず縮むと、厚く、かたくなります。筋肉の周りを通る静脈を圧迫し、血液を滞らせるのです。
❷首や頭部がむくむ
ブラキシズムは咀嚼筋だけでなく、首の両わきの胸鎖乳突筋も収縮させます。これらの筋肉がリンパ管を圧迫し、首や頭部のリンパ液が流れにくくなります。そして内耳にむくみが生じ、バランス機能に悪影響が及び、体がフワフワするように感じるめまいが生じやすくなります。
❸内耳に振動が伝わり耳石がはがれる
ブラキシズムはあごに強い力がかかり、内耳に振動が伝わります。内耳がむくんでいる状態に振動が加わると、浮き上がりやすくなった耳石がはがれ落ちると考えられます。めまいは耳鳴りを併発するケースが多く、これは①と②が関与しています。
たんぱく質や鉄分が不足しないように!
ブラキシズムは無自覚に行ってしまいがちです。特に睡眠中の歯ぎしりは、自分で気づけない人が多いでしょう。
これを予防するには、「夜間低血糖」を防ぐ食生活がたいせつです。
夜間低血糖は、寝る前に糖質の多い食事を取って血糖値が上がり、その後の睡眠中に血糖値が急減する状態を指します。
寝ている間に血糖値が急激に下がると、体は血糖値を上げようとしてアドレナリンやコルチゾールなどのホルモンを分泌します。すると、交感神経の活動が活発になり、歯ぎしりといった症状が現れるわけです。
夜間低血糖を防ぐためには、寝る3時間前に夕食を済ませしょう。また、カフェインは血糖値の乱高下の原因となります。不眠の原因にもなるので、緑茶やコーヒーは寝る6時間前から避けるべきです。
夕食はおかずを先に多めに食べて、ご飯などの糖質を最後に少量だけ食べるようにします。おかずは糖の吸収を緩やかにする食物繊維のほか、たんぱく質や鉄分を積極的に取り入れることをお勧めします。
たんぱく質が不足すると、不安感が強くなってめまいの治りが遅くなるおそれがあります。鉄分不足は、めまいや立ちくらみが出やすくなる「低フェチリン血症」を招きます。こうした栄養素が不足しないように注意しましょう。
このように食事に注意し、ストレスをためないことが、ブラキシズム、ひいてはめまいを改善するためにたいせつです。

ベジファーストで糖質の吸収を緩やかに!
睡眠時のブラキシズムを防ぐ食事法
●寝る3時間前に夕食を済ませる。
●寝る6時間前からカフェインの多い飲み物を飲まない(緑茶やコーヒーなど)。
●夕食はおかずを先に多めにとって、最後に少量の糖質(主食)をとる。
●おかずは食物繊維やたんぱく質、鉄分が多い食材がお勧め。

この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。
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