周囲がグルグルと回っているように感じる回転性めまいは、主に内耳の障害が原因で起こります。多い疾患は「良性発作性頭位めまい症」や「メニエール病」などです。体がフワフワするような浮動性めまいは、うつや不安など心因性のものもありますが、最大の原因は、ストレスや不規則な生活などによる自律神経の障害です。【解説】坂田英明(川越耳科学クリニック院長・埼玉医科大学客員教授)

解説者のプロフィール

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坂田英明(さかた・ひであき)

川越耳科学クリニック院長・埼玉医科大学客員教授。埼玉医科大学卒業後、帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手を務める。ドイツ・マグデブルグ大学耳鼻咽喉科研究員、目白大学保健医療学部言語聴覚学科教授を経て、2015年、川越耳科学クリニックを開院。『フワフワするめまいは食事でよくなる』(マキノ出版)など、著書多数。YouTubeチャンネル「めまいにさよなら」で情報発信中。
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グルグルめまい(回転性めまい)は内耳の障害が主原因

めまいとは、自分や自分の周囲が動いていないにもかかわらず、動いているように感じる感覚異常のことを指します。そして、めまいのタイプは、周囲がグルグルと回っているように感じる「回転性めまい」と体がフワフワするような「浮動性めまい」とに大別されます。

回転性めまいは、主に「内耳」の障害が原因で起こります。耳の奥にある内耳という器官には、聞こえを担当する「蝸牛」と、平衡感覚を担当する「三半規管」と「耳石器」があります。

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内耳のうち、三半規管は回転運動を感じ取ります。リンパ液で満たされている三半規管の中には感覚細胞があり、頭がどのような方向や速さで動いたか、という情報をキャッチします。

耳石器は、体の傾きや直線運動を感じ取ります。耳石器には耳石(平衡砂)と呼ばれる炭酸カルシウムの結晶が入っており、体が傾いたり重力がかかったりして動くと、その動き方を感覚細胞が受け取り、体の傾き方や直線運動を感じ取ります。

ですので、内耳に異常が生じると、自分では動いていないのに動いていると感じられ、めまいが生じるというわけです。

BPPV(良性発作性頭位めまい症)

さて、回転性めまいで最も多い疾患は、「BPPV(良性発作性頭位めまい症)」です。これは本来、前庭の卵形嚢に固定されているはずの耳石がはがれて三半規管に入り込み、めまいが引き起こされるという疾患です。

特徴は、
①回転性めまいが数秒~数分間続く。
②吐き気を伴う場合はあるが、耳鳴り、難聴は伴わない。
③20歳以降はどの年代にも多い。
という3点です。

めまいが起こりやすいのは寝ている状態から起き上がったり、急に上を向いたりと、頭を大きく動かしたときです。

メニエール病

次に多い疾患は「メニエール病」です。これは内耳を満たすリンパ液が過剰にたまり、水ぶくれになる病気です。

特徴は、
①激しい回転性めまいが数時間続く。
②耳鳴り、難聴、嘔吐を伴う。
③片方の耳から不調が生じることが多い。
という3点です。

前庭神経炎

数は多くありませんが、「前庭神経炎」が原因でめまいが起こることもあります。これは内耳と脳をつなぐ「前庭神経」に炎症が起こる病気です。

特徴は、
①回転性めまいが数日間にわたり断続的に続く。
②耳鳴り、難聴は伴わず嘔吐は頻回。
③眼振(眼球が一方向にすばやく動いてから、それより遅い動きで元の位置に戻ることをくり返す現象)を伴う。
という3点です。

フワフワめまい(浮動性めまい)は自律神経の障害が主原因

次に、浮動性めまいについて説明しましょう。これは、「体がフワフワと浮いているような感じがする」「足もとがフワフワして足が地に着かない感覚」などと表現されるめまいです。

浮動性めまいは、めまいの症状としては一般的にあまり知られていませんが、実は非常に多くの人が悩まされています。

現在、日本にめまいの患者さんが約3000万人いると推定されています。このうち回転性めまいは800万~1000万人で、残りの実に2000万~2200万人は浮動性めまいです。回転性めまいが治まったあと、浮動性めまいを発症するという人も多くいます。

浮動性めまいは、ごく少数の例外(梅毒や結核の治療薬の副作用による内耳の障害)を除き、内耳は関与していません。そのため、耳鼻科で検査を受けても、「異常なし」「心因性(精神的な原因)のめまい」と診断されるケースが少なくありません。

しかし、うつや不安など心因性のものもありますが、浮動性めまいを起こす最大の原因は、自律神経の障害です。

自律神経には緊張時に優位になる交感神経と、リラックス時に優位になる副交感神経の2系統があります。交感神経と副交感神経は本来、ヤジロベエのようにバランスを取りながら活動しています。

しかし、ストレスや不規則な生活で緊張状態が続くと、そのバランスが乱れてさまざまな不調が現れます。その一つが浮動性めまいなのです。

そのほか、ストレートネックなど頸椎(首の骨)の異常も、浮動性めまいの原因となることがあります。発症してから2週間以内の急性期、1ヵ月以内の亜急性期の浮動性めまいは、ヘルペス(単純・水痘・帯状疱疹)なども原因と考えられます。不整脈も重要な原因です。

数は少ないものの、脳血管障害の後遺症として浮動性めまいが出ることもあります。 

画像: 自律神経の乱れや生活環境にも注意

自律神経の乱れや生活環境にも注意

私たちの体のバランス感覚は、両耳からの情報(平衡感覚)、目からの情報(自分がいる位置に対する感覚)、体の筋肉や関節、足底部からの情報(状況に応じて体を動かす深部感覚)、自律神経からの情報(ストレスや疲労の状態をキャッチする感覚)、という4種類の経路から送られてくる情報に基づき、脳が判断するものです。

目、耳、深部感覚、自律神経から送られてくる情報に誤りがあると、脳が混乱を来して、めまいが起こるのです。

そのため、めまいの治療では、めまいの原因疾患を正しく診断したうえで、患者さんの状態に応じた環境調整(生活習慣の改善など)やリハビリテーションなども必要になります。

内耳の異常興奮で耳鳴りが発症する

最後に、めまいと併発することも多い耳鳴りについても簡単に説明しておきます。

外から入ってきた音の振動は、まずは内耳の蝸牛で電気信号に変換されます。そして、神経を通り大脳に送られて初めて「音」として認識されます。

耳鳴りは、このルートのうち、内耳に「異常興奮」が生じて発症すると考えられます。突発性難聴やメニエール病といった内耳の病気や、神経・脳の障害、全身疾患や薬物障害など、いろいろな病気が原因となって起こります。

さらに毛染めや顎関節症、喫煙やカフェインの過剰摂取も、耳鳴りの危険因子となります。疲労や寝不足、ストレスによる自律神経の乱れも、耳鳴りを悪化させます。

コロナ禍の現在、めまいや耳鳴りに悩む人が増えています。これは、ストレスや家に閉じこもりがちな生活から起こる、自律神経の乱れも大いに影響していると考えられます。

耳の病気が原因の場合は、耳鼻咽喉科で適切な治療を受ける必要がありますが、慢性的なめまいや耳鳴りの改善、及び再発予防には、セルフケアも重要です。

自分のめまいや耳鳴りの原因を突き止めたうえで、症状に応じた治療やセルフケアを行ってください。

画像: この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年5月号に掲載されています。

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